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『星屑の森』―AKIRA―(13)

「別れって、どういうこと……?」

私は、その言葉の意味を理解できず、聞き返した。

「愛……、ごめんね。私は、あなたのお姉ちゃんではないの」

お姉ちゃんは、美しく整った顔を少しも歪めることなく、透き通った瞳で私を見つめて言った。

「意味分かんない。そんなわけないよ。 お母さんは違うかもしれないけど、私達は姉妹だよ。私が小さい頃から、ずっと一緒にいたじゃない。怖い夢を見たら、いつも隣で寝てくれてたのは、お姉ちゃんだよ」

夢の中だと自覚はあるけれど、それでも胸がキュウッと締め付けられて、声が震えてしまう。
夢の中であったとしても、お姉ちゃんにそんなことを、言ってほしくなかった。

「愛……、聞いて。
 私は、ある人に頼まれて、まだ赤ん坊だったあなたをこの国に連れてきた。
 最初は、あなたの'母親'として、私はあなたを育てていた。でも、あなたは成長するにつれて、兄弟がほしいと願い、それから私はあなたの'お姉ちゃん'になった」

「お姉ちゃん、何言ってるの? 全然理解できないよ。私のお母さんは、今も寝室で寝てるよ? お姉ちゃん、知ってるよね」

「私の姿は、あなたの望むように見えているだけ。今は、私はあなたの'お姉ちゃん'。あなたが社会生活を続けられるように、あの人には母親役になってもらっているの」

こんな訳のわからない、筋の通らない話をするお姉ちゃんを、私は見たことがない。
まともに話を聞いていると、頭が混乱して、苛立ちが込み上げてくる。

──わかった。これは、私の悪夢なんだ。
だから、お姉ちゃんが意地悪を言うんだ。
こんな夢を見る時は、きっとお姉ちゃんが助けてくれるはずだ。

「これは、夢だけど、夢ではないわ。見て」

私の思考を読んだように、お姉ちゃんは言うと、私の『記憶の樹』を指差した。

「愛、よく見て。あなたの樹は、一本の樹から伸びている枝ではないわ。私が、あなたの樹に他の記憶を挿し木しているの。だから、それぞれ違う葉が付いているでしょう。
あなたにとって、小さい頃から私が'お姉ちゃん'だったのは、私があなたの記憶を掏(す)り替えて来たからよ。だから、私達が本当の姉妹というわけではないの」

よく見ると、確かに微妙に色が異なる枝が幾つも混在しており、違う形の葉が入り混じって茂っている。
でも、そんなことを一方的に言われても、信じられるはずがない。
だって、私のお姉ちゃんの記憶は鮮明で、触れた温度さえも思い出せるものなのだから。

「お姉ちゃん、もうそんなこと言わないで。これが夢でも、悲しすぎる。何で、そんな残酷なこと言うの?」

私の『記憶の樹』の枝が、それぞれ差し替えられた記憶だとしたら、とんでもない数だ。
私の元の樹から伸びた枝なんて、どこにも見当たらない。


もし、お姉ちゃんの言うことが本当だとしたら、本当の私の記憶は、本当の私は、どこにあるんだろう。
造られた記憶で出来た私は、一体何者なんだろう。

(つづく)

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