レシピやグルメ情報、料理や食文化に関する考察など、食にまつわる記事をまとめていきます。
水野仁輔
水野仁輔がカレーにまつわるさまざまな問題を取り上げ、実験したり考察したりします。ここには疑問や気づき、発見、逡巡の経過はありますが、正解はありません。真面目な問題も不真面目な問題もあります。お楽しみください。
カレーのオープンソース化プロジェクト。もっとカレーを楽しみたい! と思ったとき、カレーのレシピやスパイスの配合がカンタンに手に入ったらいいのにな、と思います。たとえば、いつか、世の中のカレー店さんが、カレーのレシピをすべてネットに包み隠さず公開する日が来たらどれだけ素敵なことだろう。ここでは、水野仁輔以外のカレーシェフが教えてくれたレシピを公開します。
カツカレーには色々と好みがある。 とんかつ店のカツカレーと洋食店のカツカレーとカレー店のカツカレー、どれが好きかみたいなことはこの記事にも大昔に書いた記憶があるけれど、僕は、やっぱりしゃばしゃばっとした形状のカレーソースにこんがり揚げたとんかつの組合せが好きだ。 カツがしっかりした味わいがあるからか、どろっと濃厚で重たいカレーソースだと食べていて途中からしんどくなってくる。 それでいえば、カレーソースの形状以外に風味もスパイシーで切れ味の良いものがいい。 オリジナルのカツカ
塊肉に塩をふり、しばらく置いておく。 最初の10分ほどで肉の表面にあった塩は溶ける。 その後、1時間、2時間、3時間と時間が経つにつれ、溶けた塩は、肉の中に浸透していく。 結果、肉の中心まで塩味が届くことになる。 この不思議な効果を使って、いつも僕は塊肉をおいしく調理している。 肉にふりかけ、漬け込むのが、塩だけでなく、スパイスも一緒だったらどうなるのだろうか? いわゆる“マリネ”をすることになるのだけれど、この手法について、長い間、僕は勘違いをしていたかもしれない。 塩味
「スパイスとは、文章における句読点のようなものだ」と言ったのは、フランスで“スパイスの魔術師”と呼ばれている、オリヴィエ・ローランジェ氏である。その素敵な表現に習って、僕はとある本の中で「スパイスとは、メタファー(隠喩)である」と書いた。いずれにしても、なければないで意味は通るが、あったほうがより情感豊かに届けられる、みたいな存在なのだと思う。 おいしい肉が手に入ったとき、「塩だけ振って焼くのが一番」みたいな気持ちになったりするのだから、そこにスパイスを加えるかどうかは、
カレーにおける“ココナッツ度”について考えている。 ココナッツミルクを使ったカレーのレシピは無限にある。コクと油分のうま味、甘みやその風味に特徴があるから強い味方だが、入れ過ぎるとココナッツミルクだけがボロ勝ちするみたいな味わいのカレーになってしまう。そこで、常套手段としてココナッツミルクと水の割合をカレーごとに決めて作ったりする。 400mlの缶詰めを開けて半分しか使わない、みたいなレシピを山ほど生み出しているものの、「残りのココナッツミルクはどうすればいいの?」という
レシピ本の表現として、新しい手法を見つけたような気になっている。それを具現化した本を作った。『フセインのインド料理プログラム 54レシピ』である。特徴は、“プロセスカットを大量掲載している”点にある。 映画や漫画のコマ割りのような、フィルム写真のコンタクトシートのような。とにかくプロセスカットがずらりと並んでいる。通常のレシピ本の場合、完成写真以外にポイントとなる途中の写真は数枚掲載されることが多いが、この本に関しては、54レシピに対して掲載したプロセスカットは、1,500枚
ここ数年、いや、もっと長い間、カレー専門店の数は、きっと増え続けていると思う。 お店をやるからには、利益を出したい。儲けたいかどうかは別として、店を存続させるのに必要な資金が恒常的に必要になるからだ。 僕がライフワークとして実施し続けている「カレーの学校」では、何期かごとに「儲かるカレー店の作り方」という人気授業がある。一定の成功をおさめているカレー専門店のオーナー(シェフ)をゲストに迎え、90分間の対談をする。この授業ばかりは現役生のみならず、卒業生の特別聴講も可能にする
このチキンカレーを作るときに玉ねぎをみじん切りにするのに、あのフィッシュカレーを作るときに玉ねぎをスライスにするのは、なぜですか? 何度この質問をしてきただろう? 納得のいく回答を得られた記憶はなかった。「そういうカルチャーなんだから」と納得するしかない状況が続いたが、「サイエンス視点ならそういうことになるのか」と納得する方法はないのだろうか? と取り組み続けてきた。 この問題にサイエンスで回答するなんて、科学者でもない僕には不可能だが、それに近いアプローチで実験を繰り返
