見出し画像

カレーの「つくり方」ではなく「ものさし」を授ける教室|水野仁輔さんの料理教室に参加して

昨日、憧れのカレースペシャリスト・水野仁輔さんの料理教室に参加してしまった。「しまった」というのは別に悪い意味ではなく、ついにここまできた、という感動の表現である。

カレーをスパイスからつくるようになったのは数年前から。きっかけは確か「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)」のサイトで水野仁輔さんのコンテンツを読んだことだったと思う。

あらゆるカレーを食べ歩き、自らつくり、書籍を出版し、ついにはカレー専門の出版社まで立ち上げてしまう。こんなにもカレーへの愛と探究心の強い人がいるんだなあ、という驚きと「カレーって一から作れるんだ」という大きな気付きがあった。

それからほどなくして水野仁輔さんによる『カレーの教科書』という本を購入し、三浦のカレーづくりは幕を開けたのだった。それまでは市販のカレールーに少々余分にスパイスや隠し味を足してオリジナリティのあるカレーづくりを目指していたが、ちょうどその限界を感じ始めていた矢先でもあった。一からつくるという発想はとてつもなく魅力的で、書籍を参考に幾度となくカレーをつくった。

やがて業務用のスパイスを購入するようになり、今年になってスパイスを自分で育ててみたいと思い、いろいろ栽培にも挑戦している(ほとんど失敗中だがコリアンダーだけは大成功)。もちろんその折々で水野さんの掲載されているウェブコンテンツやその他の書籍もチェックした。

そうして数年が経った先日、Facebookを見ているとあるニュースが三浦の目に飛び込んできた。松江で行われるコーヒーとカレーとチョコレートの祭典「C!C!C!」に水野さんが出店するというではないか。

そしてもう一つ目にしたのが「料理教室開催」の文字。これは・・・行くしかなさすぎる・・・と急いでメールで申し込んだが時すでに遅し。とうに満席になっていた。悔しいが仕方がない、せめてカレーだけでも食べに行こうと思っていた。

しかし直前になって「キャンセルが出たからご参加いかがですか?」とのご連絡をいただき、なんと参加できることに!うおおおお!!(後から分かったのはこのキャンセルしたのが群言堂の同僚こもりんで、出張が入ったためやむなく欠席となったということであった。残念だがありがとうこもりん。)

そのようないきさつで、ついに水野さんとの対面が叶ったのであった。嬉しすぎてそれだけでカレー愛が深まった気さえする。

今回会場となったのは松江のカレー屋さん「KARLY禅」。初めて行ったので場所が分からず数分遅刻するという失態を犯してしまう。とても素敵な空間でメニューも美味しそうだったので、またゆっくりカレーをいただきに伺いたい。

すでにホールスパイスと刻みにんにく・しょうがを炒める香ばしい匂いがしていた。

3グループに分かれ、それぞれ使用するスパイスや水分・うまみも変えながら基本のチキンカレー、ヨーグルトのチキンカレー、ココナッツミルクのチキンカレーをつくった。

まず最初の驚きは玉ねぎは細かく切らず、しかも炒めないということだった。ざっくりと串切りにした玉ねぎを先ほどのホールスパイスなどを炒めた鍋に入れて軽く油をなじませ、簡単に塩を振ってから水を入れて軽く蓋をするだけ。あとは水分が飛んできたら焦げ付かないように底を時々こするのみである。

詳しくは割愛するが、要は玉ねぎを炒めるという過程はいかに水分を飛ばし旨味を凝縮させるかというところが重要なので、わざわざみじん切りにしたり、長時間炒めたりしなくても別の方法で、しかもよりおいしいやり方でできるのだということだった。

その他にもホールスパイスは味の奥深くに漂う香り、パウダースパイスはより表面に出る香りという使い分け、また水を加えるのは味を薄めるということにもなるので、実は水を加える前が一番旨味が濃いのだということなど「なるほど!」と腹に落ちて印象に残った(ちなみに水野さんは水分多めのシャバシャバしたカレーがお好きとのことで、ただ旨味が濃ければいいというものでもなく、人の好み次第ともおっしゃっていた)。

三浦が本で見ていたつくり方とも少しずつ違う点があって、本ではトマトを入れて水分を飛ばしてからパウダースパイスを加えていたのに対して教室では先に入れていた。そのことに関してはこちらの記事でも言及されているが、どちらが正しいという訳ではなく、どちらにするかによって最終的な香りの出方が変わるのだという。

最終的に出来上がった3つのカレーはどれもおいしかった。でも個人的には自分が所属したグループのココナッツミルクを使ったカレーが一番おいしく感じた。きっと参加者一人ひとり違う感想を持ったのではないだろうか。

カレーに正解はないということ。それがこの教室を通して教わったことだと思う。おいしいカレーというのは一つではなくて人それぞれ違うものだから、水野さんは単にレシピ通りにカレーをつくることを教えるわけではない。

ただ基準となるものがないとその後自分好みにデザインすることもできないので、一つ一つの工程を行う目的(例えばなぜ玉ねぎを脱水するのか、なぜこのタイミングでスパイスを入れるのかなど「こうすればこうなる」ということ)を伝えながら自分なりのものさしを持つことを教えてくれるのである。

何よりすごいと思ったのは、水野さん自身も常に進化していて、教室ではその「現在地」から見ていることを惜しみなく教えてくださることである。実際に以前書籍で見たつくり方との違いもあったし、今回の玉ねぎの脱水方法もしかり、試行錯誤の末に辿り着いた「今」のつくり方が学べるのだ。だからまた教室に参加する機会があればきっと違うやり方で、その時の到達点から見たことを学べるはずである。

ものさし=価値基準

ものさしとは価値基準のことである。価値基準をつくるのは物事の本質に触れる経験や人との出会いだと思う。だから、今回のカレーづくりひとつでも馬鹿にできない。水野さんとの出会いと学んだカレーづくりのものさしを自分のものにして、自分なりのおいしいカレーをつくりたい。

なんだかカレーだけのことではなく、生き方にも通じるものがありそうである。他人との比較や誰かがつくった価値基準に沿って生きるのではなく、自分が純粋に良いと思うことを追求すれば今やっていることに目的が生まれ、幸せな人生が歩めるはずである。まだまだ悩み多きわが人生であるが、勇気をもらった良い経験であった。

水野さん、ありがとうございました。

<おわり>

追伸

↑は今年出たばかりの水野さんの新刊書籍。水野さんの原点も振り返りながら、一つのカレーのレシピをエッセイ形式で綴っている。レシピは普段は書かない細かいこだわりも詰め込んだ手間のかかるカレーとのこと。近々三浦も挑戦してみようと思う。

ちなみに教室が終わった後にスパイス栽培について水野さんに伺ったところ、本州でも育たないことはないが、やはり鹿児島や沖縄のような温かい地域でないと難しいとのことだった。ならばなんとか島根でもできるスパイスを見極めて作るのと、山に生えている野生のスパイスを代用品にしたカレーに挑戦したいと目標を新たにした。がんばるぞ!