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短編小説作品集1

52
初期の短編小説集。物語の中の日常を伝えられますように。
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2021年5月の記事一覧

『星屑の森』―AKIRA―(最終話)

『星屑の森』―AKIRA―(最終話)

「愛、そろそろ起きないと遅刻するよ!」

お姉ちゃんの声で、私は目を覚ます。
何だか、長い夢を見ていた気がする。
よく思い出せないけれど、私は夢を見ながら涙を流していたようだ。

「お姉ちゃーん、駅まで車で送ってー」

時計を見ると、いつも家を出る時間の15分前だった。
「そろそろ」どころから、このままでは遅刻してしまう。
私は、急いで制服に着替えながら、お姉ちゃんに車を出してとお願いした。

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『星屑の森』―AKIRA―(13)

『星屑の森』―AKIRA―(13)

「別れって、どういうこと……?」

私は、その言葉の意味を理解できず、聞き返した。

「愛……、ごめんね。私は、あなたのお姉ちゃんではないの」

お姉ちゃんは、美しく整った顔を少しも歪めることなく、透き通った瞳で私を見つめて言った。

「意味分かんない。そんなわけないよ。 お母さんは違うかもしれないけど、私達は姉妹だよ。私が小さい頃から、ずっと一緒にいたじゃない。怖い夢を見たら、いつも隣で寝てくれ

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『星屑の森』―AKIRA―(14)

『星屑の森』―AKIRA―(14)

「──そうよ、愛。怒って。私を憎んで」

お姉ちゃんのその言葉を聞いて、私は自分が眉間に力を込めて、涙を流しながらお姉ちゃんを睨(にら)みつけていることに気が付いた。

「これまでの古い枝を折り、この新しい枝を挿せば、あなたの記憶から私は消える。元から、今の家族と幸せに暮らしていた。そういうあなたになれるわ」

「嫌だ! 私は、お姉ちゃんを忘れない。菜佳だって、忘れるわけないよ!」

「あなたの『

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『星屑の森』―AKIRA―(12)

『星屑の森』―AKIRA―(12)

次の日の朝、自席で本を読んでいた私の元に、菜佳が駆け寄ってきた。

「愛、聞いて! 昨日は、夢に鬼が出てこなかったの! しかも、なんだか懐かしい、楽しい夢を見た気がするんだよね。どんな夢か思い出せないんだけど。やっと鬼に追いかけられる夢から開放されたよ! やったー!」

菜佳は一気に話すと、大きく万歳して、本心から安堵している様だった。

「菜佳、よかったね。お姉ちゃんの悪夢祓いは、すごいでしょう

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『星屑の森』―AKIRA―(11)

『星屑の森』―AKIRA―(11)

ゆったりとしたピアノが、ドラムとバスのリズムの上にジャズのメロディーを奏でる。

目を開けると、お姉ちゃんの飲みかけの紅茶に、飴色のライトが映っていた。

私は、元の世界に戻ってきたのだ。
隣に座るお姉ちゃんは、私の方を見て微笑んでいた。

「ん……」

眠っていた菜佳が目を覚す。

「わ、いつの間にか寝ちゃってた。ごめんなさい」

「菜佳さん、気分はどう?」

「うーん、何だかいい気持ち。お姉さ

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『星屑の森』―AKIRA―(9)

『星屑の森』―AKIRA―(9)

「菜佳ちゃん、みて。私は、パンダにみえるよ」

私がそういって天井を指差すと、小さな菜佳はやっと顔を上げた。

「パンダちゃん?」

「そう。パンダは目の周りが黒いでしょ? それに耳も」

本当は、パンダというには苦しいけれど、茶色の濃い場所はパンダのタレ目に、鬼の角(つの)にも見える木目も(少し長めの)パンダの耳に見えなくもない。

「それに、あっちには蝶々が飛んでる!」

パンダの様に見える(

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『星屑の森』―AKIRA―(10)

『星屑の森』―AKIRA―(10)

お姉ちゃんと繋いでいる手が、じっとりする。
これは、私の汗だ。

私の不安に気付いたお姉ちゃんは、少し顔を傾けて私の目を覗き込んだ。

「大丈夫よ。他の原因を探そう」

お姉ちゃんの前髪がサラリと揺れて、瞳に光が見えた気がした。
お姉ちゃんが私の髪を優しく撫でると、不思議と恐怖が和らぐ。
お姉ちゃんを、信じていいんだ。
そう思った途端に、涙腺が緩んしまう気がして、私はもう一度気を引き締めた。

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