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『世界でいちばん透きとおった物語』を読んでみたら、未体験の読書体験に脱帽したという感想 ※ネタバレあります

はじめに

こんな体験を未だかつてしたことがあったでしょうか。
これまでにも同様の本があったのだとしたら、これまで知らずにもったいないことをしていた、、そんなふうに感じる小説に出会えました。

杉井光さんによる
『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫)です。

以下、ややネタバレを含みながら、つらつらと振り返ります。

そもそも何がそんなにすごいのか

読んでいてストーリーもそれなりに面白いのですが、、
「そんなに話題になるほどかな?」
「感動的な事実が判明したりどんでん返しが待ってたりするのかな?」
と思いつつ読み進めていました。

結果、ストーリーのどんでん返しがあったという感じではありません。たぶん。
それよりも、本への仕掛けが尋常ではなかったのです。

気づいたときの私は、声に出して「えー!すごい!すごすぎる!」と叫んでいました。。

「透きとおった」という題名

この題名から、皆さんはどのような小説を想像しますか?
私は、読むと心が整うような綺麗なストーリーを想定していました。安易なので。
それが、こんなにも「物理的に」決まった場所が「透きとおった」本だなんて、関係者以外に予想できていた人はいるのでしょうか。

一番に思ったのは、著者の努力がとんでもないのでは!?ということです。
そして関わった出版社や編集者さん、校閲者さんなどにも思いを馳せ、心から賛辞を送りました。
私ならこんな本は書こうとは思いつかないし、仮に思いついたとしても、書く力がないと諦めていたと思います。

物語そのものについて

仕掛けからすれば、極論ではありますが、ストーリーの質はもはやそんなに重要ではないはずです。
ストーリーの中でもそうなっています。
主人公の父親が書いた物語の中身については、最終的には読者も結局よくわからないままなのです。

ですが、この本のすごいところは、物語性もかなりの説得力を持ちかつ、読みごたえもあるというところ。
それを上回る仕掛けが全体の読後感をぶわーっと持っていってしまうがゆえに、その存在感が減っているだけのような感じです。
ただ、物語性だけではここまで広く読まれることがなかったかもしれないことも事実かもしれません。

主人公たちの感動がこの手に

そして物語のなかの設定と、読んでいる本の仕掛けが一致しているということ。
物語では紙自体は消失してしまいましたが、主人公の覚えたであろう感動を同じように体験できてしまうのです。
これは珍しい小説だと思いませんか。
脳内で登場人物の声を再生して気持ちを想像するだけではなく、
自分が実際の読書体験を通して主人公たちの感覚を知ることができるのです。
特にこの点において、著者は天才です。

この本をおすすめしたい人

小説が好きな人ならやっぱり楽しめるのかなと思います。
ストーリー重視なら、人によってはやや物足りないのでしょうか。。
一方で、普段は小説を読まないという人や、文字を目で追うと眠くなる人にも、このわかりやすい仕掛けは響くのかもしれないな?と思います。

ものすごく長編ではないことによって、紙の本から遠ざかっている人にも届きやすい本なのではないでしょうか。
もっとも、これ以上の長編を目指した場合は、著者の労力がさらに増したであろうことは、想像に難くありません。

久しぶりに何度もページを戻りたくなる読書体験をしました。
最後の仕掛けでこんなにも胸が温かくなったのも、久しぶり、もしくは初めてかもしれません。
お手に取りやすいページ数の文庫本です。
簡単には電子書籍化されることもないでしょう。
電子書籍が出たとしても、この紙の本で読むことを強くおすすめします。
著者や関係者の心意気を想像すれば、電子書籍化はないだろうなとは思いますが。

おわりに

この本を出す英断をした新潮社に、潜入してみたい気持ちになりました。
そのくらい関係者各位に心からの敬意を表したいです。


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