マガジンのカバー画像

短編小説作品集1

52
初期の短編小説集。物語の中の日常を伝えられますように。
運営しているクリエイター

#悪夢

『星屑の森』―AKIRA―(12)

『星屑の森』―AKIRA―(12)

次の日の朝、自席で本を読んでいた私の元に、菜佳が駆け寄ってきた。

「愛、聞いて! 昨日は、夢に鬼が出てこなかったの! しかも、なんだか懐かしい、楽しい夢を見た気がするんだよね。どんな夢か思い出せないんだけど。やっと鬼に追いかけられる夢から開放されたよ! やったー!」

菜佳は一気に話すと、大きく万歳して、本心から安堵している様だった。

「菜佳、よかったね。お姉ちゃんの悪夢祓いは、すごいでしょう

もっとみる
『星屑の森』―AKIRA―(11)

『星屑の森』―AKIRA―(11)

ゆったりとしたピアノが、ドラムとバスのリズムの上にジャズのメロディーを奏でる。

目を開けると、お姉ちゃんの飲みかけの紅茶に、飴色のライトが映っていた。

私は、元の世界に戻ってきたのだ。
隣に座るお姉ちゃんは、私の方を見て微笑んでいた。

「ん……」

眠っていた菜佳が目を覚す。

「わ、いつの間にか寝ちゃってた。ごめんなさい」

「菜佳さん、気分はどう?」

「うーん、何だかいい気持ち。お姉さ

もっとみる
『星屑の森』―AKIRA―(9)

『星屑の森』―AKIRA―(9)

「菜佳ちゃん、みて。私は、パンダにみえるよ」

私がそういって天井を指差すと、小さな菜佳はやっと顔を上げた。

「パンダちゃん?」

「そう。パンダは目の周りが黒いでしょ? それに耳も」

本当は、パンダというには苦しいけれど、茶色の濃い場所はパンダのタレ目に、鬼の角(つの)にも見える木目も(少し長めの)パンダの耳に見えなくもない。

「それに、あっちには蝶々が飛んでる!」

パンダの様に見える(

もっとみる
『星屑の森』―AKIRA―(6)

『星屑の森』―AKIRA―(6)

「悪夢を見るのは、大抵、過去に怖いと思った記憶が、時々悪さをするからよ」

お姉ちゃんは、悪夢を見る理由をそう語る。
それは、本人が忘れたつもりでも、『記憶の樹』にはちゃんと残っているんだって。

菜佳の『記憶の樹』は、3m程の高さがあった。
幹は私の両腕で抱えられそうな位で、そんなに太さはないけれど、まっすぐ靭(しな)やかだ。
表皮は傷もなく滑らかで、数本の太い枝から幾つもの細い枝が伸びている。

もっとみる
『星屑の森』―AKIRA―(7)

『星屑の森』―AKIRA―(7)

『記憶の樹』から放たれた光が収まって、私はやっと目を薄く開けることができた。
あまりにも強い光だったから、暫くの間、目の前が白くぼやけて見えた。

段々と、ものの形が把握できる様になると、人形(ひとがた)をした影が動いた。
それは、お姉ちゃんが『記憶の樹』の枝に手を伸ばしている姿だった。

『記憶の樹』は、お姉ちゃんに心を許したように、大人しくなっている。
一本の太い枝を左右に振ったかと思うと、そ

もっとみる
『星屑の森』―AKIRA―(2)

『星屑の森』―AKIRA―(2)

放課後、品川からJR横須賀線の電車に乗り、私と菜佳は鎌倉までやって来た。

「東京から遠くはないけど、なんか遠足の気分だね」

菜佳は、キョロキョロ周りを見渡して、美味しいものがありそうなお店を探している。

「菜佳さーん。あんまり時間ないから、行きますよー」

「えー!? 一軒くらいどこか入ろうよー」

観光客の多い駅前の通りには、道の両脇に食べ物屋がずらーっとどこまでも並んでいて、どこにいても

もっとみる
新連載『星屑の森』―AKIRA―(1)

新連載『星屑の森』―AKIRA―(1)

私が小さな頃、怖い夢を見て泣いていると、
隣で寝ていたお姉ちゃんが起きてきて、
必ず私を泣き止ませてくれた。

お姉ちゃんにゆっくり頭を撫でてもらうと、自然と怖くなくなって、私はすぐに眠りについた。



「愛ちゃん、愛ちゃん、聞いてよー!」

クラスメイトの菜佳(なのか)が、後ろの席から指で背中を突いてきた。

「どうした、菜佳。また、変な夢でも見た?」

普段、私を「愛」と呼ぶ菜佳が、わざわ

もっとみる