今月、いよいよ今年の新刊が発売される。 『スパイスカレーの基本』水野仁輔著(PIE International) https://www.amazon.co.jp/dp/4756256317 サブタイトルにはこうある。 「いちばんおいしい玉ねぎ使いのポイント&テクニック」 読者に共通する“いちばん”は存在しないのだけれど、“自分のいちばん”にたどり着いていただくために、現時点で玉ねぎについて表現できることはできる限り詰め込んだ1冊だ。 内容は折を見ておいおい紹介するが、
何年か前に「クラフトスパイス」というプロジェクトを始動した。チームを組んで研究を重ねているし、メンバーのひとりがなんとすでに自身の会社から商品化にまでこぎつけ、現在、クラフトスパイスは5種類のフレーバーで通信販売も行っている。塩とスパイス以外の人工的な調味料の類を一切使わないというストイックなものだ。 このプロジェクトのベースとなっているのは、スパイスの配合におけるメソッドのようなものである。世の中にスパイス(ハーブを含む)は無数にあって、配合を決めるのは極めて難しい。たと
人に表情があるように、カレーにも表情がある。 具体的には具の存在感、ソースの形状、色味など。目の前にカレーがある場合はともかく、そうでなければ写真や映像では香りが伝わらないから“カレーの表情”はとっても大事だ。人の表情にはその人の人柄がにじみ出る。人柄はその人の歩んだ人生が作るものだ。カレーも同じである。カレーの表情にはそのカレーの人柄(味や香り)がにじみ出る。カレー柄はそのカレーができあがるまでのプロセスが作るものだ。 レシピを提案するときにはたいていカレーを作り、写真
僕がカレーを作るときに欠かせないアイテムに「スケール」と「キッチンタイマー」がある。ご想像の通り、前者で重さをはかり、後者で時間をはかる。カレーの7つ道具に入れてもいいくらいだ。 ①鍋 ②木べら ③ゴムベラ ④包丁 ⑤まな板 ⑥スケール ⑦タイマー うん、やはりベスト7には入る。「作る行為」と「計測する行為」をセットにしておくのはとてもいい。おいしいカレーを作るコツに僕がいつも挙げる“よく観察し、自分のモノサシを持つこと”という点にも貢献する。そして、何より楽しい。やたら
スモークカレーには、苦い思い出がある。 スパイスを使ってカレーを作るときに割と僕がよく使うパプリカパウダーがある。あの香りがすごく好きなのだが、ヨーロッパ各地へせっせと出かけている時期、ロンドンやパリでは「スモークドパプリカ」をよく目にし、そのたびに買ってきていた。好きなパプリカの香りに好きなスモーキーフレーバーが加わるのだから、チャーシュー麺味玉乗せみたいなもので、非常に気に入っている。 こんなにいい香りなのだからカレーもさぞかしおいしくなるだろう、と使ってみたら、イメ
インドのバターチキンというみんなが大好きなカレーに最も適した隠し味が見つかったかもしれない。それは、きな粉なのかもしれない。「正月にお餅を食べながらふとそう思った」とかだったら話ができすぎているが、僕はお餅には辛味大根としょう油がいい。ただ、たまたま手元にあったきな粉をながめていてふと浮かんだことは間違いない。 AIR SPICEの今月のテーマは、「バターチキンカレー」である。「二度と同じスパイスセットは作らない」ことにしているAIR SPICEだが、あまりに人気が高いため
玉ねぎを丸ごとオーブンで焼いてからカレーを作ってみたところ、「丸ごと素揚げはどうですか?」という提案があった。なるほど、それはやったことがない。早速、挑戦することにした。 そもそも、玉ねぎを丸ごと素揚げにするという料理は、見たことがない。ステーキハウスみたいなところで、玉ねぎに切込みをたくさん入れて小麦粉をまぶし、花びらが開いたような形に揚げる料理をたまに見る。あれはあれでおいしいが、今回の素揚げカレーとは違う。玉ねぎを熱した油にドボンと入れて揚げるのだから。 玉ねぎを8
玉ねぎを切らない方がカレーがおいしくなるという仮説を自分なりに検証するために、様々な切り方をして実験を繰り返している。何度やっても、何人で試食しても、やはり玉ねぎは大きく切った方がカレーがおいしくなる。みじん切り、スライス、厚切り、角切り、くし形切り、とあれば、くし形切りがおいしい。要するに包丁を入れる回数が少なければ少ないほどいいということになるのだ。 ただ、ここで「おいしい」ということの定義があいまいなまま進めると、いろんな人から怒られそうな気がしている。ので、おいしい
カレーを作るときに玉ねぎはたいていみじん切りかスライスにする。なぜだろう? そんな疑問が生まれてから、もう6~7年は経過している。細かく切る必要はないんじゃないか、と思っていろんな切り方を試してみると、どうやらくし形切りの方がおいしくできる気がする。大量調理なら四つ割りでもいいくらいだ。皮を剥いて立てに2本包丁を入れるだけ。作ってみるとおいしい。 それだったら細かく切らないほうがいい。少なくとも自分がカレーを作るときにはそうしよう、と決めて5年ほどは経ったんじゃないかと思う。