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ていねいな文章

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ちょっとちゃんとした感じで書いてあるやつです。
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放蕩息子の兄として

放蕩息子の兄として

新約聖書の中に「放蕩息子のたとえ」というものがある。ざっくりいうと、ある兄弟がいて、弟の方が父から財産をもらった途端、放蕩の限りを尽くして最終的に何もかも失ってしまった。飢え死に寸前にまでなった弟は、自らの天と父に対する罪を自覚し、息子ではなく雇い人として家に戻ろうとした。だが父親は弟の姿を見て大層喜び、もう息子と呼ばれる資格はないのだという彼に対し、上等な服を着せ子牛を屠り帰宅を祝った。ずっと父

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あともう一度だけツルハシを

あともう一度だけツルハシを

生きる意味がないとき、「でも死ぬ意味もないし」と思うのか、「もう終わっていいんだ」と思うのか。

私は後者だ。昔から、私を生に繋ぎ止めてくれたのは義務感だった。家族には私しかいないから。弟妹はまだ幼いから。私がいちばん家のことを知ってるから。みんなの緩衝材にならなきゃいけないから。だから生きてなければいけない、それなら、どうせなら楽しく過ごそう。そう思えるのは私のメンタルが本来タフであることを示し

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死に瀕してみて

死に瀕してみて

前のnote読んでくださった方はご存知かと思いますが、先日脳卒中で倒れて、誇張抜きで死にかけました。誕生日直前に不幸すぎる。1/25で23歳になりました。

病名は脳静脈洞血栓症。あと少しで脳出血するところだったって。危ない。原因はおそらくピルと脱水症状。倒れる2日前に飲み会で牡蠣に当たったんですよね。一緒にいた人誰も当たってなかったのに私だけ……(運悪すぎない?)。それで吐きまくって翌日翌々日も

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『水商売をやめてくれないか』を聴くたびに

『水商売をやめてくれないか』を聴くたびに

鬼龍院翔の曲が実は好きで(といっても全部は聴けていない)、『君のスカートが短くて』とか『パーティを止めないで』(これはヒプノシスマイクの曲)、普通に『女々しくて』も好き。彼の書く男の、柔らかい、それこそ女々しい部分を曝け出した、針で刺したらパンって弾けて血が出てきそうな感性、解像度の高さにいつも新鮮に驚く。

その中でも最近『水商売をやめてくれないか』をよく聴いている。私は水商売がすごく身近な環境

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信仰者というマイノリティ

信仰者というマイノリティ

あなたは子供の頃、神はいるって信じてた?

私の過ごしてきた社会において、神はサンタクロースと同じ扱いをされている。ちいさな子どもが、サンタクロースいる派/いない派にわかれて論争をする様子が、バラエティ番組で流れている。大人たちは当然、サンタクロースは自分たちであることを知っているから、いる派には素直で可愛い、いない派にはませてて可愛いという目線を向け、にこにこと見守る。

神だって同じだ。子ども

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信仰初心者

わたしも日本人だから、お寺や神社には昔からよく行っていた。特に仏教はかなり好きで、幼稚園が仏教幼稚園だったこともあって、一時期はお寺めぐりもしていた。今も仏像が好き。美しいので。

神社でお守りを買うことだってあったし、受験期には担任の先生が全員分買ってきてくれた湯島天神の鉛筆を使った。お正月には年によってお寺に行ったり神社に行ったりして、今年も良い一年になりますようにと定型で祈った。

わたしは

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骨壷

骨壷

骨壷の寝心地はどう?わたしには硬く見えるしとてもさみしい

寝室で娘と眠りし祖母の骨 引っ越しなんて、わたしなら厭

仏壇も墓も買えない貧しさのけむりが部屋をくゆるのも最後

ようやっと弔えたねって石撫でる母の手だけに意味があること

蟻たちの行列ちょっと横入りしわたしの指も食べてみと言う

「若い頃煙草吸ったから」肺がんの祖父、自嘲気味の顔父と似て

「まだ死なん、行け」と息子を見送った翌日彼は

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死んでも火葬になりたくない

死んでも火葬になりたくない

※割と多くの人が受け付けないであろうショッキングな描写(ペットの死とその(一般的には)異常な見送り方)があります。あと虫の話します

同じような悪夢を見た。2日も連続で。昔わたしはパンダマウスというかわい〜〜〜ねずみさんを飼っていたんだけど、1日目は死にかけているその子を動物病院へ連れて行ったら診断の前に待合室で冷たくなってしまう夢、2日目はその子が実際に亡くなっていた時の、冷たくて硬くなってしま

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理性の中にこそ

理性の中にこそ

わたしは時々「これは自分の感情を見せなくては」と思って極端な行動に出てしまうことがある。特に怒っている時。「あなたの行動がわたしを怒らせた、ということを示さなければ」というような義務感で、例えば後輩を厳しめに叱るとか、人と喧嘩したときに家を出て行こうとするとかしてしまう。

程度問題だとは思う。少なくとも、境界例の診断を受けるほどに激しい方ではないと思う(例えばお前のせいで死ぬからな!とかは言わな

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贈り物とタイミング

贈り物とタイミング

「これはあのとき欲しかったものなのに」と思ったとき、人はどうすればよいのだろう。そして、実はずっと与えてくれていたのに、自分自身がうまく受け取れていなかっただけだと気がついたとき、取り返すにはどうしたらいいのだろう。

わたしは最近、母がわたしを愛しているのだということを知った。

わたし、は、どうやら……母から愛されていたらしいのだ。愛されているのは知っていた。でもそれは、「無窮の愛」というもの

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原罪

原罪

※男女差別についての話をしてるしあらゆる方面に酷いことを言うし極端だし言葉強めだし注意してください。先に以前私が書いた『世界の半分を占める人たち』を読んでる人に読んでほしいかも……です

最近の自分の鍵垢のツイートで、面白いものを見つけました。

この太字部分の考え方、いわゆる「主語でか」に対する新たな切り口って感じで、面白くないですか?

以前『世界の半分を占める人たち』というnoteで書いたよ

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ゆるすということ

ゆるすということ

※遠藤周作の『沈黙』の話を少しします

軽いパニックを起こした。きっかけは些細な、つまらないことで、そのつまらないことのせいで過去の自分がゆるせなくなり、そこに連なる今の自分、その肉体を汚らわしく感じ、全身を掻きむしりたくなった。

とりあえず寝た。他にどうしようもなかったので。本当は泣き喚いて叫んだってよかったけど、まわりに人がいたし、それを考えられる程度には軽い発作だった。

わたしは自分を罪

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節目の歳

節目の歳

子どもの頃のわたしには、22歳というのは永遠のように遠い先の話だった。22歳というのは、母がわたしを産んだ歳で、わたしにも何かが起きると思っていた。

現実には何もない。昔は大学を卒業する歳だな〜とも思っていたけれど、高卒で就職してしまったし、いろんなことが重なって鬱っぽくなって病休をとって寝てるのが、現実の、22歳のわたし。

最近抗うつ剤を飲みはじめた。薬の効果か実家に帰ったのがよかったのか、

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柔肌の乙女

柔肌の乙女

いばらの中をぜえぜえと歩いて、傷だらけになって動けなくなる。少し休んで傷が治ったら、また歩く。そうしていつしかいばらのない、平坦な道までやってきて、これでやっと安心だと思うと、些細なことでまた古い傷が開いて……。

人生の話。所謂トラウマや地雷が多くて苦労している。その存在に気がつくたびに苦しんで、なんとか受容しようとするけれどできない、ということを繰り返して、繰り返して、繰り返して、少し浅くなっ

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