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心に積もった思いを言葉にしたいです。小さな幸せに溢れた家庭も、輝いていた人生も、日々変…

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心に積もった思いを言葉にしたいです。小さな幸せに溢れた家庭も、輝いていた人生も、日々変化していきます。不確かな人間関係や家族関係の難しさや悲しさを切り取って書いていきたいです。

マガジン

  • ほのぼの夫と、日々の出来事

最近の記事

犬が死んだから

「いや、全然、分からないんだけど。」 呆然と私を見つめる夫。私は、同じ言葉をもう一度つぶやく。 「ディジーが死んだから。だから、私、ここにいる理由が無いんです。」 一卵性母娘と言われた娘が、結婚して家を出た時も、 2人の甘ったれの息子たちが、就職して家を出た時も、 私たち夫婦の日常は、何も変わらなかった。 「なんで、犬なの?」 私たち家族をいつも見つめていた愛犬が死んだ。 デイジーの死と同時に、家族の1つのステージが終わった。 デイジーが死ぬ直前、夫は私に湖

    • 砂時計

      窓から侵入してくる空気は、とろりとした甘い雨の匂いがする ヒロは、ピアノの譜面台に肘をついて、タバコの煙をゆっくり吐いた。 私は素肌にTシャツだけを身につけて、膝を抱えてベッドの上からヒロを見つめる。彼の横顔は、あまりにも研ぎすまされていているから、迂闊に触ることはできない。 目を伏せた時、長い睫毛の下にできる影。笑う時にできる目尻の皺。まぶしそうに私を見つめるまなざし。タバコを持つ細く長い指。広い背中。力強い腕。ひとつひとつの筋肉も、足の指も、爪も、肌の匂いも、彼のす

      • 夏に見たい映画! Stand by Me スタンド バイ ミー

        夏になると、あの曲が耳に蘇ってきます。 プリティーンの12歳の男の子たちに、グラグラと揺さぶられるのです。なんてことないシーンで思わず涙を流してしまったり。あるあるって笑ってしまったり。ハラハラ、ドキドキしたり。 私が、母親の目で観るからでしょうか? それとも、息子とその友達がすでにティーンエイジャーを終えてしまったからなのでしょうか? この映画、懐かしくて、とってもとっても悲しいです。 人生ってままならない、信じられないくらい理不尽だったり残酷だったり。それでも、ほろ

        • 「動物の生育過程において、形態を変えること。」 不完全変態って?

          学校から帰ったら、2階の部屋にあるべき、私の洋服や文房具や小物などが庭にバラバラにまき散らされていた。鏡は割れていたし、ノートや本は破られて花壇の中に落ちていた。 庭と言っても、小さなネコの額のような庭だから、私の文房具のいくつかは道路にまで散乱していた。私は、驚いて自転車を止めて、道路に落ちているペン立てや色鉛筆やマーカーなどを拾い上げた。庭のツツジの植え込みの上には私のパジャマと下着が乗っかっていた。 『どうして?』 いろいろな感情が沸き上がってきて、私は、大声で叫

        犬が死んだから

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        • ほのぼの夫と、日々の出来事
          1本

        記事

          血に汚れた月

          清潔で薄暗い病室は、意外にもいろいろな音がしていた。 ソファーベッドで横になり、絶え間なく続く小さな音を聞いていた。私は、眠ることを諦めて、起き上がった。窓辺のベッド脇に立ち、眠っている妻を冷たく見下ろす。 彼女の体は、何本もの管やコードに繋がれていた。彼女の両ふくらはぎに取り付けられた空気ポンプが音をたてて膨らみ、縮む。足に圧をかけて血栓ができないようにしているのだ。腕には血圧計が巻かれ、これも数分ごとにブゥーンという音で膨らみシューっと音を立てて縮んでいく。ぴぴっ、ぴ

          血に汚れた月

          情事の終わりと、ノースブロードウェイ通りの広場

          ブライアンと私。鏡のようにお互いを映し合った関係はあっさりと終わった。去年の冬、彼は、私にさよならも言わず、心臓の動きと呼吸を止めた。「私のために、一日でも長生きして欲しい。もっと身体を大切にして欲しい」という言葉を、私は、結局、最後まで口にすることができなかった。 ブライアン、 棚からあふれたたくさんの本で、足の踏み場もなかったあなたの書斎には、大きなロッキングチェアが置かれていた。それは黒みがかった茶色の革張りで、あなたはいつもそこに座って、気持ち良さそうにお昼寝をし

          情事の終わりと、ノースブロードウェイ通りの広場

          あおひげと、 ケイタイ、

          マユは、深夜のベッドルームで夫の携帯を手に持ち、身体を振るわせていた。彼女の顔は、画面の青白い光に照らされて闇に浮かび上がっていた。 *  *  *  *  * 「あの青髯?」 「そう、昔話の青髯の話、知ってるでしょ。それをね、現代風に書き直したショートストーリー。英語も難しくなかった。面白かったよ。」 同じ学部のマユとユカは、週一で英語の短編を読み、討論する読書会をしていた。友達同士のこういう会は、通常2〜3回で消滅するのが普通だけど、この「読書会」は、珍しく1年以

          あおひげと、 ケイタイ、

          五月病に効く、処方箋、お願いします。

          高2になった、クラス替えがあった。 私には、四月よりも、五月の方が辛い。 四月は、新しいクラスで、ワサワサとした喧噪中で、みんなが一人。 そして、五月。クラス内の人間関係の強弱も、だいたいのグループ分けも、落ち着くころ。形なく流れる溶岩のような人の熱が固まってしまう前に、自分の居場所を確保しなくてはいけない。一度、固まってしまった火成岩を溶かして形成し直すのは、ほぼ不可能だから。早いところ、自分をどこかにはめ込まなくてはいかない。そのプレッシャーが、私には、相当、キツい

