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違法散歩

たかが散歩で法律を犯すことは非常に難しい。犯罪者の思考においても、気分転換中に犯罪を犯すのはリスクを伴い、非合理的である。

だが、私はそれをしばしば行う。万引きや窃盗など、私に利がある仕方で犯罪を犯すわけではない。私はただ、不法侵入を散歩中に行う。散歩中に何軒不法侵入を行えるか、私は個人的に毎日競っている。

私は今日、最も難しいミッションに挑戦している。とはいっても趣味の範疇で、このミッションには何の意味もない。

今日のターゲットは港区に本社を構えるカノンという大企業である。

この会社には、24時間警備員が滞在している。そのため、今までも狙ってはいたものの、侵入できずにいた。だが、たくさんの経験を積み、スキルを身につけた今、警備員の目をくぐり抜け、何とか侵入しようと考えたわけだ。

ビルの入り口の左脇に警備員の部屋があり、透明なガラスから目を光らせている。私は会社の周りを何周も歩きながら、思考をした。

私は警備員の目をくぐり抜けるのは無理だと悟った。そのため、強行手段に出ることにした。

カノンの入り口から入り、警備員室を無視してそのままエレベーターまで歩いた。

警備員は私のことを社員だと思ったのか、にこやかに挨拶をし、そのまま業務に戻った。

しかし、キーがないためエレベーターに乗れずにいた私を不審がり、警備員室を出て話しかけてきた。

『会社の方っていうわけではないのですか?』
私は頷いて言う。
『会社の方というか、地球の方です。』
警備員はへ?と言った。
私は続けた。
『地球の民として、地球散策をしていたところ、このビルを見つけました。当然このビルも地球のものですから、ここを散策しようと思ったわけです。要は散歩の延長線上にこの会社があったわけなのですが、よろしいでしょうか?』
警備員は意味がわからないと言った顔をして、何が?と言った。
私はよければお話ししませんか?と言い、警備員に会社の中に入れてもらった。
私は自分の身の上の話をした。
『私はガイアの意志で、地球を見て回ってるのです。だから、法とかルールとか言うものは私には通用しません。少なくともあなた方が勝手に所有地にする前から、地球自体がガイアのものですから。』
もちろん全くのハッタリである。私は普通のおじさんであり、散歩の延長線上で不法侵入をしているだけである。
警備員は恐ろしいものを見るような顔で私を見た。
『そ、そうなんですね。それで、私は一体なにをすればいいのですか?』
私は答えた。
『よければ、もっとお話をして友達になりませんか?私は地球の人間というものをよく知りたい。』

私はこうして最難関ミッションをクリアした。私はこの経験から、あらゆる会社の警備員と友達になり、あらゆる会社への不法侵入を可能にした。
もはや不法ではないレベルである。そして、ネットでは、ガイアの意思が散歩をしているという噂が広まっている。

私は意味もなく不法侵入を繰り返す団体を作り上げた。これは趣味の延長線上であり、また全人類が土地の所有を手放し、自由にアクセスできるようになるための布石である。

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