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〜データで「人間」を理解する〜 名古屋大学との産学連携プロジェクト

マインディアは名古屋大学工学系研究科の河口研究室との産学連携を行っています。今回は連携をリードする河口研究室の米澤拓郎准教授とマインディアCTOの松倉に、産学連携のきっかけやこのプロジェクトで実現したいことなどを語っていただきました。(聞き手:マインディア平永)

米澤准教授プロフィール

名古屋大学大学院工学研究科准教授。愛媛県出身。2010年慶應義塾大学博士号取得(政策・メディア) 。2012年カーネギーメロン大学客員研究員、慶應義塾大学大学政策・メディア研究科特任講師、特任准教授などを経て現職。システム・ネットワーク・ヒューマンコンピュータインタラクションの交点に興味。日欧共同研究開発プロジェクト、独立行政法人情報通信機構ソーシャルビッグデータプロジェクト、 総務省G空間プロジェクト、内閣府SIP2スマートシティプラットフォーム事業等においてIoT・機械学習分析技術を活用したスマートシティに関する研究開発に従事。2009年IBM Ph.D Fellowship Award、2013年/2019年情報処理学会山下記念研究賞、2021年IPSJ/IEEE Computer Society Young Computer Researcher Awardなどを受賞。

松倉プロフィール

株式会社マインディアCTO。慶應大学大学卒業後、アメリカへの留学を経て帰国。ITベンチャーの創業期から参画し、「Cyta.jp」などのサービスのシステム開発から収益化までを行う。グリーでは主力プロダクトのシニアエンジニアとして従事。メタップスでは決済サービス「SPIKE」を開発・運用。

ー米澤先生と松倉さんの出会いを教えてください

米澤先生(以下米澤): 松倉さんとは研究室の同期でしたが、研究グループが違ったので最初に知り合ったのは飲み会でした。いきなりゼロ距離で話しかけてきたからびっくりした記憶があります。私はその当時、実空間のデータを使って人間をサポートする研究、具体的に言えば今では当たり前のようになっているスマートホームを構築するソフトウェアのフレームワークを作るようなことをやっていました。そのときに、ドクターの人が立ち上げた別プロジェクトを一緒にやるようになり、とても親密な関係になりました。ただ、松倉さんは卒業後すぐにアメリカに行ってしまったため、一緒にいたのは2年ほどでした。

松倉:そうでしたね。かなり体育会系の雰囲気のある研究室で、みんな布団を持ち込んで泊まり込んでいたので、家族のような感じの研究室でした。とはいえ、ずっと研究していたわけではなく、サーバーを立ち上げたりWebページを作ったりして、遊ぶ時間の方が長かったこともありました。

米澤:私は月に2〜3回しか家に帰っていませんでした(笑)。でも、2年間しか一緒にいなかったにもかかわらず、非常に濃密な関係になったように感じます。私の弟にプログラミングを学ばせるため、松倉さんが昔勤めていた会社に預けて育ててもらったこともありましたね。

学生時代、松倉さんは今でも研究されているような位置情報の分析などの研究をしてましたよね?

松倉:そうですね。そこからエンジニアのキャリアを挟んで今はCTOとしてデータの世界に戻ってきましたが、20年前に研究していた当時とデータをどう活用するかという基本的な考え方は何も変わっていないような気がします。

ー今回の連携を始めた背景を教えて下さい

米澤:前提からお話しすると、CREST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)のプログラムで、異なるプラットフォーム間でペルソナを転移させることを目標にする研究グループがあり、その中で我々はブログウォッチャーさんの位置情報のデータとかを使ったオフラインのデータ分析を担当していました。実はマインディアとのプロジェクトが始まる半年前くらいに松倉さんからデータの紹介を受けていて、そのときは何かに使えるかもな、くらいに思っていました。しばらくして、オンライン世界がどんどん拡大していく中でオンラインで作ったペルソナを実世界に拡張したり、その逆に実世界のペルソナがオンラインに拡張したりするっていうのが研究ロードマップの中に出てきて、そこでマインディアのデータのことが頭に浮かんで使ってみたいなと思ったのがきっかけです。

