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『星屑の森』―AKIRA―(12)

次の日の朝、自席で本を読んでいた私の元に、菜佳が駆け寄ってきた。

「愛、聞いて! 昨日は、夢に鬼が出てこなかったの! しかも、なんだか懐かしい、楽しい夢を見た気がするんだよね。どんな夢か思い出せないんだけど。やっと鬼に追いかけられる夢から開放されたよ! やったー!」

菜佳は一気に話すと、大きく万歳して、本心から安堵している様だった。

「菜佳、よかったね。お姉ちゃんの悪夢祓いは、すごいでしょう」

「愛のお姉ちゃん、ほんとにすごいよ。また会いたいな。今度は、お礼を言いに行きたい」

「うん! 絶対、また一緒に行こう。お姉ちゃんも喜ぶよ」

私は、お姉ちゃんの力を認められて、自分事のように嬉しくなった

菜佳が、お姉ちゃんを好きになってくれて良かった。
お姉ちゃんも、菜佳を気に入っているはずだ。
また三人で会える日のことを考えると、今からワクワクした。

「……あれ? これ貼ったの、愛?」

菜佳が、自分の机に貼られた小さなシールに気がつく。

「うん、私。かわいいでしょ? 剥(は)がしちゃ駄目だよー」

菜佳は、人差し指でシールをひと撫(な)ですると、

「かわいい。このままにしとく」

と言って微笑んだ。

今朝、私は菜佳の机に、木目が鬼の顔のように見える箇所を見つけた。
それは、普段であれば気づけないほど、さり気ない顔をして、そこに存在した。

昨日、菜佳の幼少期の記憶に触れて、
当時、弟の出産のために祖母宅へ預けられたことで、母親と離れたことがとても心細く、
天井の木目が一層恐ろしいものに見えたのではないかと思った。

最近になって、母親が働き始めたことで、菜佳は今も寂しいと思っているのかもしれない。
そんな時に、机にある木目が、無意識のうちに鬼の顔に見えて、あんな悪夢を見るようになってしまったのかもしれない。

私は、悪夢を引き起こすきっかけになった(かもしれない)机の模様に、
「もう悪さはしないでね」
と心の中でお願いして、小さな蝶々のシールを貼ったのだった。


その日の夜、私は不思議な夢を見た。

私は、私の『記憶の樹』の下にいた。

今まで、お姉ちゃんの悪夢祓いに同行して、菜佳を含めて3人の『記憶の樹』を見たことがある。

でも、自分の『記憶の樹』を見るのは、初めてのことだった。

一見、普通の樹木に見える。
――でも、何だろう。妙な違和感がある。

そこに突然、お姉ちゃんが現れた。

絹で出来たような真っ白な衣服を身に着けて、光る小枝を手に持ち、こちらに向かって歩いてくる。
その美しい姿は、まるで本物の天使のようだ。

私が息を飲んで見惚(みと)れていると、
お姉ちゃんは、私の目の前で足を止めた。

そして、突如、

「今日は別れを言いに来たの」

と、そのピンク色の薄い唇から冷たい言葉を落とした。

(つづく)

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