西藤史帆

かけだしの作家です。 現在もシナリオライティングを中心に勉強中です。 今回はじめて作品…

西藤史帆

かけだしの作家です。 現在もシナリオライティングを中心に勉強中です。 今回はじめて作品を公に出しました。 一番好きなジャンルはSFですが、はじめての作品はこれまで経験した複数の職業がベースになっています。 少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

最近の記事

D・O・A エピローグ

西原と今度こそ楽しい宴を楽しんだ黒須は、久しぶりにほろ酔い加減で家路についていた。 (さすがに今夜は玄関から入ったほうが無難だな)と黒須は思いながら、普段はバスに乗る道を歩いていた。 歩きながら黒須は、陽向とSAYAの表情や彼女たちのつまずいてしまった人生に思いを馳せていた。 動画に数多く残っているSAYAの瑞々しい姿、昨日まで明るい将来しか想像出来なかった陽向、黒須はこの一件で古い痛みが再発した理由がやっとわかった。 黒須は早希と恵実の弾けるような笑顔を思い出した。 小

    • D・O・A 第十二章 真相

      黒須は帰宅後もなかなか寝付けなかった。 仕方なく起き出し、酔い覚ましにコーヒーを淹れて自室に持ち帰った。 コーヒーをサイドテーブルに置き、黒須はベッドの上にごろんと寝転がった。 寝転がりながら黒須は、西原と整理した項目をひとつひとつ頭の中で検証して行った。 ひととおり考え終わると黒須はベッドに腰掛けて、以前に書いた見取り図を出して眺めた。 見取り図を眺めながら黒須はコーヒーを口に運んだが、すっかり冷めてしまっていた。 冷たくなったコーヒーを飲みながら、黒須は見取り図の上を確認

      • D・O・A 第十一章 本格捜査

        「池上陽向の過失致傷」、「池上家の不法侵入」、「磯崎玲奈の殺人未遂」の三件について西原が所属する警察署は捜査を開始した。 これら三件にはネット民が深くかかわっているので、誹謗中傷からの絞り込み、SNS等の調査など警視庁のサイバー警察の協力を仰ぎ、生活安全課も池上家や磯崎家周辺のパトロールを強化、怪しい人物には片っ端から職質をかけた。 そういった対策が徐々に功を奏し、ネットの騒動もネット外の騒動も少しづつ収まって来つつあった。 西原ら刑務部捜査一課は地道にこの三件を捜査

        • D・O・A 第十章 ボディ・ランゲージ

          以前に西原と再会の宴をした店で、黒須と西原は酒を飲みながら密談をしていた。 酒も料理も美味しいのだが、今夜の二人にはどちらも楽しく味わう余裕はなく、ひたすら空腹を満たし、思考の潤滑油として酒を飲み、料理を食べていた。 「というわけで、池上陽向の過失致傷、池上家の不法侵入、磯崎玲奈の殺人未遂の三件について被害届を受理して捜査を開始した」と西原が説明した。 「その三件だけでも捜査出来る事になって良かったですよ。SAYAの時は何度か警察に相談したらしいんですが、実害がないとか、

        D・O・A エピローグ

          D・O・A 第九章 供述調書

          警察署に着くと黒須は刑事部に案内され、廊下のベンチで待つように言われた。 ベンチには既に陽向が座っていた。 黒須は「こんにちは。足は大丈夫ですか?」と声をかけながら陽向の隣に座った。 陽向は「誰?」という表情を一瞬浮かべて「あ、こんにちは。消防署の・・・」と口ごもった。 「はい。救急隊の黒須です。制服じゃないとわからないですよね」と黒須が返した。 陽向は申し訳なさそうに下を向き、「すみません」と謝った。 「大丈夫ですよ、普通のことです」と黒須は優しく言った。 陽向が言葉を

          D・O・A 第九章 供述調書

          D・O・A 第八章 リアルヒートアップ

          陽向の搬送から数日後、黒須は西原からのメールで小夜と陽向の母、池上真由美が陽向の怪我について相談に行った事を知った。 SAYAに関連した騒動は相変わらず続いていたが、陽向は一般人なので、その事件について表ざたになる事はなかった。 陽向に怪我をさせたチューバーも都合が悪い事をわざわざアップする事はない。 しかし家族に危害が及んでしまったのは事実で、過激なファンの行動や取材と称した行き過ぎた行為がまた起きないとも限らなかった。 小夜と陽向の母、池上真由美(いけがみまゆみ)の

