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詩『あかい線路はつづく』

たましいを乗せた電車が血管でできた天井を通り過ぎてゆく、補色の納期が叫ぶ、電車の質感が味のないチューイングガムに変わってゆく、(flavor……)、味は変化する、香料はいきものだから、永遠にはつづかない、蒸発していった季節の匂い、残り香の尻尾の空欄を噛む、信号が点滅している、天国から黄色い梯子が降りてきて、写真のコラージュでできた四つ角をちらつかせる、年齢が停止したにいさんの断片が色褪せてゆく、分解された時計、乾電池が転がり始める、両腕にできた楕円形の内出血が踊っている、レシーブした日々が研磨されて、すこしずつすり減ってゆく、ガーベラの花束を打ちつけたら、花瓶のみずがかわいてゆく、病室の空気がうわついて、熱帯魚のように、電灯が揺れている、

(泡、またあぶく……)

水溶性のビーズを繋いでゆく、端から溶けていって、炭酸水になった、しゅわっ、喉が痒い、食堂車が乱れている、皿とナイフとフォークの狂騒曲、凪のないからだ、体内のショーケースで、熱帯魚はピラニアになった、去っていった天使が喧嘩している、ざわつく羽根、むしられた記憶、囓られた寿命、川がエメラルドグリーンに反射して、胸の果実に潜り込む、薄いガーゼで覆われた雲、蜘蛛の絶え絶えな呼吸、緯度と経度で真珠を編む、アムステルダムの合唱、教会のひかりに透けたステンドグラス、透過された太陽、昇る、沈む、昇る、二等辺三角形の角度、医療ヘリが肺を縫う、腕時計が膨張して、膝関節が翳ってゆく、聴診器に喋りかけて、呼び出し音が鳴り続ける、

(泡、さらにあぶく……)

真っ黒に塗りつぶされたスクリーン、ティンパニが輪切りにされた、(検査、再検査……)、レントゲン技師が昼食を中断させられる、改ざんされた記録、修正された数値、破られたノートの歯型、柩に並んだ挨拶のことばには、涼しい肌ざわりがひかっている、日陰、昼下がりの通路、足音だけが響いている、あおざめた海豚がジャンプした、枕木が反抗している、水飛沫、習字のはねが赤字で訂正される、夏の課題は暗礁に乗り上げた、座礁、電車は点検のために停車した、星屑のシャワー降り注いで、連結部を染めてゆく、内部を血液が循環している、パーカッションの波形と波動は、クレッシェンドで接近してくる、車掌は俎板のうえで、医師の宣告を真っ二つに切った、

(あぶくを吐きながら、)
(電車がまた走り出す、)
 

photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、たくみんさん)
photo2:unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾

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