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しんどい思い出を履歴書に書きたくない人のための、「経験中心の履歴書」づくりのコツ

先日、ある起業家がテレビ番組「選挙ステーション2021」で提唱した「学歴中心の履歴書から経験中心の履歴書へ」という発言がSNSで物議を醸していました(動画はこのリンク先、発言のサマリは以下の記事が分かりやすいです)

就活業界に携わっていた立場として、日本の新卒採用では、すでに「経験中心の履歴書」がスタンダードであると感じています。自分の人生を語るときには一貫性のあるストーリーが求められますし、「学生時代に頑張ったこと」を通じて企業で活躍できる再現性を語ることが暗に要請されます。番組内の視聴者投票で「共感しない」という意見が過半数を占めたことは、そのような背景もあるのではないかと思います。

この主張に対する反論として多かったのは「履歴書に書ける"経験"はすなわち、海外留学などの"お金で買える経験"ではないか。こうした経験を優遇することで、高所得な家庭ばかりにチャンスが集中し、かえって経済格差が拡大するのでは」という指摘でした。番組内で、発言者の方はこうした声に応じる形で、以下のようにコメントなさっていました。

私は履歴書に「いじめられました」という経験を書いたんですけれども。それは日本でいじめられました、そこにお金は発生していません。いじめられていた時は誰も話してくれなかったから、寂しい思いをして。そのときに、話しかけてくれた子がすごく今の原動力につながったので、そういう子になりたいなと。誰一人取り残さないようなコミュニケーションをしたい、建設的な対話をしたいな、と学んだことがあった。

(動画32:40〜33:10)

なるほど。お金のかからない苦労から得た学びも、誇るべき"経験"といえるかもしれません。辛い思い出を原動力にできるなんて、とても立派なことです。しかしながら、こうも思うのです。

いじめられた人は、あの理不尽な苦労から学びを得なければいけないのか?
あのクソみたいな日々を「学びをもたらしてくれた"経験"」として履歴書に書けというのか?
ふざけんなよ。そんなのまっぴら御免だ。

そんな気持ちにまかせて筆を執りました。自分の思い出語りと、就活に携わった立場からのハウツーを組み合わせた長い記事です。

今まさに同じ気持ちで履歴書やESに向き合っている方は、長らくお待たせしました。目次から真っ先にハウツー部分に飛んでいただけたらと思います。後半はあなたに届いてほしくて書いたパートなので、遠慮なく前半を飛ばしていただけたら本望です。

「いじめられた経験を履歴書に書けばいいじゃない」は楽観的すぎる

――いじめられた経験から得た学びを履歴書に書けばいい。

個人的には、あまりにも楽観的なこの発言に引っかかりを覚えました。なぜなら、私もこの方と同じく学生時代にいじめを受けたことがあり、この方と違って未だに当時の苦しみをポジティブに捉えることができないからです。

どうしてこの発言に異を唱えたくなったのか、自分なりに整理してみました。

理由1:苦しい経験は、語ることに痛みを伴うから

学生時代のいじめの記憶は私を長らく苦しめ、社会人になってからメンタルクリニックに通院したことで、やっと悪夢やフラッシュバックが収まりました。今でもフィクションのいじめシーンを見るだけで動悸がします。

30歳を目前にした今もこんな状態ですから、新卒就活のESによくある、生い立ちや原体験を問う設問に頭を抱えました。自己分析で定番の「幼少期から今までの出来事を振り返りましょう」「感情のグラフを書きましょう」というワークは、いじめを受けた時期で手が止まりました。人生に紛れもなく大きな影響を与えている出来事ではあるものの(いじめっ子と関わりたくない一心で進路選択をし、彼らから逃げるように塾に通う日々のなかで大学合格の基礎になる学習習慣が身につきました)、とても前向きに語れる精神状態ではありませんでした。

企業のインターン面接で生い立ちを深堀りされたとき、いじめの話をして涙ぐんでしまい、選考に落ちたことを今でも覚えています。今となってはご縁がなかった要因は別のところにある気もしますが(後述)、就活生の当時は「自分の傷口をえぐってまで辛い過去を話したのに、認めてもらえなかった。私の苦しみには何の価値もないんだ」と心が折れそうになりました。

