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魔法の言葉|女の哲学

「生々しさも嬉しかったんだなあ。」

そうやって、あなたは私の全てを包み込む。
魔法の言葉で。

地球の生々しさ、人間の生々しさ、自分の生々しさ。
それが嬉しいという言葉はとても衝撃的で、
私の概念を根底から破壊してしまった。

夕食の買い物をしながら気が付いた。

いろいろなお店で顔見知りの店員さんと話をしながら、
泉から水が絶えず湧き出ているかのように、
内側から愛があふれ出ているのを感じた。

話をしているだけで満たされて、奥深く感動している。

スーパーの駐車場の植え込みに咲き乱れるつつじの花。
咲き誇る花たちはまるで
あなたが贈ってくれた花のように、
生々しい生命にあふれて光り輝いていた。

人であふれかえっている休日のスーパーに入った瞬間
音の波が一気に私の中に流れ込んできた。
がやがやする音、話し声、音楽、音、音、音。

無音の世界から、
いきなりボリュームを上げた世界に
放り込まれたようだった。

沢山のうごめく人たち一人一人に、
私は生々しい全てを感じていた。

内臓や排泄物
猥褻なセックス
醜いののしり
慰めの抱擁
晴れの日の喜び
酔っ払いの嘔吐物
蠢く欲望

命の営みが一気に私の中に流れ込み
私はただそこに立ち尽くした。

圧倒的な立体感で幾重にも重なっていく
むせかえるような世界を
ただ受け止めながら、泣きそうだった。
 
その世界は今まで私が触れたこともない
未完成で完全な世界。
それを私は初めて美しいと思った。

世界はまた変容してしまった。

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気持ちを落ち着けるため、散歩をした。
樹木は相変わらず静かで、ゆらゆら揺れている。

その樹木たちが生きていくために、
虫たちに食われ、
新芽を出し、
冬に耐え、
咲いては虫や鳥を引き寄せ、
葉を落とし腐っていく。

全てを含んだ生々しい命と私は同じ。
沈黙する自然は、決して静かでもなく、
止まっているわけでもない。
周りで風にただ揺れている草花ひとつでさえ。

 
醜さや恐れにまみれながら、
私も他の人達と同じように、
生々しく一生懸命生きてきただけだと思えた。

そして、その生々しさが嬉しいと表現するあなたの人生は、
きっと豊かで命に満ち溢れているのだろうと思った。
そして、同じくらいの深い闇も。

魔法の言葉4

そんなことを考えながら、
今日の赤ピンク色の夕焼けを見つめていた。

自然は相変わらず静か。
それでも、命の音に満ち溢れ、
もうそれだけでいいと思えてくる。

やがて暗くなった森の中で、
やっと泣くことができる。
長く泣いていなかった気がする。

水は水で、
木は木で、
鳥は鳥でただ生きている。

それだけのことが
たまらなく嬉しいと思える。
樹木たちはもう何も話しかけてはこない。

それでも、私のことをよく知っているよと
風はサワサワと頬に優しく触れて
過ぎ去っていく。

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(photo: Mt.Shasta, Medicine Lake & California Crescient City ©MikaRin)


気づき(悟り)は、日常生活に還元することによって、自分のものになる。
そしてその気付きを生きることによって、深く広く育っていく。
ちょうど、木の根っこが大地に広がり、樹木の成長を支えるように。
気付きを日常に落とし込んでいく
その過程を綴った女の叙事詩のようなもの。



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