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よりぬき伝奇さん

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これまでこのnoteに掲載した記事のうち、特におすすめの作品に関するものについて、よりぬいています。
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#江戸時代

平谷美樹『虎と十字架 南部藩虎騒動』 猛虎脱走! 混沌の謎の行方は 

平谷美樹『虎と十字架 南部藩虎騒動』 猛虎脱走! 混沌の謎の行方は 

 時代小説と歴史小説を中心に活躍する平谷美樹ですが、時代小説においては実はミステリ色が強い作品を得意とする作家でもあります。本作はそれが前面に出た作品――家康から拝領した二匹の虎の脱走を巡って南部藩を揺るがす複雑怪奇な騒動に、藩の徒目付が挑みます。

 かつてカンボジアから徳川家康に贈られた二匹の虎・乱菊丸と牡丹丸を拝領し、盛岡城内で飼っていた南部利直。しかしある晩、この二匹が檻から脱走するという

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乾緑郎『戯場國の怪人』 史実と虚構、この世とあの世を股にかけたスーパー伝奇

乾緑郎『戯場國の怪人』 史実と虚構、この世とあの世を股にかけたスーパー伝奇

 ミステリと並行して独自の時代伝奇小説を描いてきた作者によるオペラ座の怪人オマージュ――に留まらない、凄まじい奇想に満ち満ちた物語です。女形の溺死の謎を追ううち、市村座に潜む謎の怪人と対峙することになる平賀源内や深井志道軒たち。一連の怪事の背後に潜む「戯場國」の驚くべき姿とは……

 宝暦十三年の夏、舟遊びをしていた市村座の役者たちの一人・荻野八重桐が怪死した事件を、作品にするよう依頼された戯作者

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仁木英之『モノノ怪 執』 時代小説の文法で描かれた『モノノ怪』

仁木英之『モノノ怪 執』 時代小説の文法で描かれた『モノノ怪』

 2022年はアニメ『モノノ怪』15周年ということで様々な動きがありました。それは2年後の現在(2024年夏)公開中の『劇場版 モノノ怪 唐傘』に結実しているわけですが、この15周年時の大きな収穫が、スピンオフ小説『モノノ怪 執』であったことは間違いありません。
 全六話が収録されたこの小説版を担当したのは、なんと歴史・時代小説でも活躍する仁木英之――実力派であると同時にマニア精神をよく知る作者だ

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大塚已愛『鬼憑き十兵衛』 少年復讐鬼とおかしな鬼の、直球ど真ん中時代伝奇小説

 日本ファンタジーノベル大賞受賞作にして直球ど真ん中の時代伝奇小説――松山主水の息子・十兵衛が美貌の鬼の力を借りて繰り広げる仇討ちが、やがて思いもよらぬ壮大かつ壮絶な妖戦へと展開していく、キャラ良しストーリー良しの快作が本作であります。

 寛永12年、傷を受けて療養中のところに闇討ちを受け殺された、細川忠利の剣術指南役・松山主水大吉。しかしその直後、下手人の浪人たちを次々と討ち果たしていく、獣じ

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西條奈加『雨上がり月霞む夜』 雨月物語を生んだ怪異と友情

西條奈加『雨上がり月霞む夜』 雨月物語を生んだ怪異と友情

 怪談文学、いや江戸文学史上に重要な位置を占める上田秋成の『雨月物語』。本作『雨上がり月霞む夜』は、秋成とその親友・雨月、そして兎の妖という、おかしな二人と一匹によって語られる雨月物語誕生秘話とも言うべき物語です。

 おそらくは怪異怪談を愛する方であれば、一度は読んでいるであろう『雨月物語』――「白峯」「菊花の約」「浅茅が宿」「夢応の鯉魚」「仏法僧」「吉備津の釜」「蛇性の婬」「青頭巾」「貧福論」

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