そもそも過去を語るだけでトラウマを呼び起こされる人もいるでしょうし、苦しい"経験"が選考材料としてジャッジの対象になることは、想像以上の痛みを伴うことがあることをお伝えしたいです。

理由2:苦しい経験をしても学びを得られない場合があるから

起業家の方の発言では、いじめられた経験から「誰一人取り残さないようなコミュニケーションをしたい、建設的な対話をしたい」という学びを得られたとの話がありました。それはとても喜ばしいことです。しかし、残念ながら、しんどい経験が常にポジティブな結果をもたらすわけではないとも思います。

過去に職場での暴力やパワハラに苦しんだ方のインタビュー記事に「まさに」と感じたご発言があったので、引用してご紹介します。

今日はこれを伝えたいと思って来たんですけど、私は「あれがあったから今がある」とは思っていません。そんな考え方はしちゃいけないと思う。というのも私、あの店を辞めてからのほうがずっと、何倍も菓子職人としての能力が伸びたんです。知識や技術は平穏な環境があってこそ身につくもの。本当に……本当に無駄な時間を過ごした。まともな職場で働き始めていたら、もっと早く今みたいになれてた。
こういうことを言えるようになるまで時間がかかってしまったけれど、つらい経験をしたぶん能力がつくなんてことはないって断言します。どんどん伝えたい。ひどい環境にいるからこそメンタルが強くなったなんて思わなくていい。ひどい環境から離れることは逃げじゃないって言いたいです。

https://toyokeizai.net/articles/-/609771?page=4

一般的な履歴書では、短期間で離職した職歴や、ネガティブな退職動機は「ふさわしくないもの」として書かないように勧められます。経験重視の履歴書においても、苦しい過去を「何も得られませんでした」と総括するわけにはいかないはずです。

転職活動ならまだしも、入学試験や新卒就活を経験するくらいの年齢だと、人生の大半は自分の意思ではどうにもならない環境的・経済的な要因が大きく左右するはずです。辛い出来事から学びを得られなかった人は、スカスカの履歴書を甘んじて受け入れるべきなのでしょうか。無理やりポジティブな解釈をして、書ける"経験"としてお化粧をするべきなのでしょうか。

理由3:苦しい経験ほど、時間と気力を奪われるから

「そんなに辛いなら、履歴書に書けるような別の"経験"を得たらいいじゃない」という指摘は欺瞞だと思います(強い言葉を使って恐縮ですが)。
苦しい時期が長ければ長いほど、そのほかの"経験"を得るための機会や気力が奪われやすい
ことも忘れてはなりません。

環境が変われば解決しやすい学校のいじめはまだしも、幼少期からの貧困や忘れがたい暴力、ひきこもり、ヤングケアラーの役回りなど、長きにわたって逃げ場のない困難もこの世には存在します。強い苦しみが影を落とし、プラスの出来事になかなか目を向けられない人もいるはずです。


苦しい経験をバネに、前向きに人生を歩んでいる方はとても素敵だと思います。でも、みんなが同じようにできるわけではないし、みんながそうあろうとする必要もない。いまだに「辛い過去から何も得られなかった」と感じる私は、そう思います。

しんどい思い出を履歴書に書きたくない人のための、「経験中心の履歴書」づくりのコツ

辛い過去を履歴書の"経験"として書きたくない人は、どうしたら「経験重視の履歴書」を突破できるのでしょうか。今回は、新卒〜第二新卒の就職活動を念頭にしたハウツーをお伝えしたいと思います。

これは、私にとって第二新卒からの転職活動が「劇的に気楽だし、なんか成果が出る!」と感じたことをヒントにしたものです。新卒就活と比べて、よい方向に作用したと思うポイントをまとめてみました。

1.今の自分が持っている良さを客観的に知る

私のように出来事を時系列で書き出すと手が止まってしまう方は、過去からの積み上げではなく、今のあなたを明らかにすることから始めてはいかがでしょうか。手始めに、データ量の多い診断コンテンツで自分の特性や長所をつかんでみることをおすすめします。無料で手軽に受けられるものだと、以下が良かったです。

VIA Character Strength Survey
自分の生来生まれ持った長所を診断してくれます。取っ掛かりにおすすめです。サイトトップは英語ですが、診断は日本語で受けられます。

