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海外ロックフェス参戦記3



ホテルの朝食はもちろんEnglish breakfastで、まずポットたっぷりのお茶とミルクがサーブされる。ビュッフェで選んだのは、ソーセージにベーコン、スモークドキッパーとサーモン、輪切りのグリルドトマトにシイタケのような平たいキノコのソテー。ソーセージは少しぶよぶよしてハーブの味がきいており、スモーキーなベーコンとの相性がいい。グリルドトマトは熱を加えトマトそのものの甘みを引き出したところに、ほんのり塩味がついている。シイタケのようなキノコのソテーも、塩味だけだが味わいが深く絶品だ。


スモークドキッパーは塩漬けニシンをスモークしたイギリスならではの一品で、イギリスの往年のバンドSupertrampのBreakfast in Americaの歌詞にも出てくる。電熱パネルをゆっくりと回転させるトースターで、カリカリに焼いた薄切りの全粒粉トーストに載せて食べる。日本の身欠きニシンよりコクが深く、口に含むとスモークの香りも広がり、おいしい。

3イングリッシュブレックファースト


二枚目のトーストは薄くバターを塗った上に、“くまのPaddington”の様にマーマレードをたっぷり塗り、コクのあるミルクティで流し込んだ。何枚も食べられる気がする。

あまりに寒く、備え付けのバスタオルを2枚カバンに忍ばせ、肩とひざに掛けてしのいでいたが温まってきた。食後、オレンジ、紅茶で煮たプルーンとアンズ、ヨーグルトと食べる元気も出てきた。
イギリスのメニューには生野菜が少ない。代わりにこういったドライフルーツで食物繊維を摂っているようだ。

昨日は一日を棒に振ったが、今日は充実した、いい日にしたいと思った。

食べ終わると、ちょうどパリ発の朝便が空港に着く頃合いになった。少し早いとは思ったが、フロントに寄りトランク受け取りの段取りをつけようと、この日の担当に事情を話す。

「航空会社には私から連絡をお入れしましょう。よろしければバゲージクレームと配送の控えを頂けませんか」
空港のLCCデスクに連絡をしてくれ、何やらやり取りが続くのを待つ。時間が経つにつれせっかく食事で温まったものの、フロントにいると人の出入りで外気が入り込み寒くなってきた。
しばらくのやり取りの後フロントデスクは受話器を置くと
「LCCの貨物担当はホテルへの配送時間が確約できない、と言っています。早いのは配送を待たずに、空港へ取りに行くことですが」
と尋ねてきた。
「昨日は部屋で過ごしましたが、今日はフェスの初日なので、もちろん見に行きます。なのでWellies(長靴)や着替えのシャツが無いのは困ります。それに、そもそも上に着るものが手元になく寒くてたまらない、体調を崩すことも心配です」
と窮状を訴える。
「手を考えましょう。少しお時間をください」
「わかりました。部屋で待つことにします」
私は部屋に引き上げ、ベッドに入って暖をとった。


しばらくすると部屋の電話が鳴った。マイヤだった。
「おはようございます、マイヤです。
 ホテルのミニバスを空港までお出しすることにしました。ドライバーが
ご一緒し、荷物の引き取りをお手伝いします。ご都合はいかがですか」
「すぐ行きます」

バスタオルをショール代わりに下りていくと、マイヤが玄関前のワゴン車に案内してくれた。銀髪の初老のドライバーはフロントと同じユニフォームのジャケットを着ていて、紳士然とドアを開けて迎えてくれた。
「事情はお聞きと思いますが、とにかく寒くてバスタオルを羽織っています。こんな格好で失礼しています」
「お気になさらずに。白はどんな女性にも似合うものですよ」
「お世辞がお上手ですね、でもそう思って堂々とすることにします」
暖房をつけてくれたのだろう、車内は温かく快適だった。

到着ロビーのLCCデスクまで付き添ってもらい、書類にサインをして無事トランクを受け取ると、車まで運んでくれた。
「ご家族と何かおいしいものでも召し上がってください」
ホテルに着き荷物を下ろすタイミングで、私がチップを渡そうとポンドを出すと、とんでもないと驚いて受け取ろうとしない。
「どうぞ楽しんでいらしてください。どうか暖かくして」
その言葉にこそ、温められたのだが。

3トランク

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