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『星屑の森』―AKIRA―(10)

お姉ちゃんと繋いでいる手が、じっとりする。
これは、私の汗だ。

私の不安に気付いたお姉ちゃんは、少し顔を傾けて私の目を覗き込んだ。

「大丈夫よ。他の原因を探そう」

お姉ちゃんの前髪がサラリと揺れて、瞳に光が見えた気がした。
お姉ちゃんが私の髪を優しく撫でると、不思議と恐怖が和らぐ。
お姉ちゃんを、信じていいんだ。
そう思った途端に、涙腺が緩んしまう気がして、私はもう一度気を引き締めた。

「最近、菜佳ちゃんに変わったことはなかった?」

「どうして?」

「木目が鬼に見えて怖かった。それだけで、こんなに根強く彼女の中に残るのかしら」

「どういうこと?」

「この頃の鬼やお化けが怖いという記憶を、現在までずっと引きずっているというのは、考えにくいのよ。
 今日、会った印象だけど、怖がりな子ではないわよね。
 むしろ、色んなことに興味があってしょうがない、という様に見えた。
 愛だって、3歳位の時は「山姥(やまんば)こわい!」とか泣いていたけど、今はこんなにも勇敢」

お姉ちゃんは、そう言って「ふふ」と微笑んだ。

「えー?! そんなの覚えてないよ!」

本当は、私は覚えている。小さな頃、絵本で見た山姥が恐ろしくて、寝ている時におねしょをした。
お姉ちゃんも、そんな昔のことを覚えいたなんて!
私は恥かしくなって、話を菜佳に戻した。

「そうだ! そういえば、菜佳のお母さんが最近働き始めて、「夜遅くなってもいいんだ」て言ってた。寄り道しても怒られないって、喜んでたけど……」


その時、小さな菜佳が、
「……ママ」
と呟いた。

振り返ると、小さな菜佳は、いつの間にか天井の模様探しを止めて、一人で積み木遊びを始めている。

「……そういうことか。分かったわ」

「え? 何が分かったの?」

お姉ちゃんは何も言わないまま、小さな菜佳に近づき、頭に触れた。

すると、お姉ちゃんの姿は、ワンピースを着た20代半ば位の女性になった……!
私は、思わず口をあんぐり開けてしまう。
だって、その姿は間違いなく、菜佳の母親だった。
現在の見た目とは少し違うけれど、菜佳とお母さんは、目と鼻がよく似ているのだ。

小さな菜佳は、母親の姿を見つけると、

「ママ!」

と言って、脚に抱きついた。

「愛も、菜佳ちゃんを抱きしめてあげて」

私は、菜佳の母親の姿に変身したお姉ちゃんを目の当たりにして、呆然としていたが、声をかけられてはっとした。

菜佳の母親の姿をしたお姉ちゃんと、高校生の私は、地面に膝をついて座ると、二人で小さな菜佳の身体を優しく包み込んだ。

このモノクロの世界で、温度なんて感じないと思っていたけれど、二人がとても温かく感じた。

「ママ……もぅおいてかないで」

小さな菜佳の腕が、母親を抱きしめた瞬間、薄暗い霧は一斉に晴れた。

(つづく)

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