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なぜD2Cは失敗するのか?~ブランドビジネスの落とし穴~㊦

どうも、荻窪に住むネコです。

大手小売で新規事業開発や構造改革プロジェクトなど経営回りの泥臭い仕事をやってます。実体験から学んだことを発信したいと思います。1つでも世の中の為になったら幸いです。

前々回の記事㊤では、D2Cビジネスが拡大している背景についての考察を行い、前回記事では、その続編としてD2Cのビジネスモデルについて深堀りをしました
今回の㊦は、D2Cの収益性を疑っていきます。
そして、そこに対して経営視点でどんな対策を打ち込むべきか、という非常に実践的な内容でお伝えしたいと思います。
ようやく㊤㊥㊦の㊦、最終回です。


高収益に立ちはだかる3つの壁

 D2Cの高収益のワケは、直販によって得られる高い粗利と物流効率、そして直接の顧客接点による商品開発精度の向上、だと説明しました。
 つまり、言い換えると、もともと小売業者が担っていた機能を内製化することで、自社において構築されるバリューチェーンが高収益のワケということになります。

 ということは、ブランドやメーカーの主業務である「生産機能」に加えて小売業者の役割をも競争優位性が得られる水準にまで自社で高めていかないといけないということです。これが非常に難関ということなんです。

 ひとつずつ説明していきますが、まずは結論から言います。
壁①販売、壁②マーケティング、壁③データ管理には多くの時間と資金とノウハウが必要 で、なかなか超えられない壁となってきます。

壁①から説明します。
壁①販売
 小売業者では当たり前の機能「販売する環境」を整える必要があります。
ブランドやメーカーがその機能を自社で構築しようとすれば、まずはリテールに強い人材を確保して、WEBであればサイト設計、店舗であれば土地やテナント契約から販売員の雇用と教育。
さらに在庫システム開発、そして商品登録などの付帯業務までオペレーションを組み上げる必要があります。

次に②です。
壁②マーケティング

 新しく作ったお店やサイトですから、認知もされてなければ、流入もありません。自社の見込み客には広告を打つ必要があります。消費者というのは初回利用に対して非常に労力を要するので、丁寧に購買までの動線を設計する必要があります。その分マーケティング費(CPAと言ったりしますが、ここでは割愛)は高くなりがちです。

次は③です。
壁③データ管理
 会員登録をしてもらって顧客情報を管理することで始めて分析が可能となります。顧客情報は非常に取り扱いが繊細ですので、情報漏えいへのリスクマネジメントをしながら、分析/活用可能なシステムとオペレーションを構築することが必須となります。管理と運用にはランニングコストが発生します。

 このように小売業者が担う機能を完璧に内製化してはじめて最適なバリューチェーンが構築され、商売のサイクルがきれいに回り始めます。そうしてやっと高収益が実現されるというわけです。

 よりイメージしてもらえるようにいくつか失敗事例を挙げたいと思います。


①消費者の来店ハードルが高く、リピートされず、固定客がつかない

 マーケットプレイスからは独立してサイトやお店を構えるわけですから、消費者からしたら、ひとつ場所にまとまっていて買い回りできるお店に比べて、利便性は低くなります。そのブランドや商品のためだけに来店しないといけないということです。
例えばですが、「ルミネにいけば色々揃ってるから化粧品買うついでに洋服も見てみよう」ではなく、「ディズニーに行きたいから遠くても行こう」という強い気持ちを持ってもらう必要があるということです。


②ユーザー獲得コストが下がらず、対売上広告費比率が高止まりし、赤字から抜け出せない

 例えば、既存顧客を持つ小売業者の広告媒体に委託費を払って載せてもらえば、すぐに多くの顧客へ比較的安価にDMを出せます。
 一方で、サイトやお店自体の認知度が低く、個店という消費者にとっては流入ハードルが高い場合は、わざわざ来てもらうための仕掛けをして、更に見込み客を見つけて、、、なんてやっているとかなりの時間を要するため、いつまでたっても顧客を一人獲得するのにかかる費用が高額のまま、ということが起こります。


③分析に使えない情報ばかり収集して管理コストばかりが増え、データ活用に行き着かない

 「消費者行動をよく理解し、取得データから打ち手を考えていく」というのも非常に難しい作業になります。
よくあるのが、何も考えずに、お客さまに電話番号、住所、年齢、趣味、などを登録してもらっているケースです。なぜその情報をいただく必要があるのか?データの活用目的を明確にしないままでは、ただ管理コストが上がる一方です。
更には電話番号や住所は、絶対に情報漏えいしてはいけない個人情報に当たりますから、何となくデータ取っておこうの感覚では、経営リスクが上がるだけです。

 このように、本来は生産から販売に至るサプライチェーンにおいて役割機能が分割され各レイヤーのプレーヤー同士が自身の領域の専門性を高めて付加価値を作り上げているところを、すべて内製化するわけですから、D2Cというのはプロ集団の集まりということになります。
 だからこそ自社内ですべての機能がプロフェッショナルになるとすれば、複数プレーヤーでやり取りするよりも、意思決定も情報伝達もオペレーションも効率化されますので、高収益が実現されて然るべきなのです。


D2C成功のカギ

 これでお分かりいただけたと思います。D2Cというのは、商売のプロ集団である。そして、D2Cを志すその多くは、その領域まで競争力を高められずに、小売業者への出店を開放したり、廃業したりしていくのです。
 とはいっても、やはりSNSに代表される個の時代、つまり消費者主導の時流としては、対象顧客だけにターゲットを絞って濃厚なリレーションを築いていく、というD2Cの構造はとても魅力的だと私も感じています。
なので、このテーマの締めくくりとして、私が実際に多くのスタートアップビジネスの投資分析や、小売業の構造改革を担当する中で実践してきた成功のポイントをまとめておきたいと思います。

なぜD2Cは失敗するのか?~ブランドビジネスの落とし穴~番外編



それでは、また。

なぜD2Cは失敗するのか?~ブランドビジネスの落とし穴~㊤ https://note.com/mem_yu/n/nd2053b057950

なぜD2Cは失敗するのか?~ブランドビジネスの落とし穴~㊥ https://note.com/mem_yu/n/n1afddd6b771d

vol.4

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