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D・O・A 第八章 リアルヒートアップ

 陽向の搬送から数日後、黒須は西原からのメールで小夜と陽向の母、池上真由美が陽向の怪我について相談に行った事を知った。
SAYAに関連した騒動は相変わらず続いていたが、陽向は一般人なので、その事件について表ざたになる事はなかった。
陽向に怪我をさせたチューバーも都合が悪い事をわざわざアップする事はない。
しかし家族に危害が及んでしまったのは事実で、過激なファンの行動や取材と称した行き過ぎた行為がまた起きないとも限らなかった。
 
小夜と陽向の母、池上真由美(いけがみまゆみ)の相談を受けて警察も、生活安全の担当が池上家周辺のパトロールを強化した。
だが陽向の怪我とは関係無く、まもなく心無い人々によって池上家の場所と外観が晒された。
その情報が瞬く間に拡散されると、池上家の周りには絶えず見知らぬ人が来るようになった。
 
池上家は小さな二階建ての民家で、幹線道路から少し入った住宅街の中にあった。
早い時期に分譲された住宅街で、駅から少し歩くが徒歩圏内で、便利な立地であった。
普段住民以外がほとんど歩かない住宅街に、見知らぬ人々が入って来れば否応なく目立った。
陽向も真由美も外出するのを控え気味にし、家を出る時は慎重に出ていた。
 
そうして池上家周辺が騒がしくなってまもなく、池上家に取材と称して侵入した輩が複数出た。
彼らは一般的な取材申し込みではなく、強引に屋内に入ろうとしたのである。
真由美と陽向の安全が著しく脅かされたのである。
 
そんな中、安全が脅かされているのは陽向と真由美だけではなかった。
澪奈周辺に及んでいる様々な事象は、陽向と真由美の比ではなかった。
澪奈の自宅マンションの場所と外観も同様に晒され、過激なSAYAファンが押しかけていた。
幸いオートロックである事、上層階である事などで強引な不法侵入は防げていたが、オートロックをかいくぐって部屋の前まで来る者は少なくなかった。
 
池上家や澪奈のマンションの郵便受け、ドアポストなどにはそれぞれに誹謗中傷や自首しろなどと書かれた紙片や手紙が山のように入れられた。
 
そうこうしているうちにSAYAの四十九日がやって来た。
SAYAが出演していたチャンネルでは各々、追悼番組やコーナーを設けた。
真由美は事務所を通して「SAYAをゆっくり眠らせてください。残されたたった一人の娘と静かに過ごさせてください」とコメントを発表した。
 
しかし真由美や関係者の願いも虚しく事件は起こってしまった。
ライブ出演後にスタジオから帰る道すがら、澪奈が刃物で切り付けられたのである。
幸い、命に別条はなかったが腕やバッグなどを切られた。
すぐに通報されて澪奈は保護されたが、通行人による投稿であっという間に事件は拡散された。
 
陽向と病院で別れた後、黒須はSAYA関連の情報を避けていた。
署内の若い消防士達の会話に上がる事はあっても、黒須自身は加わらなかった。
黒須にとっては職務上の関わり以外は無関係であり、日々忙殺される日常に戻っていた。
忙しさに紛れて開きかけた奥深い心の傷も、現場で感じたモヤモヤ感も忘れかけ、やっと日常に戻れたと感じていた黒須だったが、再び忘れかけていたものの中に連れ戻された。
 
SAYAの四十九日の翌日、出勤して交代を終えると黒須は課長に呼ばれた。
捻挫で搬送した陽向の事件で被害届が受理され、捜査が開始になった。
ついては目撃した黒須の調書を作成するため、協力依頼が正式にあったのである。
職務中の事であるため、黒須は勤務時間内に警察に出向して来るようにと命令された。
 
黒須は午後になり指定された時間になると、私服に着替えて警察署に向かった。
澪奈の事件はSNSの通知で知っていたが、詳細は知らなかった。
黒須は重い気持ちを抱え、SAYAに何度も呼び戻されているように感じた。

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