三宅勝久(ジャーナリスト)

ジャーナリスト、ブログ「スギナミジャーナル」主宰。1965年岡山県生まれ。「債権回収屋…

三宅勝久(ジャーナリスト)

ジャーナリスト、ブログ「スギナミジャーナル」主宰。1965年岡山県生まれ。「債権回収屋G 野放しの闇金融」で第12回『週刊金曜日』ルポルタージュ大賞優秀賞受賞。2003年、武富士から損害賠償請求訴訟を起こされるも完全勝訴。『大東建託の内幕』『絶望の自衛隊』など著書多数。

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  • 記者クラブいらない訴訟

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    鹿児島県知事の記者会見に参加しようとしたフリーランスが記者クラブのバリケードで排除された! 「取材・報道の自由の侵害だ」とフリーランスが記者クラブを訴えた裁判が始まった。

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日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(17) 3章 「著作権裁判」の落とし穴 1

 示談交渉は決裂したが、私はまだ楽観していた。ここまで露骨な盗用なのだ。それほど困難はなく勝てるだろう。そう楽観した。ただ著作権侵害訴訟は勝っても賠償額が低いと聞いていた。弁護士に委任すれば費用のほうが持ち出しになる。勝っても金銭的には損をする。記事削除を潜り込ませた解決案はそうしたこちらの足元をみてきたと思った。ならばと、こちらにも考えがあった。本人訴訟だ。これなら費用は最小限ですむ。仮に10万円とか20万円の賠償額しか認められなくても金銭的に損することはない。示談交渉を委

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    • 日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(16) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」5

      1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15   それでも展望のみえる出来事もあった。中京大への告発と並行して朝日新聞出版に連絡をしていた。同社はO教授の問題の著作『奨学金が日本を滅ぼす』の出版元である。2020年7月30日、同社のU氏から電話で返信があった。「私が正式に窓口になって対応していきたいというご挨拶をさしあげます」と丁寧な口調でU氏はあいさつをし、説明をはじめた。以下はそのときのやりとりである。 U いまのステータスとしてはですね、ま

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      • 日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(15) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」4

        1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14   もはや「疑惑」ではない。故意による盗用だ――私は確信を深めた。奨学金問題対策全国会議代表で中京大教授のO氏による著作盗用は十数件を数えた。私は、失望とも怒りとも言いかねる複雑な感情にとらわれた。サラ金問題や、奨学金ローン問題についてともに協力して取り組んできたはずの組織からツマハジキにされたばかりか、その代表者の学者によって繰り返し盗用被害を受ける。さらに、それを指摘すると本人は苦しい言い逃れに終始し、周

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        • 日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(14) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」3

          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13  自分の書いた文章をすべて暗記することは私にはできない。しかし、他人の文章のなかに自分が書いたものがあれば気がつく。文章を書くという作業は考える作業だから、思考の過程を喚起するのかもしれない。私は、過去に自分が書いた記事のスクラップを調べてみた。やはりそうだ。O教授が引用した「講演レジメ」は、2012年4月発行の雑誌『選択』に私が無署名で書いた次の記事と瓜二つだった。  あえて違いを探すなら、『選択』記事の「へ消

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        日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(17) 3章 「著作権裁判」の落とし穴 1

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        • 記者クラブいらない訴訟
          11本

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(13) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」2

          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12  あきれたことには、私の誤記まで忠実に転写している。私が書いた上の文章のうち「2012年度」とあるのは、じつは「2011年度」の誤りだ。その点について、O氏の『奨学金が日本を滅ぼす』でも、「2012年度」と同じまちがいをしている。オリジナルのデータをもっていればまずあり得ないミスだ。失望とも怒りとも言いかねる複雑な感情にとらわれ、とても冷静でいられなくなった。  小豆島から岡山に戻った。頭の中はO教授の「盗用疑惑」でいっ

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(13) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」2

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(12) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」1

          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 13  2020年7月。奨学金問題対策全国会議から再入会を拒否された事件から1年がたった。この年の夏はいつもにまして酷暑だった。武富士問題でかつて世話になったN弁護士に諭されて、再入会拒否についての抗議をいったんは封印した。だが暑さにうだっていると、忘れかけていたいやな気持ちがよみがえった。  もっとも1年前よりは少し冷静になってものを考えられるようになった。なぜ私の入会を拒否するのか、本当に「一括請求」が拒否理由なんだろうか

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(12) 2章 「O教授の“丸写し“発覚する」1

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(11) 1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 5

          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 12  クレサラ対協のメーリングリストを通じて一冊の資料集が流れてきたのは2019年の夏のことだった。資料集の中に奨学金問題対策全国会議の報告書が入っていた。40頁もある本格的なものだ。ざっと目を通した私は、「一括請求」の文字を見つけ、思わず読み入った。

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(11) 1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 5

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(10)1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 4

