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その空間は「どの」体験の「どこ」にあるのか(公開:商店建築連載「商業空間は公共性を持つか」2021年3月号)

雑誌「商業空間」の連載「商業空間は公共性を持つか」にて、
これまで10回にわたって商業空間の運営者や設計者、技術者と議論を交わし、
6つの商業空間について「オルタナティブ・パブリックネス(生活の上で所属する大小さまざまな空間と人間関係のまとまり)」という概念を通して読み解いてきた。
2021年3月号では「体験」をキーワードに、これまでの連載を振り返りつつ、商業空間の公共性を解釈している。
今回はその内容をこのnoteでも公開することとなった。


01. 公共性の個性を読み解こう

これまでの連載を通して感じるのは「商業空間は多岐に進化している」ということだ。
商業空間の主題は、にぎわい、つまり利益を生むことだ。
多くの場合、連載で述べるような「公共性」は、にぎわいによって生じる副次的なものとして扱われることが多かったように思う。
もちろん「利益を生む」ことはとても重要で、連載で扱った店舗も効率的に利益を生み出している。

しかし「何をもって効率的か」ということが、経営者や運営者の持つ哲学や技術によってさまざまに進化しており、
それは彼らが志す公共性の「質」と見ることもできる。

連載初回に提示した「オルタナティブ・パブリックネス」は公共性の質の多様性を評価する概念だったが、
具体的な事例を伺うにつれ、その質をただ「多様である」と表現するのではなく、「それぞれがどう個性的なのか」という、質の内実に踏み込むべきだと考えるようになった。
オルタナティブ・パブリックネスについては以下リンクを参照)

そこでまずは、これまでに話を聞いた6つの事例を、「規模」、「目的地か過程か」、「目的の数」で分類してみよう(表1)

連載11回目_図1-修正_210320

(表1)各商業空間の分類

規模」は空間の大きさを指す。
「ユニクロパーク横浜ベイサイド店 / ジーユー ユニクロパーク横浜ベイサイド店(以下“ユニクロパーク“)」(20年8月号)のみを中規模とし、そのほかは小規模、もしくは小~中規模とした。

目的地か過程か」は、その空間自体が目的地か、それとも目的の過程に位置しているか、ということを指す。
多くの商業空間は前者だが、「b8ta」のようにすでにある商業の流れの途中に空間を位置付けたり、「夷川サローネ」のように商業的目的を直接埋め込まず、生活の中に位置付けようとする事例も存在する。

目的の数」は、その空間を利用する目的が一つか、複数かということを指す。
「b8ta」は物販という目的にのみ属しているのが、「喫茶ランドリー」(18年5月号)や「食堂付きアパート」、「フルーツショップaoki/フルーツピークス福島西店(以下“aoki”)」は意図的に複数の機能を建物に埋め込み、利用者の目的を複数化している。
「ユニクロパーク」は物販の他にオープンスペースを屋上に持つが、物販の利用を前提として構成しているため、「単数~複数」とし、「夷川サローネ」は来客が営む生活によって別の行動が展開されるので、「複数」とした。

02. 「体験」から見る商業空間

これらの事例を「体験」をキーワードに解釈してみる(凡例、図1~6)。

私たちはさまざまな体験の中に生きている
仕事や買い物、食事など、それぞれが独自のリズムを刻み、連続し、循環する個性豊かな体験だ。
そして人の営みが交差する以上、商業空間も何らかの体験と関係している(凡例)

連載11回目_図版_凡例

(凡例)空間と複数の体験

まず「ユニクロパーク」は「家族で訪れ、子供を屋上で遊ばせつつ服を買う」という体験の流れを持っている(図1)

連載11回目_図版_UNIQLOPARK

(図1)ユニクロパークの体験

一方「b8ta」は、体験を内包するというよりも、「商品を買う」体験の一過程である「商品と出会う」場所としての意味合いが強い(図2)

連載11回目_図版_b8ta

(図2)b8taの体験

「喫茶ランドリー」と「食堂付きアパート」は「喫茶/食堂を利用する」という目的を内包しつつ、「コーヒーを飲む横でランドリー/住宅・オフィスなどの人と出会い会話をする」といった、他の誰かの日常生活にも同時に位置付けられる(図3、図4)

連載11回目_図版_喫茶ランドリー

(図3)喫茶ランドリーの体験

連載11回目_図版_食堂付きアパート

(図4)食堂付きアパートの流れ

「aoki」は同一空間内に飲食と物販があり、両業態が体験を同時に提供する(図5)

連載11回目_図版_aoki

(図5)aokiの流れ

「夷川サローネ」は運営する「mui Lab」への訪問自体を目的とした、ビジネスの体験を内包している一方、井戸端会議や散歩の途中のワンシーンといった日常生活の流れの一過程にもなり得る(図6)

連載11回目_図版_夷川サローネ

(図6)夷川サローネの流れ

体験をまるっと内包しているか、体験の一過程にのみ位置しているか」ということと、
単一の体験とのみ関係しているか、複数の体験に同時にチャネル(channel)を開いているか」という2点で、
事例ごとの違いが見えてくる。

03.「社会に必要な空間」と「自由にふるまえる空間」

では、「体験」を軸にした商業空間の図を、どう公共性の評価に結び付けられるか。
これには「①体験が社会問題や需要に応答しているか」と「②体験を自由に選択できるか」の2点で、各事例の公共性を表現できるだろう。

①は「公園が不足しているエリアで公園と同等の体験ができるスペースを用意するという公共性」を想像してもらえば分かりやすいかもしれない。
地域社会や商業空間の利用者にとって不足している体験、もしくは体験の一過程を提供する商業空間であれば、それはある種の公共性だと考えられる。

②は「選択できる体験が多いほど、より自由に、その場所に居ることができる」という意味での公共性を指す。
もし商業空間が「商品を購入する」という体験を前提としていた場合、その体験に従った行動(商品を選んでレジで購入する、など)が求められる。しかし、もし「商品を購入しなくても滞在できる休憩スペース」があったら、「商品を購入するための行動」以外の行動を選択して、その空間に居ることができる。
選べる体験の数が多いほど、自分に合った行動を選ぶ自由が生まれ、選択の自由度が公共性の高さとして捉えられるだろう。

04. チャネルを多方にのばし、実空間のリソースを体験へと昇華せよ

空間を体験のどこに位置づけるか」と、「どの(いくつの)体験と関連させるか」は、
「社会に空間をどう適応させるか」という考えが「利益を生み出すための商業空間」という考えよりも以前に存在して初めて実現する

つまり、「商業的な効率があった上で、付加的に公共性」を考えるのではなく、
その空間独自の公共性を踏まえ、そこから商業の効率性を考える」という手順で商業空間を捉えることができるということだ。

そして現在「超-地方」をテーマにインタビュー行っている。
都心やその周辺は、人の種類や街中に既に存在する体験、資本といったリソースが潤沢なので、「体験」を社会的需要に適応させたり、複数の体験に空間を開くことが比較的容易だ。
一方、地方は一見するとリソースが少なく見え、都心的では見つからないようなリソースを発見し、体験へと昇華させる企画者、運営者、設計者の腕が試される。

地方だからこそ、公共事業にはない民間企業のスピード感、スケーラビリティが発揮されるだろう。

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MACAP代表 西倉美祝
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