          五月病に効く、処方箋、お願いします。

          母をテーマに2つのストーリーを書きました

          今年も、母の日が終わり、私は少しホッとしています。 母の日の前は、毎年、心がざわざわとするのです。親孝行しなくては、母に優しくしなければ、というプレッシャーがあります。お花を買って、スウィーツを贈って、一緒に楽しくおしゃべりして、なんてできる方、羨ましいです。 私を生み育ててくれた母には、言葉にならないほど感謝の気持ちがあります。彼女の愛情を疑ったことはないのです。彼女が何よりも子どもと家族を大切に思っていることも分かるのです。彼女の私に対する愛情も、痛いほど、分かってし

          母をテーマに2つのストーリーを書きました

          風に舞う鳥と、カーネーション。

          僕の母は、風に舞う鳥のようだと思った。 良く晴れた日曜日。その日は母の日だった。 お小遣いで買った一輪のカーネーションと母が好きだと言っていたナッツの入ったチョコレートの小さな箱を手に、ご機嫌で家に帰った。 それなのに台所にも居間にも、母はいなくて、僕は、2階の寝室やトイレや風呂場を覗いて回った。母がいつも身につけていたエプロンはダイニングテーブルの椅子にかけられていた。買い物に行く時にもつ布製のバッグも、壁のハンガーにかけられたままだった。家の中は、何も変わっていない

          風に舞う鳥と、カーネーション。

          ほのぼの夫と、日々の出来事

          出会うまでのバックグラウンドも、興味の対象も、重なるところがない夫と私。重ならないのが、平和な家庭維持の秘訣なのかもしれません。それでも、紆余曲折の結婚生活。「さまざまな危機をどうにか二人で乗り越えてきたなぁ」と感慨深く思うのは夫も同じでしょう。夫との平和な日々を日記に記します。 喧嘩の回避術。 20代最後の大失恋を経験したのち、傷も癒えぬボロボロの状態で、夫と出会いました。勢いだったのか、もの珍しかったのか。ロミオとジュリエットのように、目の前に立ちはだかる困難もなく、

          ほのぼの夫と、日々の出来事

          母と、わたしと。

          タバコを咥えながら、部屋から出て来た女は、下着のようなタンクトップにショートパンツをはいていた。ブラの片方のストラップが肩に落ちそうだ。長い髪はパーマがかかっていて、それを後ろでポニーテールにしていた。後れ毛がバサバサと顔にかかっていて、いかにもそういう女の人というのを体現していた。この手の女が好きな男っているんだなって、不思議だった。言葉も乱暴だったけど、胸の谷間がはっきりとしていて、それでいてスタイルはよくて、薄くて白い肌をしていた。美人というより愛らしい表情の人だった。

          母と、わたしと。

          あふれ出る心と言葉の垂れ流し

          おはようございます。 noteに、言葉を書き綴って2週間ほど。 一度、堰を切り、流れ出した心を、私は、押しとどめることができなくなりつつあります。ほとばしる感情を言葉にし、人様が読める文章にする。難しい!荒れ狂う野生の馬を調教するような、そんな心境です。でも私は、一度も野生馬を調教したことなんてないのに!どうしよう! 心から吐き出された素の言葉は、醜かったり、いびつだったり、激しかったり、荒々しかったりと、そのままではとても公開できません。生まれたばかりの言葉は、まさに

          あふれ出る心と言葉の垂れ流し

          やっと始めた書くこと、そして、弾くこと、

          書くことの難しさ、実感しています。音で表現するより、もっとずっと難しいです。 自分の心を正直に表現したいのに、欲を捨てきることができません。良い文章を書きたいとか、うまいと言われる文章を書きたいとか。たいした才能もないのに、なんなんでしょうねぇ、呆れます。そんな欲を乗り越える手だて、ありましたら教えていただきたいです。 少しでも自分を良く見せたいという、どうしようもない欲を抱えたまま、それでも、「はじめの一歩」を踏み出した私です。 目を逸らしたくなる自分自身のドロドロと

          やっと始めた書くこと、そして、弾くこと、

          ここにいられないから。春の海辺で。

          めずらしく9時前に帰って来た夫と、ユミカは、夕食の食卓に向かい合った。 「今日のイサキ、美味しいね。どこで買ったの?」 「んっ? いつもの魚マサさん。おじさんが、今日はイサキだっていうから。初がつおも美味しそうだったからねぇ、迷ったんだけど。」 「もう5月だから。イサキの美味しい季節だね。初かつおはまたのお楽しみにしよう。」 夫はニコニコしながら、イサキの塩焼きを大根おろしと一緒に食べている。ユミカは、櫛形に切ったレモンの小皿をコウスケの方に押しやった。 「柚子だっ

          ここにいられないから。春の海辺で。

          窓からの風景。雨、スニーカー、洗濯物。

          厚い雨雲に覆われた朝。濡れた庭の芝だけが、青々として見える。 自分の顔が、窓に映り、誰かが心を覗き込む。 あの頃住んでいたアパートは、大学からは離れた場所にあって、そこは下町と呼ばれていた。アパートは、古くて、取り壊す寸前みたいにボロボロ。カタカナで、意味の分からない屋号が付いていた。 「しゃれた名前と外観が全く合っていないんだよなぁ。」 そう言って圭介は笑った。 それでも、家賃は格安で、大家さんに交渉して、アップライトピアノも置かせてもらえた。大学の近くのピアノも

          窓からの風景。雨、スニーカー、洗濯物。