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みずみずしく美しい、極上の青春小説(『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』を読んで)

上の子どもが12歳になり、大人向けの本も共有できるようになりました。
「この小説、読んでみて!すごく面白かったから」なんておすすめし合えるのは、うれしいものです。

『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』(ベンジャミン・アリーレ・サエンス著、 川副 智子訳、小学館)も、そんなふうにして出会った1冊。

アメリカのYA(ヤングアダルト)小説で、きっと自分だけの目線では手にとらなかったと思います。

舞台は1987年のアメリカ。
15歳の少年アリが、同い年の少年ダンテに出会うところから、物語が始まります。

心身が日々変化していく少年たちの爆発しそうなエネルギーや、みずみずしい感性、アンバランスな精神状態がとてもリアルに描かれていて、自分も15歳にタイムスリップしたような気持ちになります。

少年たちの成長はもちろん、彼らをとりまく大人たちの心の機微を描く筆も見事で、YA小説ですが子育て世代の方々にも響くのではないかと思いました。

そしてこの小説の白眉は、アリやダンテの心の揺れに寄り添う雨や砂漠や星、美しい自然描写です。
まるで映画のワンシーンのよう……とうっとりしながら読んでいたら、実際アメリカでは、2023年9月に映画が公開されているのだそう。

この作品の重層的な魅力は、それだけにとどまりません。
『アリとダンテ』には、すぐれたLGBTQ+小説という側面もあるのです。
これから読まれる方のために詳説は避けますが、ラストシーンまで読み通すと、最後の1行できっと爽やかな感動が湧き上がってくると思います。

個人的には、今年のベスト3に入る極上の青春小説でした。
本国アメリカでは10年以上前に刊行され、数多くの賞を受けて、90万部を超えるベストセラーになっているそうです。
このような素晴らしい作品が翻訳され、日本でも出版されるようになったこと、とてもうれしく思います。
続編の刊行も待ちきれない!

生きづらさを抱える子どもたちはもちろん、かつて少年少女だったすべての方におすすめしたい名著です。


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