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228.カレーに使うスパイスの投入順序はあるのか? 問題

今年レシピでは初の新刊が出ます!
その名も『世界一ていねいなスパイスカレーの本』です。

かつては『世界一やさしいスパイスカレー教室』という本を出しました。同じ編集者と作る第2弾的な1冊です。世界を知っているわけでもないくせに、「世界一」などと宣っている点はともかく、「○○カレーの本」という名前は気に入っています。
世界一かどうかはともかく、これまでのカレー本で最もプロセス写真を大きく多く掲載しているんじゃないかと思います。作るカレーは、超王道の7種にしぼりました。そこから展開させて30ほどのレシピは掲載していますが。

サブタイトルに『初心者でも失敗しないテクニックがいっぱい』とあります。
「失敗しない」とは、さすがに言い過ぎなのではないか、と個人的には思っていたんですが、撮影を経て不安は払しょくされました。今回は、カレー作りや料理になじみのない一般人を10名以上撮影現場に迎え、アドバイスなく僕のレシピでカレーを作ってもらいました。すると……、全員が失敗なくおいしいカレーを作れたんです。

これまで数多くのレシピ本を出してきて、僕が一抹の不安を抱いていたのは、「読者が何ができないのかがわからない」という点でした。「あ、そこでつまづくのか!」みたいなことにときどき遭遇したからです。読者の求めているものがわからず本を作るのは、ちょっと心苦しい。だから、今回は、僕が作る前にフツーの人たちに作ってもらったんです。どこで戸惑い、何ができないのかを探りたい。そう思って楽しみに撮影当日を迎えたら、全員おいしくできてしまった。すなわち、レシピの精度が非常に高い! ということになるんでしょーかね(自画自賛)。

冗談はともかく、僕にとって最も大きな発見だったのは、スパイスの投入タイミングだったんです。

15年近く前、僕はスパイスを使ってカレーを作るときに共通するひとつのルールを整理しました。ゴールデンルールというやつです。

1.    はじめの香り……主にホールスパイス
2.    ベースの風味
3.    うま味
4.    中心の香り……主にパウダースパイス
5.    水分
6.    具
7.    仕上げの香り……主にフレッシュスパイス

火が通りにくいものから通りやすいもの、という順でスパイスを加えていくのが鉄則としてきたんですね。「香→味→味→香→味→味→香」と重ねていくのがいいと説明してきました。今でもそれをベースにしています。でも今回は、初心者向け。世界一ていねい。失敗しない。ハードルを下げなければいけない、というように自分でハードルを上げてしまったため、7ステップじゃ大変すぎる、ということで、なんと3ステップに逆戻りさせました。

1.    炒める
2.    スパイスを混ぜる
3.    煮る

極めてシンプル。思い切ってそうしたんです。ただ、何の考えもなく「えいや!」としたわけではありません。長くなるから詳しい説明は割愛しますが、個々のスパイスに含まれる複数の香気成分は、常温よりも低い温度から揮発し始め、沸点である150℃前後まで香りを生み続けます。
どのスパイスがどの程度の香りを生むかは、調理時間によって変わります。10分でできるカレーと1時間かかるカレーがあったら、あるスパイスはどこかのタイミングで香りを出し切るし、あるスパイスはどこまでいっても香りを残し続ける。だから、基本的なルールとしては「火の通りにくいものから……」ということになるものの、カレーが加熱の連続の結果できあがるという前提の上なら、真ん中のタイミングでスパイスが混ざれば、それがどの状態でも(ドライでもフレッシュでも丸のままでも潰していても)、カレーにいい香りを生み出すということです。
(結局、そこそこ説明をしてしまっている……)

そんなわけで、このシンプルな手順に行きつきました。結果は、先に述べた通り。僕のお手本やアドバイスが不要なくらい、おいしいカレーが次々とできたんです。
「なんだよ、じゃ、ゴールデンルールの7ステップなんて、必要なかったんじゃないか」と思う人もいるかもしれません。でも、それは違います。理解して実力をつけた上で意図的に省略する行為は、デッサンを完璧に描けるピカソがゲルニカにたどりつくのと同じだからです(わかりにくいか、この例えだと)。基礎ができてから応用することが大事、ということです。
だから、初心者が本書で「簡単においしいカレー」を作れたら、その先は別の書籍で踏み込んで基礎を学んでほしい。おそらく、本書は、初心者たちがビギナーズラックを体験するのに最適な1冊だと思います。

初めての試みは成功しました。初めてついでに他にもユニークなエッセンスを入れています。それは、「ズル水野」と「てま水野」です。

あるカレーを作るとき、2通りの感情が芽生えます。
「本当はもっと楽な方法があるんだけどな……ズルをする水野」
「本当はここを頑張ればよりうまくなるのに……てまをかける水野」
2つのポイントをふんだんに盛り込みました。1冊通してお読みいただいた読者のみなさんは、きっと納得してくれるはずです。「ああ、確かに世界一ていねいな本だったな」と。

最後に、本書のタイトルを決めるとき「宇宙一」も候補に挙がっていたことを付け加えておきます。

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