COLOR INSIDE YOURSELF
日本語の自己分析ツール。自分の性質をゲームキャラのように表現してくれるほか、自己PRの例文もついてくるので心強いです。

Jobgram
職業人格に特化した診断なら、これが詳しくてよかったです。定期的に受け直して定点観測するのもいいと思います。

今のあなたの特性や強みを知り、アピールポイントを明らかにすることで、2以降のステップが格段にラクになります。客観的な診断結果は素直に受け取りやすいのもメリットです。遠慮や深読みをせずに自分の強みを認識できるので、失った自信や自己肯定感を取り戻しやすくなります。

2.エピソードは「強みとの関連度」と「自分の意思で決めたこと」に集中する

ESや面接で伝えるエピソードを考えるときは、影響度の大きさではなく「今の自分の特性・強みと関連しているか」「自分の意思で決定したか」で優先順位をつけてみてください。どんなに重大な事件でも、人生に落とす影が大きかったとしても、自分の強みにならず・自分で決めた道でもないなら「過去のできごと」として語らない選択をしてもよいのです。

前者の「強み・得意との関連」については、先ほどご紹介した診断を受けてみるとヒントになると思います。後者の「自分の意思で決定したか」については、こんな問いを自分に投げかけてみてください。

  • 自分で「やりたい」と思って、試してみたことは何ですか

  • 自分で「やる」と決心して、実行したことは何ですか

  • 自分で「やってみた」ことで、良い変化が起きたことはありますか

  • 周りに勧められたり強制されたりしても「やらなかった」ことは何ですか

  • 誘惑や障害があったけれど、自分から「やめた」ことは何ですか

これらは、あなたの苦しい思い出に比べて、どんなに些細なできごとでもかまいません。また、苦しい時期のできごとでも「このエピソードだけなら話せそうだ」と思えるものがあるなら、前後の文脈をあなたの心の負担にならない範囲で調整するとよいと思います。

こうした「自己決定」が絡む経験は、社会に出るとぐっと増えていきます。決められた手順や不可抗力があったとしても、責任ある立場として主体的な判断が求められるからです。その点で、転職時の職務経歴書はポテンシャル重視の新卒就活に比べて書きやすくなるのかもしれません。学生の方も、どんなに小さな役割でもかまわないので、自分が何かの判断を求められたときのことを思い出してみるとよいでしょう。

3.企業の選考基準は「自社で活躍できるか?」だと肝に銘じる

上記のエピソードについて、できごとの規模や影響度を気にしすぎる必要はないとお伝えしました。その理由は、採用する側を経験したことで、企業の選考基準は「この人は、入社後にウチで活躍できるか?」「ミスマッチですぐやめないか?」だと理解できたからです。

どんなに優秀そうな方でも、どんなに華やかな"経験"があろうと、「自社で活躍できるイメージがわかない」という理由で採用を見送った方がたくさんいらっしゃいます。同様に、どんな悲惨な過去や苦しい経験も、その方が自社で活躍できるイメージとつながらないのであれば、選考においては加点材料にならないのです。

私がいじめられた過去を話して選考に落ちたのは、こうした採用側の視点が抜け落ちていたからだと思います。私は起きたことの辛さや、人生に与えた影響の大きさを語るに終始してしまい、自分の強みを裏付けることができていませんでした。結果として、ただ辛い思い出をほじくり返されるだけに終わってしまいました。

裏を返せば、一見すると平凡なエピソードも、企業の求めるポイントをおさえていれば魅力的な自己PRになりえるのです。ご自身の辛い思い出に向き合って傷を深めるよりも、志望企業の研究に時間を使っていただきたいと思います。以下の記事を参考にされてみてください。

どちらも私が過去に編集を担当させていただいた記事ですが、いま読み返しても色褪せず役立つと感じる内容です。1本目にご紹介した"「普通すぎる」MARCH生の就活全勝メソッド"は連載記事です。このnoteに興味を持ってくださった方は、ぜひシリーズを通して読んでいただきたいです。きっと助けになると思います。

4.深堀りされたくない質問には「ウソではなく・語りやすい答え」を用意する

最後に、ちょっとだけテクニックのお話です。

ここまで準備を重ねたとしても、やはりよく聞かれやすい質問はあります。特に幼少期から形成されたパーソナリティや、人生のターニングポイント(進学、引っ越し、留学、前職などなど)にあたる経験は、どうしても「なぜ?」「どんなできごとがあって?」と深堀りの対象になりやすいものです。こうした背景を語るうえで、思い出したくないできごとが関わることはあるでしょう。

