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「多様性受けいれ」への種まきを

キラキラ女子そのものであった。私が特に、というのではなく、バブルという名の怪物がとてつもない光線を放ち、光の乱射ですべてがキラキラしているように見えた。私が就職したのはそんな時代だった。

あの頃の私は、何も考えていない無責任のパッパラパーであった。とてもじゃないが真面目な学生とは言えなかった私が新卒で希望した外資系航空会社にいくことができたのは、ひとえに時代が良かったから。あとは運とわずかばかりの積極性。それしかない。

空港で働いてみたい、というその気持ちだけで就職先を選んだ。将来設計とか、有利な資格云々とか、キャリア設計とか、そんなものは全く頭になかった。学生時代から将来のキャリア人生を見据えて行動している今どきの学生さんは本当にすごい。ただただ尊敬する。

社会人なりたてほやほやの頃も、何も考えていなかったというのが正直なところ。空港支店に配属された日本人スタッフは私が初めてであり、若さぴちぴちでニューフェイス(笑)だったことも手伝って、居心地は悪くなかった。

とにかく毎日なにか面白いことが起きた。一度なぜか事務所ににハトが飛びこんできて(?)バサバサ飛び回るのがしゃらくさい、というわけでスタッフの一人が捕まえた。どうするのかなと思っていたら、おもむろに靴下を脱ぎ、脱いだばかりの自分の靴下の中にハトを押し込めたのだ。窮屈な姿勢のまま、その後ずっとハトはじっとしていた。

ハトの行方は聞かずじまいだったが、もしかして食べられてしまったのかもしれない。

空港から近い場所に寮があり、彼らはそこで集団生活をしていた。寮生活を送っていたからか、あるいは国民性なのか、同僚というよりも家族といった雰囲気のチームだった。支店長は張さんという名前だったので、私は秘かに「張と愉快な仲間達」と命名した。

毎朝バンで全員一緒に出勤してくる。ついでに寮のコックさんがつくったお弁当も一緒に積んでくる。もちろん私も毎日ご相伴にあずかっていた。大きな弁当箱に無造作につめられた白米、おかずはだいたい炒めもののみである。お昼が来たら事務所でみんな一斉にそれをかっ込む。そう、昭和30、40年代のような雰囲気のなか、私の社会生活は始まったのだ。

***

あのユニークな時間で私が学ばせてもらったことは「多様性」だと思っている。

個人の多様性
民族の多様性
文化の多様性
生き方の多様性
仕事の多様性

心も頭もまだ柔らかなあの時期に、まさに「生きた」多様性にどぼんと浸かることができたのは、幸運だったというよりほかない。


移民大国カナダに暮らして25年になる。移民としての暮らしは、まさに多様性の波間を漂うようなもの。未知の世界を探検するのは楽しくもあり、しんどくもある。マイノリティーとして差別され、嫌な思いをすることもあれば、自分のなかの偏見に気づかされることもある。

偏見のおおもとは、異質なものに対する恐れの気持ちだと思っている。知らないものは誰だってはじめは怖い。だからこそ、骨が折れる作業ではあるけれど、異質な相手を「積極的に知ろうとすること」と同時に、相手にとっては異質な自分を「知ってもらえるよう発信すること」が、大切なのだと考える。

社会人一年生のあなた方は、これからたくさんの「異質」に出会うだろう。学校という狭い社会から解き放たれ、その何倍も何十倍も広い現実の社会を泳ぐことになったあなた方の前には、「不条理なしきたり」「納得いかない指示や評価」「理解不能な古臭い考え」「無意味にみえるルーティン」「あらゆる方面においての世代格差」などといった類が、次々と現れることだろう。

恐怖心やフラストレーションから「異質」を拒絶するのは容易いことだ。しかし、それをする前に、できたらその「異質」を手にとってしげしげと眺めてほしい。なぜこんな形なのか、なぜこんな色をしているのか、なぜこんな硬さ・柔らかさなのか、なぜこんな匂いなのか、なぜこんなサイズなのか。

そのひと手間が「多様性」受け入れへの一歩になる。受け入れられなければ無理して受け入れなくてもいい。ただ、20年前後という年月をかけてあなたという人間が形づくられたように、人であれ、物であれ、考えであれ、あなたが出会った「異質」さにも、それなりの歴史というものが存在する。その事実に思いを馳せることはできるだろうか。

今の自分には受け入れられない。それでもいい。互いの違いを認識し、その存在にいくばくかの敬意を払えたらそれで十分。なぜなら、そうすることによって、あなたは確実に「多様性受けいれ」への種まきをしているから。

人は変わる。経験を積んで成長する。今理解できずとも、蒔いた種が何年、何十年先に芽を出し花を咲かせ、予期せぬ素晴らしい気付きをあなたにもたらすかもしれない。

世界はどんどん狭くなっている。終身雇用制は崩壊し、副業は解禁され、生き方の多様性は爆速で広がっている。いつの間にか世界第4位の移民大国である日本。これからも移民は増え続け、仕事でもプライベートでも、「異質」に遭遇する率は飛躍的に高まっている。

まだまだこれからの社会人一年生にエールをこめて。
「多様性」を受けとめる力は、これからの社会を生き延びるための必須スキルであるということを、ぜひ心に留めておいてほしい。

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