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浄化の代償#青ブラ文学部

私が初めてこの村を訪れたのは、民俗学者としてのフィールドワークのためだ。この村は、外部との接触が少ない、平和で伝統的な村として知られている。村人たちは私を暖かく迎え入れ、古くからの風習について語ってくれた。

しかし、滞在が長くなるにつれ、私は違和感を覚えはじめた。
村人たちの笑顔の裏に潜む、何か暗い影のようなものを感じたのだ。そして、村の長老から聞いた一つの儀式についての話は、私の疑念を確信に変えた。

長老曰く、この村では数十年に一度、『浄化の儀』と呼ばれる秘儀が行われるという。その儀式の詳細については明かされなかったが、長老の口ぶりからは、何か恐ろしいものが暗示されているのは間違いない。

私は村人たちに問いただしたが、皆口をつぐんで何も言わなかった。
ただ、その目に浮かぶ、恐怖と諦念を私は見逃さなかった。

儀式の日が近づくにつれ、村は静まり返っていった。そして、満月の夜、森の奥から太鼓の音が聞こえてくる。森の中心にある広場に辿り着くと、私は言葉を失った。村人たちが円陣を組み、その中央で一人の少女が生贄として捧げられようとしていたのだ。

長老が刃物を掲げたとき、私は我に返った。「やめろ!」
私は叫び、人垣を掻き分けて中央へと走った。しかし、村人たちに取り押さえられ、身動きが取れない。

長老は狂気に歪んだ笑みを浮かべ、刃物を少女に突き立てた。少女の絶叫が森に響き渡る。

この儀式は、村の平和と豊作を願って暗々裏に行われていたのだという。村人たちは、生贄を捧げることで、恐ろしい何かから村を守っていると信じている。

私はこの村を去った。しかし、あの日の光景は今も私の脳裏に焼き付いて離れない。表向きは平和な村で、裏で行われている残虐な儀式。人の心の闇は、時に想像を絶するものなのだと、身をもって知った。

あれから私は民俗学者を辞め、警察に通報した。しかし、村に調査に入った警察は、何も証拠を見つけられなかったという。村は、何事もなかったかのように、今も平和に存在しているのだ。

だが私は知っている。満月の夜、森の奥から聞こえてくる太鼓の音を。村の暗い秘密は、今も静かに受け継がれているのだ。

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