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『あられもない祈り』 島本理生 作 #感想

ストックしておいた「本の感想」シリーズをそろそろ徐々に投下していく。
後今日面接で爆死した。記録として残しておく。圧迫面接の耐性、つけていくべし。


この本は正直 島本理生さんの作品の中でも特に読みづらいものだった。主人公の男女2人の感情の変化がよく分からないし、なんとなく最後までよく分からないまま、「共感」があまりできずに終わってしまった。
精神的に「弱い」と思えたのは主人公の女性の方だったけど、案外最後には男性のあまりにも儚すぎる「脆さ」というか「危うさ」を感じてしまった。

多分こういう恋愛をしている人って現実世界にも多いのではないかと思う。それを客観的に語る誰かが存在していないだけで。当人たちが「普通の愛の形」を知らないだけで。

島本理生さんの作品だと大体 主人公の親が異常で、愛を受け取らないまま育って大人になった主人公たちが .....間違った愛の形、というかお互いに傷つけあってしまうような愛の形、を描いていくようなストーリーが多いように感じるけれど。



この物語では、主人公の男性はずっと名前がなく、「あなた」という表現で語られる。主人公は男性からアプローチされ続けるも、「付き合う」という形を選ばない。それどころか自分を傷つける、暴力を振るう、そんな彼氏(直樹)と付き合うのだ。

72ページより

彼(直樹)は傷つけずに私と関わる方法がまったく理解できていなくて、そんな彼にとっての出口も私の中にはない。そのことが、悲しかったのだ。

互いに互いを傷つけ合うと分かっているのに付き合い続ける。自分の帰る場所が確かに存在してほしいと思い続ける。


123ページより

「みんな、自分のことなんて分からなくて、人のことばかりがよく見える。だから人と関わるんだろう。教えたり、教えられたりするために」

この一文がこの物語の中で1番刺さった。人は一人で生きられない、とかではなくて いやでも人と関わることをどこかで望んでしまう気がしていて。


165ページ

「でも、大丈夫。全部俺のせいだから」
あなたのほうが数段いろんなことをコントロールできているのだと思っていた。
だけど実際は、あなたはがんばりたがりの不安定な子供だ。こんなにも私たちが似ていたことに、どうして気付かなかったのだろう。愛情の感じられない関係。自分で自分を許さないで居続けるための茨。

女性の方はリストカットをしていて自分を傷つける。何かと「絶望を歩く自分」に浸ろうとしている。男性の方は「職業は?」と聞かれて「経営者」と答えるプライドの高さもある。2人の間に確かに「愛」は存在しているのに、2人はあまり幸せそうじゃない。1つを手に入れたら、もっと次が欲しくなってしまうかのように。

ただ2人の愛の形はあまりにも歪すぎて、言葉では語りきれていないんじゃないかと思ってしまった。時々どういう意図なのか分からないセリフに襲われて、読み進められないことがあった。


169ページ

あなたはちっとも野心家じゃないのに、つねに試さずにはいられないのだ。
それが大きすぎる不安からだと、あのときは気付かなかった。あなたは弱い分だけ強情で、強い分だけ脆かったのだと。


お互いの前にいるだけ輪郭がはっきりするのに、そのことにお互いに傷つけられている。普遍な形の愛からは程遠い。「分かり合えないのに、惹かれあってしまう」という意味では こういう愛なんてものは、愛と呼べるのか分からないものは、確かに存在しているように感じている。


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