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ゆるホラー集

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気付いた

気付いた

私、もしかしたら炭酸が好きなのかもしれない。
お風呂あがり、ドライヤーで髪を乾かしながらふと思った。

入浴でたっぷり汗をかいた身体が、強烈に水分を欲していた。冷蔵庫には今朝用意した水出し紅茶があったはず。

……けど。

今は猛烈にコーラが飲みたい!
いやコーラじゃなくても良い。あまーくてしゅわしゅわの何かが飲みたい。

私は、基本的に缶やペットボトルで飲み物を購入することは少ない。家では趣味を

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いる

いる

 仕事から帰ると、その女はいた。
 居室の真ん中に座り込み、胸元まである髪を耳にかけ一心不乱にスマホを触っている。画面に触れている親指だけが忙しなく動いていた。
 俺が何も言えずに立ち尽くしていると、そいつは立ち上がり、
「おかえり、まってたよ」
と言った。薄暗くて顔はよく見えなかったが、声のトーンから満面の笑みを浮かべているのがわかる。
 (なんで?確かに鍵は閉めていたはずなのに)
 俺の困惑を

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事実は書き込みより奇なり

事実は書き込みより奇なり

 藤森豊は、暇を持て余していた。
何もすることがない。できることもほとんどない。くだらない夜の街へ繰り出し、くだらない奴らが歩いている様を俯瞰するのが楽しかったのなんて先週までだった。今では誰がどこをどう歩いていようが何をしていようが何も興味はない。
 藤森は、いくつかの暇つぶしを頭に浮かべては面白くないなと一蹴する作業をしばらく繰り返していたが、ふと思い立ったように近くのインターネットカフェに入

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訪問者

訪問者

友人とzoomで話していると、突然友人が部屋の電気を消した。理由を問うと、

「この時間帯、電気消してないと来ちゃうんだ」

と言った。

「……来るって、虫?」

「いや、何だろうね……インターホンが鳴るんだ。出ちゃうとだめらしいから、息を潜めてやり過ごすの。それ、耳は聞こえないらしいんだけどね」

でも私も半信半疑よ?だって親からそう聞いただけで見たことないしね、と彼女は事も無げにそう言って、

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汽車の夢

汽車の夢

ナースコールが響いた。
深夜2時、暗がりの中にぼんやりと浮かぶナース室には私しかいない。301の数字を確認し、ああ佐藤さんか、トイレかな……と考えながら部屋へ入った。
「佐藤さ~ん、どうされましたか?トイレですか?」
個室なので、ためらいなく明かりをつける。室内にふんだんにばらまかれた光を浴びながら、佐藤さんは静かに首を横に振った。
「いいえ。思い出したんです」
「え?何をですか?」
佐藤さんは認

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「粂樫トンネル」という心霊スポットをご存知ですか

「粂樫トンネル」という心霊スポットをご存知ですか

あなたは「心霊スポット」といえば、どんなものを思い浮かべるでしょうか。

地元住民すら近寄らない廃墟、死亡事故が絶えない峠道など、心霊スポットは様々なものが存在します。

そのほとんどは、噂がひとり歩きして騒がれているだけの場所なのでしょう。

私の地元にある「粂樫トンネル」も、きっとそのひとつに過ぎません。

先日、私は里帰りをしてきました。
その際、以前に家出をして行方不明になった友人、×××

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