「~へ」は行くところ「~に」は来たところで書き分ける/作家の僕がやっている文章術159
「~へ」と「~に」は、どう書き分け、使い分けるのか。
「へ」と「に」には、どんな使い分けがあるのでしょうか。
<文例1>
チャールズ皇太子は、イギリス国王へ就任する。
<文例2>
チャールズ元皇太子は、イギリス国王に就任した。
文例1は「へ」が未来を表しています。
文例2は「に」が現時間を表しています。
向かうのが「へ」、たどり着いたのが「に」です。
<文例3>
岡山県倉敷市へ行く。
<文例4>
岡山県倉敷市に来た。
<文例5>
岡山県倉敷市に行く。
<文例6>
岡山県倉敷市へ来た。
「へ」と「に」を書き分けられると、読者が感じる現在地と訪問地の距離の感覚をきちんと表現できます。
<文例3>
岡山県倉敷市へ行く。
文例3は、いま居るところから岡山県倉敷市へとイメージのベクトルが向かいます。
<文例4>
岡山県倉敷市に来た。
文例4は、いま居るところと岡山県倉敷市とが同期しています。
<文例5>
岡山県倉敷市に行く。
文例5は、岡山県倉敷市を到着地点と固定して、いま居るところから移動するイメージです。
<文例6>
岡山県倉敷市へ来た。
文例6は、出発地点から岡山県倉敷市までの道のりがイメージされる表現です。
動詞の現在形と過去形の違いだけではなく「へ」と「に」は「向かう場所」「来た場所」を意味する言葉なのです。
「へ」「に」は助詞という言葉です。
「へ」は行くところ、「に」は来たところ、と覚えておくと文章を書きやすくなると思います。
<文例7>
会社に行くと、篠原課長が部下の山崎君に怒っているところだった。
<文例8>
会社へ行くと、篠原課長が部下の山崎君へ怒っているところだった。
文例7は、著者が会社の内部にいま、まさに居るイメージが伝わります。
「山崎君に」の「に」に着目しましょう。
「に」は「現時点」「現地点」を表しますから、読者の視点は「山崎君」をイメージします。
山崎君 ← 篠原課長 怒られている のイメージです。
文例8は、著者は社外にいるか、あるいは会社の中に居ても、過ぎた時間のことを語っているように読者には感じ取られます。
「山崎君へ」の「へ」に着目しましょう。
「へ」は「行くところ」「向かうところ」を表しますから、読者の視点は「怒っている」をイメージします。
すると怒っている、主体の「篠原課長」がクローズアップされて、読者は篠原課長を頭に思い浮かべやすくなります。
篠原課長 → 山崎君 怒っている のイメージです。
「宇宙開発への道のり」
このときの「へ」は、現時点から未来に向かうか、過去を基軸として現代までのベクトルプロセスを言い表しています。
「宇宙開発にの道のり」とは言いません。
宇宙開発は、現時点、現地点に固定されるものではないからです。
「宇宙開発には長い道のりが必要だ」とは言います。
現時点、現地点に固定されて述べらる概念だからです。
<文例9>
雪国に向かう列車の乗客はまばらで、雑踏の東京に疲れた私が逃避行する旅の始まりに、ふさわしい気がした。
<文例10>
雪国へ向かう列車の乗客はまばらで、雑踏の東京へ疲れた私が逃避行する旅の始まりへ、ふさわしい気がした。
文例9は、固定的で、閉鎖的で、重厚感があり、列車に乗っている私へ視点が集中します。
東京へもイメージは集中します。
旅の始まりという現時点がいま動いている表現です。
文例10は、開放的で列車を俯瞰しているように表現されています。
東京はすでに後にした場所であるイメージです。
旅の始まりという単語を、著者は突き放して書いている印象です。
次の文章で、著者はどこにいるのかを読者に期待させる表現です。
文例9に、文例10に、それぞれ、
「こ(そ)うして私は新潟の燕三条駅に降り立った」
と文章を、つなげて読んでみると「へ」「に」の使い分けの意義が実感できるのではないでしょうか。
「~へ」「~に」は、使い分けなど意識せずに、そのときの気分で書きがちな助詞です。
たった1文字の助詞なのですが、使い分けができると、読者へ(に)与えるイメージをコントロールできます。
表現がより的確な文章を書くことができます。
あなたの文章の「へ」と「に」を見直してみてはいかがでしょうか。
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