きっと誰かは(短編小説)

  *

嫌われているのは、わかっていた。
そのことに、不満を感じたりしたことはなかった。むしろ、それでいいと思っていた。
自分は、みんなとは違う。
みんなと同じにはなれない。
だから、これでいいのだと。
しかし、今――。
「わたしは、あなたが好き」
そう言って、微笑む少女。
その微笑みに、思わず見とれてしまう。
ずっと、自分のことなんてどうでもいいのだと思っていた。
自分なんて、いてもいなくても変わらない存在だと。
でも、彼女は違うという。
自分がいなければダメだと、そう言う。
「……っ!」
彼女の言葉を聞いた瞬間、胸の奥からこみ上げてくる感情があった。
それは、とても温かくて、優しくて、心地よくて……。
そして、何よりも嬉しかった。
それが、どんな気持ちなのかは、わからない。
だけど、確かに感じたのだ。
彼女が、自分にとってかけがえのない存在であることを。だから、言わなければならない。
彼女に、自分の気持ちを……。
「あ、あの……」
だが、上手く言葉が出てこない。
すると、少女がそっと手を伸ばしてきた。
「大丈夫、ゆっくりでいいよ」
優しく微笑みながら、少女の指先が頬に触れる。
その瞬間、心臓が大きく跳ねた。
顔が熱くなり、思考がまとまらない。
それでも、少女は待ってくれている。
だから、なんとか声を絞り出した。
「ぼ、僕も……好きです」
やっとのことで口にした言葉。
それを聞いた瞬間、少女の笑顔が輝いた。
「うん! 知ってるよ!」
そう言うと、再び抱きついてくる少女。そんな彼女を抱きしめながら、思う。
この気持ちは、なんだろう? この胸の高鳴りは、なに? 今まで、感じたことのない気持ち。
もしかしたら、これが恋というものなのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕は彼女を抱きしめる腕に力を込めたのだった。

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