裏切られたと感じるのは期待しすぎているから
1対1で対面のやり取りをしていても反応の薄い人がいる。
それは個別指導の仕事中によく感じることであるが、なにかを説明した後や、話した後のリアクションがない。
聞いていないわけではなさそうだが、メモを取ったり、質問をしたり、頷くことすらせず、無反応で座っている。
説明が合わなかったのかな、と思って再度補足したりすると、微妙に退屈そうな表情を浮かべたりする。
即座に察して次に進んでもやはり、無反応。
「気になるところはないですか？」とか「質問ありますか？」と聞いてもしーん。
この、しーん、は結構傷つく。みぞおちにナイフが刺さったような痛みがあり、苦しい。
嫌われてるのかなとも考えるが、特にクレームになることもなく、講師交代にもならず、宿題はやってきたりするので授業の進め方自体は問題ないようだ。
私を動画の中の人とでも思っているのだろうか。同じ生身の人間だという認識がないのかもしれない。
オンラインならなおさらである。
冒頭に「お元気でしたか？」とか、「調子はどうですか？」と尋ねても、しーん。
聞こえていないのかと思い、「聞こえますか？」と言ってみると「はい」という返事。
え？聞こえてるんだ、という驚きとともに、答える価値もないと判断されたつまらないことを尋ねた気恥ずかしさで出鼻をくじかれる。
その後も、一人芝居に一人相撲。
相当落ち込んでいるが、それでも明るく説明を続ける。
そして終わるころにはメンタルがやられている。
だが、同じ個別指導の現場や、カフェ、美容院などで他人の会話を聞いていると、相手の反応を気にせず自分の話したいことを好きに話している人々もいる。
よく見ると聞いている側は飽きていたり、退屈そうな場合もあるが、話し手は気付いていない。
1人で楽しそうに延々と自分の話をしている。
めちゃくちゃメンタル強いなと思う。
一方で、私から見ても、相手のリアクションを気にしながら話し方を変えたり話題を選んでいる人たちもいる。
そして、その人たちは私が話している時に、こまめに分かりやすく反応をくれる。
また、年に1人くらい緘黙症の人の授業をすることもあるが、言葉に出して話さなくても、彼ら彼女らは、おおきく頷いたり、首を傾げたり指をさすこと、アイコンタクトなどでコミュニケーションを取ってくれる。
なにが違うのだろうか。
こまめに反応をくれる人たちは、自分の反応が相手に与える影響を意識している。
私もそうであるが、適切なタイミングで反応することが、いかに話し手にとって心地よい環境を生み出すか、空気を穏やかにするか、自信を持って話しやすくさせるものかを理解している。
ある意味で気を遣っているのかもしれない。
反応のない人たちの心理は何年も分からずずっと悩んでいたが、最近仮説を立てられるようになってきた。
きっと反応しないタイプの人たちは、自分が反応されるかどうかも気にしないのだと思う。
先ほどの、相手の反応を気にせず自分の話をし続けられるタイプだ。彼らは自分が聞く側に回った時、あからさまに反応が薄くなる。
自分が他者からのリアクションを期待しないから、自分も同じようにリアクションせずにいる。
私のように反応がないことに悩む人がいるという発想すらないのかもしれない。
反応がないことで受けるダメージを想像できない、というか本人がダメージを受けないからまったくそれに関して気を遣うということを思い付かないのかなとも思う。
色々な人がいるのだなと驚く。
同時に、悪気がないことを知り、ほっとする。
むしろ、他人の基準に左右されず自分軸を持てているのが羨ましい。
よく考えてみればダメージを受けているのも私の勝手である。
相手はダメージを与えているつもりは毛頭ない。
反応がないことに傷ついたことを伝えたらとてもびっくりし、むしろダメージを与えてしまうかもしれない。
私が反応のなさに傷つくのは、反応を期待しているから。
ただそれだけであると気付いてからは、いちいちナイフでみぞおちをえぐられるような感覚がなくなってきた。
コミュニケーションにおける反応の有無と同様に、人から裏切られたと感じる時は、一方的な期待が過度になりすぎていないか、立ち止まって考えてみると辛さが和らぐ場合がある。
相手が自分の期待通りの反応をしなかったとしても、相手に非はない。
自分の期待値が高すぎただけである。
他人にまったく期待せず生きるのも寂しいが、期待値を下げることで傷つく回数と程度が減少することは確かだ。
会話で相手がしーんとなっても、話を盛り上げてくれたり、場を和ませてくれるはずだと期待していなければなにも感じない。
最近はむしろ、自分のメンタルを鍛えるチャンスだと思うようにしている。
これからの季節、日本全国でどれくらい
｢最近暑いですね。｣という挨拶の次に交わされる決まり文句に対してしーんという反応が繰り広げられるのか。
私もこの夏だけで数百回経験するだろうが、いちいち傷つかないようにしよう。
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