日本を滅ぼす研究腐敗――不正が不正でなくなるとき――プロローグ T大学総長の疑惑の合金事件 4

 はたして、この調査結果は騒ぎを拡大させ疑問を噴出させることになった。疑問の中心は「2007年論文」の信用性にあった。筆頭著者はI総長。大型金属ガラスの鋳造はできるのだ、再現性はあるのだ――そう証明したとされる論文だ。だが実験方法がおかしいとクレームがついた。調査対象となった4論文と大きく異なっている。
 93年論文はもっとも原始的な「水焼入れ法」だった。石英製の試験管に金属の素材を入れてバーナーであぶって加熱し、溶解したところで水につけて急冷する。その後の95年、96年、98年の各論文は改良された「真空鋳造法」が用いられた。大型の装置を使って真空中で合金を銅製の型枠の中で溶かし、急速に冷却する。これらを再現したとされる2007年論文の実験は、従来の「真空鋳造法」を大きく改良した「キャップ鋳造法」だった。合金を入れた型枠に従来なかった蓋を取り付けている。キャップ鋳造法は水焼入れ法とも真空鋳造法とも大きく異なるから「再現したことにはならない」。そういう批判が沸き起こった。

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