松倉:マインディアとしては創業当時から産学連携に対して前向きで、今回提供したデータとは別に保有している大量のインタビュー動画データを使って、何かしらの学術的発見を目指していた時期もありました、例えばインタビュー中にその人が嘘を言っているかどうかを判別したり、提示された情報についての反応を定量的に評価できるようにしたり。
今回提供したECの購買データについて、我々のクライアントの使い方は彼らのマーケ戦略からトップダウンで発生する分析や検証が多いのですが、ボトムアップでデータから何かしらのインサイトを発見するっていうこともできるはずだと思っています。ただ社内だけでやろうとするとリソースやマネタイズの観点で難しく、そこで米澤さんから声をかけてもらって良い取り組みができそうだったから連携を始めてみたというのが我々目線での流れです。
正直自分たちが持っているデータをローデータに近い形で渡すことに最初は抵抗がありました。ただ実際一年近く一緒に研究したところ期待以上の成果が出ていて、学会に出せそうな学術的発見や、研究の過程で見つかったことが我々のビジネスに反映されている事例が出てくるなど、振り返ってみればやってよかったと思えています。是非これからもこういう関係を続けていきたいです。

米澤:そうだったんですね。これからの研究の展望として海外のデータも扱いたいと思っているのですが、マインディアは海外進出も考えているのでしょうか?

松倉:もちろん考えています。まず物理的・技術的なところでは我々が持っているデータプラットフォームを拡張していくだけなので比較的容易に可能です。ただ、国によってプライバシー保護の考え方が違っているのがハードルだと思っていています。今だと日本の規則に沿って消費者の方々にデータを提供していただいてるものを、例えばヨーロッパで同じようなことをしようと思ったらGDPR(EU一般データ保護規則)に基づいて収集するデータやその管理方法を変えなきゃい、といったようなことが多く起こると考えられます。なのですぐに海外のデータを提供できます、とは中々言い難いところがあります。

米澤:なるほど。もう一点、個人的な興味も含めての質問で、マインディアのデータはAmazonとか楽天市場とかプラットフォームを横断して見れるのが良いところだと思うのですが、果たして本当に横断して見る必要があるのか、もしかしたら1つのプラットフォームだけ見ていればだいたいのユーザー特性が掴めちゃうんじゃないかという疑問があり、それについてはどう考えていますか?

松倉:例えばこの記事のような分析をしていて、ECサイトを複数利用するユーザーと単一のサイト利用ユーザーのLTVの違いなどは傾向が見られています。また、我々のデータはメールのデータを基盤にしているのでEC購買以外にも航空券の予約だったりアプリ課金だったり幅広いデータが取れており、それによってユーザーのオンライン上での行動を一気通貫して見れることは揺るがない価値だとも考えています。実際にそういう用途でデータを使ってくれるクライアントもいます。

ーこれから研究でどんなことをやっていきたいですか?

米澤:正直にいうと、今回は具体的なアウトプットを想定して始めたわけではありませんでした。しかし、実際に半年くらいデータをいじってみて短期的には地域的な傾向の違いとかを見ていくのが面白そうだなと思っています。
また、より本質的なところに戻ると私たちは人間や人間社会をデータで知ることが大事だと思っています。実際に世界の流れとしてビッグデータを用いた人間社会の理解がどんどん進んでいて、例えばこれまでは情報系の人間には縁のなかったNature等のインパクトのあるジャーナルに、データ分析系の論文が載るようになったりしています。実はもともとまだ見つかっていなかった真理を見つけにいくサイエンス方面の研究ではなくて、見つかった真理をどうやって社会に役立てていくかのエンジニアリング方面の研究テーマが多かったのですが、今はサイエンス方面もとても重要だと考えていますし、マインディアのデータは人間の真理を見つけることに十分に使えるデータだと見ているので、とても壮大な目標だけど是非これからもデータを使わせていただきたいと思っています。

また、エンジニアリング方面での研究は社会で実際にデータを活用している企業のほうが詳しいでしょうし、その点においてはマインディアという会社に期待しています。

松倉:私たちとしてはより消費者への接点を増やしていくことで、人間の理解やペルソナの構築にもっと貢献していきたいと思っています。今収集しているメールデータも消費者とのつながりの一つではありますが、何か具体的な行動の結果が多くなってしまっていて、そこまでにどういう行動があってどういう心理状況の変化があったのかは分析が難しい現状があります。そういったところをカバーできるようなデータを消費者の方々に提供してもらえる技術と仕組みを整えることで、研究の役に立てれば嬉しいです。