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ずっと心に残っている短編たち 〜後編〜

私の心の中に、ずっと残っている短編がある。

読んだときの感動や衝撃が忘れられなくて、今でも鮮やかに思い出すことのできる短編たち。


前編に引き続き、私がこれまで読んできて、特に心に残っている短編を3つご紹介する。

それぞれどんな短編なのかわかりやすいように、「◯◯を読みたい人へ」というキャッチコピーをつけてみた。気になる短編があった方は、ぜひ収録されている短編集を手に取ってみていただきたい。



米澤穂信|玉野五十鈴の誉れ

〜「伏線回収に背筋が凍るホラー作品」を読みたい人へ〜


まずは、直木賞作家・米澤穂信さん『儚い羊たちの祝宴』から、「玉野五十鈴の誉れ」という短編。

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

あらすじ

米澤穂信さんのホラー・ミステリ短編集から、最も鮮烈な衝撃をもたらす「玉野五十鈴の誉れ」。ラスト数行の恐ろしさが、読者の背筋を凍らせる。

最初にこの短編を読んだとき、如何ともし難い空恐ろしさに、全世界が信じられなくなった。ただ恐ろしいだけでなく、そこに深い愛情が伴うところが、切なくて良い。伏線を鮮やかに回収する構成になっているのも良い。

時代背景や世界観も含めて、ものすごく完成度の高い短編だ。この世界観に、存分に浸っていただきたい。



恒川光太郎|風の古道

〜「どこか懐かしい異世界ファンタジー作品」を読みたい人へ〜


続いて、恒川光太郎さん『夜市』から、「風の古道」という短編。

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。

あらすじ

古来から日本に存在する、異世界に通じる神の道に迷い込んだ少年が、偶然出会った旅行者レンと共に古道を旅する物語。

どこか懐かしい雰囲気の漂う、独特な異世界ファンタジーの世界観が魅力。彼らと一緒に、不思議な古道を旅して帰ってきたかのような、美しい読後感が味わえる。

表題作「夜市」が有名だが、個人的には「風の古道」の世界の方が好みだ。ラストの哀しさも、味わい深くて良い。



稲見一良|パッセンジャー

〜「幻想が現実とリンクする作品」を読みたい人へ〜


最後に、稲見一良さんの山本周五郎賞受賞作『ダック・コール』より、「パッセンジャー」という短編。

石に鳥の絵を描く不思議な男に河原で出会った青年は、微睡むうち鳥と男たちについての六つの夢を見る―。絶滅する鳥たち、少年のパチンコ名人と中年男の密猟の冒険、脱獄囚を追っての山中のマンハント、人と鳥と亀との漂流譚、デコイと少年の友情などを。ブラッドベリの『刺青の男』にヒントをえた、ハードボイルドと幻想が交差する異色作品集。“まれに見る美しさを持った小説”と絶賛された第四回山本周五郎賞受賞作。

あらすじ

自然や鳥、狩猟をテーマにした短編集で、ハードボイルドかつ幻想的な筆致がとても良い。中でも「パッセンジャー」は、幻想と現実のリンクを楽しむことができておすすめだ。

鮮やかな色彩の鳥を追って、危険な隣村に入り込んでしまったサム。そこで目にした人間の凶行。

自然界の美しさと、人類の愚かさが際立つ作品で、幻想的でありながら、現実と地続きになっているところが面白い。

決してやり直すことのできない人類の過ちに、胸が締め付けられる作品だ。『ダック・コール』は短編集全体としても本当に素敵な作品なので、ぜひご一読を。



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