          1 2 3 4 5 6 7 8 9 11  2016年1月某日、私は奨学金問題対策会議を退会することを決意し、次のようにあいさつ文を全国会議のメーリングリストに投稿した。

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(10)1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 4

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(9) 1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 3

          1 2 3 4 5 6 7 8  私は別の質問をすることにした。 「5条4項を適用した後、たとえば支払督促(裁判)をした。その後連絡がついて、明らかに支払能力がないことがわかった。支払猶予制度を申請すれば適用できる状態だとわかった。こういう場合、5条4項を撤回することは制度上可能ですか」。 「それはいま回答できないですね」  日本学生支援機構の広報課員はそう答えた。私は質問を重ねる。 「わからないまま運用されているんですか」 「その細かい個別具体的な話はできない」  広報課

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(9) 1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 3

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(8)1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 2

          1 2 3 4 5 6 7 9  取材を進めると別の事件に行き当たった。難病で貧困状況にあるにもかかわらず容赦ない取り立てを受けた都内の女性B(26歳)さんのケースだ。日本学生支援機構から530万円の一括払いを求める裁判を起こされていた。訴訟記録によれば、概要は次のとおりである。  Bさんは2006年4月に大学に入り、10年3月に卒業した。学生時代の4年間、毎月10万円、計480万円を日本学生支援機構から借りた。年利1・089%の第二種で、返還は月々2万2373円の240回

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(8)1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 2

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(7) 1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 1

          1 2 3 4 5 6 8  大内裕和教授と面識をはじめてもったのは、T大学の「研究不正事件」の取材をはじめる約2年前、2013年3月のことだ。当時私は彼の名前を知らなかった。「奨学金問題対策全国会議」という市民団体がつくられ、私は入会した。この会の代表が大内氏だった。全国会議の母体は「クレサラ対協」(「クレジットサラ金問題対策協議会」=後に「全国クレサラ・生活再建問題対策協議会」と名称変更)という多重債務問題に取り組む法律家や自助グループの団体だ。ヤミ金融やサラ金問題の取

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき(7) 1章 「奨学金問題対策全国会議」入会拒否事件 1

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件6 

          1 2 3 4 5  裁判記録を読みながらふと気づいたことがあった。特許問題だ。争点のひとつになっている。1995年にI氏は特許庁に対して実験装置の特許申請を出している。装置作成の資金は公費だ。JSTが出している。金額は不明。O氏らは、調査をするなかでこの特許申請にある矛盾があることを発見する。申請書には、じっさいに装置をつかって金属ガラス鋳造の実験を行い、成功したとの報告書が添付されている。30ミリ径の金属ガラスを作成したという報告だ。そこに金属ガラスができた証拠としてX線

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件6 

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 5

          1 2 3 4  訴訟は静かに進んでいた。30ミリ径の「金属ガラス」ができたとはとても思えない。訴訟でのやりとりを通じてそんな印象をさらに強めたO氏ら被告団は、決定打として次の内容の求釈明を行った。  「2007年論文の実験ノート、資料、装置を開示せよ」  原告I氏側から次の回答があった。 「東日本大震災の影響で廃棄した」  T大学は津波被害にあっていない。I側の説明によれば、研究室の水道管が破裂して資料が濡れたなどということだった。  ――にわかに信じがたい説明ではないか

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 5

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 4

          1 2 3  はたして、この調査結果は騒ぎを拡大させ疑問を噴出させることになる。疑問の中心は「2007年論文」の信用性にあった。筆頭著者はI総長。大型金属ガラスの鋳造はできるのだ、再現性はあるのだ――そう証明したとされる論文だ。だが実験方法がおかしいとクレームがついた。調査対象となった4論文と大きく異なっている。  93年論文はもっとも原始的な「水焼入れ法」だった。石英製の試験管に金属の素材を入れてバーナーであぶって加熱し、溶解したところで水につけて急冷する。その後の95年

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 4

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 3

          1 2  文部科学省に匿名の告発があったのは、I氏の日本学士院会員選出から半年あまりが過ぎた2007年8月のことであった。 (引用はじめ)  文部科学省 科学技術・学術政策局 基盤政策課 不正防止等担当窓口御中  平成19年8月17日  担当者殿  T大学の諸先輩から脈々と受け継がれている本学の伝統的な研究スタイルは、地道に実験等を積み上げることでそれぞれの学術における基盤研究を展開し、同時に得られた結果を可能な限り社会に還元する道を探るという実学尊重の精神です。しかし、T

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 3

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 2

          1  小一時間かかって私はようやく、「金属ガラス」のおおざっぱな意味を理解した。そこから事件の本論に入っていく。長い小説のような物語であった。  ――T大学に金属材料研究所という研究施設がある。略して金研。「世界の金研」の異名をとる有名な研究所だ。かつてその所長を務めたM氏という研究者がいた。日本の「金属ガラス」研究の草分け的存在として知られる。

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          日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 2

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