見出し画像

『星屑の森』―AKIRA―(2)

放課後、品川からJR横須賀線の電車に乗り、私と菜佳は鎌倉までやって来た。

「東京から遠くはないけど、なんか遠足の気分だね」

菜佳は、キョロキョロ周りを見渡して、美味しいものがありそうなお店を探している。

「菜佳さーん。あんまり時間ないから、行きますよー」

「えー!? 一軒くらいどこか入ろうよー」

観光客の多い駅前の通りには、道の両脇に食べ物屋がずらーっとどこまでも並んでいて、どこにいても美味しい香りが漂ってくる。

お煎餅の醤油の香り、カレーのスパイスの香り、クレープの甘い香り。
その誘惑に負けそうになる気持ちも分かる。

更には、人で賑(にぎ)わう空気感が、心を高揚させる。
お祭りに行くと、普段は出さない様な価格設定でも、屋台を次々に回ってお腹いっぱいまで食べてしまう、あの感じに似てる。

ああ、本当は私も、久々に来た鎌倉でゆっくり遊びたい。

でも、今日の目的は、菜佳をお姉ちゃんに合わせることだ。
ふらふら~っと、甘味処に吸い込まれそうになる菜佳の左腕を掴んで、私は目的地へと真っ直ぐに向かった。


人通りの多いメイン通りから左に折れ、細い道に入ると、急に辺りは静かになる。
この先は、観光客が殆ど来ない。地元の人々が立ち寄る店が、数件あるだけだ。

そんな人気(ひとけ)の少ない通りに、古びた白いビルがある。
このビルの2階に続く狭い階段を登ると、目的地だ。

『Cafe  Tree』

黒く重厚な造りの木製扉に、店名だけが書かれた木札がぶら下がっている。

「愛、ここ、お店やってるの? 何か人の気配しないし、怪しくない?」

ここまで、私に(引き)連れられて来た菜佳も不安がって、私の制服のブレザーの裾を引っ張った。

店の看板(木札)には、営業時間も電話番号も書かれておらず、店が営業しているかどうかもよく分からない。
初めてここに来て、不安になるのは当然だ。


人を寄せ付けない装いのこの店だけれど、これでいいのだ。

だって、お姉ちゃんは、ここで「悪夢祓い」をしているのだから。

(つづく)

つづきは、こちらから🌠↓

第一話は、こちらから🌠↓


いつも応援ありがとうございます🌸 いただいたサポートは、今後の活動に役立てていきます。 現在の目標は、「小説を冊子にしてネット上で小説を読む機会の少ない方々に知ってもらう機会を作る!」ということです。 ☆アイコンイラストは、秋月林檎さんの作品です。