そんなときは、「ウソではなくて、語りやすい答え」を用意しておくことをおすすめします。つまり、掘り下げられたくないポイントから面接官の視点を外すようにして事実を話すのです。例として、私の経験を2パターンで表現してみました。

<ありのままの答え>
私:私の強みは、目標を達成しようとする意思の強さです。
面接官:どんな経験でその強みを得たのですか?
私:学生のころ、毎日のように塾の自習室に通ったことからです。学校に居場所がなかったので、塾だけでも成績上位のクラスに入って自尊心を保とうと必死で頑張りました。結果として目標とするクラスに入ることができ、コツコツ勉強することを習慣にできました。

ありのままの答えは、「え、学校でなんかあったの?」という感想を真っ先に持ちますよね。辛い思い出を掘り下げられる可能性を自ら高めてしまっています。続いて、用意した答えの例もご覧ください。

<ウソではなく語りやすい答え>
私:私の強みは、目標を達成しようとする意思の強さです。
面接官:どんな経験でその強みを得たのですか?
私:学生のころ、毎日のように塾の自習室に通ったことからです。成績上位の10名だけが入れるクラスに入ることを目標に、毎日決まった時間・決まった場所で勉強することを習慣づけました。結果として目標とするクラスに入ることができました。

学校でのエピソードは省略し、具体的にどのようなことをしたかに焦点を当てる回答をしました。予想される掘り下げも、「ルーティンが崩れることはなかったのか?」や「ほかに工夫したことはあるか?」など、「どのように」に焦点を当てたものになりやすいはずです。

嘘のエピソードを用意したり、必要以上に盛らなくても大丈夫です。語る内容や角度をうまく調整し、自分が語りたいことを掘り下げてもらえるように工夫するとよいでしょう。辛い思い出を話さなくて済むだけでなく、追加アピールのチャンスにもなります。

採用されるのは今のあなた、活躍するのは未来のあなた

ここまでご覧いただきありがとうございます。感情にまかせて、長い乱文を日付が変わるまで綴ってしまいました。

夏休み明けの9月1日は、当時の私にとって1年で最も呪わしい日でした(4月1日も同じく呪わしい日です。クラス替えで私をいじめる人がシャッフルされ、新鮮な苦しみがやってくるからです)。学校に行きたくないから、ベランダから飛び降りて大怪我をしてやろうと思ったこともありますし、夜の学校に放火してやろうと思ったこともあります。そうする度胸もなかったので、深夜までFMラジオを聞いて、泣きながら目覚めて、親に怒られながら玄関を出て、長い通学路を「今日はいじめられませんように」と手を合わせながら歩く日々でした。

私はあの頃を今でも忘れられませんが、これまで一度たりとも「いじめられて学びがあった」「あの経験があったから今の私がある」と感じたことはありません。また、現在に至るまでの仕事の適性や私のパーソナリティにも、過去の辛い経験は何ひとつ関係なかったと確信しています。

冒頭にご紹介した一件で心がざわついて、「こういう人もいるから大丈夫だよ」という気持ちでこのnoteを書きました。9月1日を呪っていた過去の自分、ESが書けなくて深夜のダイニングテーブルで泣いていた過去の自分、そして当時の私と近しい境遇にある方に届くといいなぁと思っています。

何よりもお伝えたいことは、どんな履歴書を求められようとも、採用されるのは今のあなただし、活躍するのは未来のあなただということです。どうぞ辛い過去はさておいて、明るい未来を切り拓いていただきたいと思います。

明日もいっしょに、なんとか生き残ってみせましょうね。

2022/09/01深夜
めいこ


改めまして、スタートアップに勤めながら副業でライター・編集者をしております。

東大卒→公務員→スタートアップという経歴に悶々としてみたり、

就活に悩みまくった経験から、前職の就活メディアではTwitterで就活相談をお受けしていたこともありました(今は一身上の都合でやめました)

最近は思うことがあると、急に長文のハウツーを書くのが趣味になりつつあります。なんででしょう……。

よかったらまた遊びにきてくださいね。


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