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夏を愛せるひとつの理由

天窓から入った
日差しの暑さに起こされた午前9時。
輝かしい日光の隙間から彩度の高い青さが
ほんの少し窓の枠内に広がっている。
外に出るのが億劫になるこの時期を
唯一愛せる理由がある。


深く、濃く、どこまでも果てのない
青いキャンバスに描かれた純白のお城。
暑さで歪む道路の境界線。
ボトルに滴る水滴が儚く落ちる光景。
死者を迎え供養するお盆。


眩しいほどの生命たちの輝きや彩度と
生前の思い出と記憶を同時に招き入れること。
今を生きるものたちと過去を生きたものたちが
同じ場所で思い出を語らう。
そんな瞬間が訪れる夏が私は好きだ。


見上げれば大きく広がる青い空と
白く佇む入道雲。
こんなにも単純でシンプルな光景の下では
とてつもなく複雑で難解な出来事が
日々繰り返されている。
そう。私たちは
たくさんの複雑さの中で生きている。


複雑さの中を生きていくことで
今を生きる生命たちの輝きや
亡くなった大切な人たちとの思い出や言葉を
見失ったり、忘れてしまいそうになるけれど
そんな私の心を引き戻してくれるのが
夏の存在だと思っている。


ひとつ。行きたい場所があるのです。
遠い未来に私が消えてしまったら
あの大きな純白のお城へ行ってみようと思う。
そして、その日の冒険談を
君に聞かせてあげよう。
私を呼び戻す。その瞬間が来た時に。

めろんだいふく


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