          D・O・A 第八章 リアルヒートアップ

          D・O・A 第七章 リアルトラブル

          黒須はあれからまた、何当直か勤務をこなしていた。 SAYAに関するネット上での騒動は、沈静化する気配が一向に無かった。 週刊誌などのメディアでも情報の焼き直しとは言え、繰り返し報道されていた。 若い署員などは休憩時間などにSAYAの話題で盛り上がっている事もあった。 そういった事象を横目で見ながらも、SAYAの件について黒須がそれ以上に首を突っ込む事はなかった。 その日、いつもの救急隊長が公休日のため、黒須が当日は隊長の任にあった。 遅い午後、黒須の隊は病院からの帰署する

          D・O・A 第七章 リアルトラブル

          D・O・A 第六章 ヒートアップ

          西原との再会の宴の翌日は公休で、黒須は階下に誰もいないのを見計らって朝食兼昼食を取った。 黒須も西原も酒には強かったが、昨夜の後半の話題が重かったせいか酔いが抜けきれない感じが残っていた。 だるさを感じ、生あくびをしながら黒須はコーヒーを淹れて自室に持って上がった。 自室のベッドに腰掛け、コーヒーを飲み始めた黒須は昨夜の西原との会話を思い出していた。 西原からもたらされた情報の基本的な部分は、黒須の職務上でも知り得たものだった。 西原も黒須に漏らしても差支えない部分だけ教

          D・O・A 第六章 ヒートアップ

          D・O・A 第五章 カメラ・アイ

          黒須は非番の夜、駅前の居酒屋で西原を待っていた。 従兄弟同士で子どもの頃は良く遊んでいたが、大人になってからは互いに選んだ職業柄、あまり会える時間はなかった。 だが、黒須にとっても西原にとってもお互いに特殊な職業柄、本音で仕事の話が出来る数少ない相手であった。 加えてお互いの性格を含めた長所も短所も知っていて心許せる相手は、誰にとっても多くはないであろう。 「悪い、悪い、出がけにちょっと上から呼ばれちゃってよ・・・」と、遅れて現れた西原がコートを脱ぎながらに席に座った。

          D・O・A 第五章 カメラ・アイ

          D・O・A 第四章 陽向

          SAYAの搬送から十日程経ち、ネット上ではSAYAの一件が収まるどころか、益々ヒートアップしていた。 コメントやSNS上での応酬もとどまるところを知らず、今では芸能人でもないネットタレントのことを週刊誌が自殺に疑問符をつけた記事を掲載し、ワイドショーや報道番組などでも取り上げられている。 そんなSAYA関連の騒動とは反対に、黒須は日々の勤務を淡々とこなしていた。 その日も自席で事務処理をしていると、受付から「搬送証明」で来客がありと告げられ、まもなく事務所に若い女性が現れ

          D・O・A 第四章 陽向

          D・O・A 第三章 澪奈

          黒須は翌日も当直勤務に入っていた。 午前の搬送分の記録を自席で整理していると、受付から内線で「搬送証明」の交付で来客を告げられる。 まもなく事務室に、SAYAと同年代の綺麗な女性が現れた。 黒須は空いている椅子を勧めて用件を確認した。 女性は「救急搬送証明」の交付を申し出たので、申請書を出して記入を促した。 しばらくの後、記入済みの申請書を受け取って内容を確認する黒須には、困惑の表情が浮かんだ。 「ええと、磯崎玲奈(いそざきれな)さん、傷病者との続柄が「友人」となっていま

          D・O・A 第三章 澪奈

          D・O・A 第二章 違和感

          当直勤務交代後、黒須は勤務空けで帰宅した。 増改築はしているが古めの二階建ての民家が黒須の実家である。 黒須は家に着くと玄関ではなく、裏手に回って場違いに二階の部屋から垂れ下がっている縄梯子に手をかけた。 そっと縄梯子を登ろうとしている黒須の後ろから、女性の厳しい声がした。 「アキラ兄さん、またそんな所から入ろうとして!ちゃんと玄関から入ってください!」 黒須が振り向くと、弟嫁の恵実がいつの間にか立っていた。 「いやあ、訓練も兼ねてるから・・・」と黒須は苦笑しながら言い訳をし

          D・O・A 第二章 違和感

          D・O・A 第一章 救急搬送

          あらすじ救急隊員の黒須彰はある日、人気ネットタレントSAYA(本名:池上小夜)の自殺未遂現場に出動した。SAYAは搬送先の病院で死亡が確認された。そこで黒須は従兄の刑事、西原と再会する。SAYAの訃報が拡散されると「自殺」と発表されたにもかかわらずネット上では「自殺派」と「他殺派」に分かれて大騒動が巻き起こる。騒動はネット外にまで広がり殺傷事件まで起こってしまう。SAYAの死因に違和感を感じていた黒須と西原は他殺であれば家族か友人の澪奈の誰かだと犯人を絞る。だが自殺を覆す証拠

          D・O・A 第一章 救急搬送