フォローしませんか?
シェア
みなとせ はる
2021年5月8日 19:40
次の日の朝、自席で本を読んでいた私の元に、菜佳が駆け寄ってきた。「愛、聞いて! 昨日は、夢に鬼が出てこなかったの! しかも、なんだか懐かしい、楽しい夢を見た気がするんだよね。どんな夢か思い出せないんだけど。やっと鬼に追いかけられる夢から開放されたよ! やったー!」菜佳は一気に話すと、大きく万歳して、本心から安堵している様だった。「菜佳、よかったね。お姉ちゃんの悪夢祓いは、すごいでしょう
2021年5月6日 15:53
ゆったりとしたピアノが、ドラムとバスのリズムの上にジャズのメロディーを奏でる。目を開けると、お姉ちゃんの飲みかけの紅茶に、飴色のライトが映っていた。私は、元の世界に戻ってきたのだ。隣に座るお姉ちゃんは、私の方を見て微笑んでいた。「ん……」眠っていた菜佳が目を覚す。「わ、いつの間にか寝ちゃってた。ごめんなさい」「菜佳さん、気分はどう?」「うーん、何だかいい気持ち。お姉さ
2021年5月3日 00:20
「菜佳ちゃん、みて。私は、パンダにみえるよ」私がそういって天井を指差すと、小さな菜佳はやっと顔を上げた。「パンダちゃん?」「そう。パンダは目の周りが黒いでしょ? それに耳も」本当は、パンダというには苦しいけれど、茶色の濃い場所はパンダのタレ目に、鬼の角(つの)にも見える木目も(少し長めの)パンダの耳に見えなくもない。「それに、あっちには蝶々が飛んでる!」パンダの様に見える(
2021年4月23日 17:23
「悪夢を見るのは、大抵、過去に怖いと思った記憶が、時々悪さをするからよ」お姉ちゃんは、悪夢を見る理由をそう語る。それは、本人が忘れたつもりでも、『記憶の樹』にはちゃんと残っているんだって。菜佳の『記憶の樹』は、3m程の高さがあった。幹は私の両腕で抱えられそうな位で、そんなに太さはないけれど、まっすぐ靭(しな)やかだ。表皮は傷もなく滑らかで、数本の太い枝から幾つもの細い枝が伸びている。
2021年4月26日 12:15
『記憶の樹』から放たれた光が収まって、私はやっと目を薄く開けることができた。あまりにも強い光だったから、暫くの間、目の前が白くぼやけて見えた。段々と、ものの形が把握できる様になると、人形(ひとがた)をした影が動いた。それは、お姉ちゃんが『記憶の樹』の枝に手を伸ばしている姿だった。『記憶の樹』は、お姉ちゃんに心を許したように、大人しくなっている。一本の太い枝を左右に振ったかと思うと、そ
2021年4月14日 11:53
放課後、品川からJR横須賀線の電車に乗り、私と菜佳は鎌倉までやって来た。「東京から遠くはないけど、なんか遠足の気分だね」菜佳は、キョロキョロ周りを見渡して、美味しいものがありそうなお店を探している。「菜佳さーん。あんまり時間ないから、行きますよー」「えー!? 一軒くらいどこか入ろうよー」観光客の多い駅前の通りには、道の両脇に食べ物屋がずらーっとどこまでも並んでいて、どこにいても
2021年4月12日 19:06
私が小さな頃、怖い夢を見て泣いていると、隣で寝ていたお姉ちゃんが起きてきて、必ず私を泣き止ませてくれた。お姉ちゃんにゆっくり頭を撫でてもらうと、自然と怖くなくなって、私はすぐに眠りについた。❋「愛ちゃん、愛ちゃん、聞いてよー!」クラスメイトの菜佳(なのか)が、後ろの席から指で背中を突いてきた。「どうした、菜佳。また、変な夢でも見た?」普段、私を「愛」と呼ぶ菜佳が、わざわ