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[1分小説] もうすぐ

「ね、前回の大河ドラマ見た?」

「見た見た!紫式部が、道長様に
『10年間、あなたのことを想わない日はありませんでした』って!
これぞ身分を超えた恋!たまらないよねぇ。
私も言われてみたいなぁ」

「え、そっちなの?
私むしろ、10年間も毎日なんて、よくもまぁ言うよって思ったけど」

「ひどい!昔っから夢がないんだからぁ…」

「でも地球の歴史でいうと、10年って大したことないんだろうね」

「そーお?私だったら、好きな人に1年会えなかったら死んじゃうよ」

「あはは、死なないでよ」

「10年かぁ・・・。宇宙のスケールでいったら、
10年なんてもっと取るに足りないことだろうねぇ」

「まぁね。"天文学的な数字" とか言うくらいだし。あ!天文学上の "もうすぐ" っていえば・・・」

「覚えてる!これでしょ」

「え、嘘!覚えてるの?」


「えっと・・・。

『みなさん、本日は宇宙トラベルへようこそ!

突然ですが、みなさんは "もうすぐ" って言われると
どのくらい先を想像しますか?

・・・はい、そうですね!
1時間後かもしれないし、3日後かもしれませんね。

でも、実は天文学上の"もうすぐ" って、
私たち人間の日常生活のタイムスケールとは全然
違うんです。

天文学での"もうすぐ" という言葉は、 
せいぜい "1万年から10万年以内" を指すもの。

明日とか明後日といったレベルではないんです!』

――ここで、手の平をお客さんに見せながら、ビックリな顔するんだったよね!」

「やだ、そんな仕草と表情まで!」

「で、つづきはぁ、

『私たちは今この瞬間も、青くて大きな星《地球》に乗って、広い広い宇宙を旅しています。

今日は、そんな宇宙について、科学博物館の中を
まわりながら勉強していきましょう!』

・・・でしょ?」


「うわ、よく忘れないね。懐かしい」

「だってさぁ、大学生の頃、さんざん私の前で練習してたじゃない。
あれだけ聞かされてたらこっちが覚えちゃうよぉ」

「あははは、そうだっけ。
試しに受けた科学博物館のアルバイト、予想外に採用されちゃって、最初は必死だったな」

「頑張ってたもんねぇ。それにしても
あの頃は私たち、大河ドラマなんて見向きもしなかったのにねぇ」

「そうだね。大河なんておじいちゃんとかおばあちゃんが見るものだと思ってたもんね」

「私たちも、おばあちゃんに近づいてるのかなぁ」

「やだ、まだ早いでしょ!
孫の顔どころか、結婚すらしてないし」

「もう三十路も目の前なのにねぇ」

「もうっ、ソレ言わないで!」

「そう言えばさぁ、こないだネットニュースで
『宇宙人と出会える日は"もうすぐ" かもしれない』みたいな記事があったの。

でも私は、宇宙人より運命の人に会いたい!って
切実に思ったよ」

「あはは。宇宙人に会うのと、私たちがいい男と出会って新婚生活はじめるの、どっちが早いだろうね」

「どっちだろうねぇ・・・。
あ!ちょっと待って、もう8時!
今週の大河ドラマ始まっちゃう!」

「ほんとだ、じゃ切るよ。
また大河にキュンキュンして心の隙間、埋めようね♡」


ー通話終了ー



今週の大河ドラマも、
ふたりに訪れる素敵な出会いも、
きっと、もうすぐです♡



#という話を大河ドラマ放送直前に書きました


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