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“お接待文化”がルーツ!? 誰かのためを想って用意する、松山の和菓子とコーヒー

松山市のソウルフードといえば・・・
あまくて、やわやわのアサヒことりの甘いうどん、「瓢系」と言われる甘いラーメン  を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?

松山の人=甘いもの好きが多い

私は、そんな印象を持っていますが、
甘いものの代表格である「和菓子」はどうなんだろう?

城下町文化がある町には、「和菓子文化」も残っているとされています。金沢や京都がそうですよね。

松山の伝統的な和菓子について知りたくて、長年松山でお茶の先生をされていているGAMYの飯田みどり先生へ取材依頼。

すると、面白い事実が見えてきました。


松山の和菓子は、「日常菓子」

今回、お話を伺ったのは飯田みどり先生です。


現在、74歳。18歳から版画家となり、25歳から彫金もスタート。お茶の世界に入られたのは2002年からなので20年前。

お茶というと、お菓子がつきもの。目も舌も肥えられています。

そんなみどり先生がおっしゃるのは、松山のお菓子は、抹茶と一緒に楽しむ上生菓子(造形菓子)というよりは、普段に自分のために買ったり、訪問時に持って行くような日常菓子の方が残っているのではないか?ということ。

みどり先生はなんと!自分で和菓子も、お茶の道具もつくっています!

上生菓子の技術は、とても難しいもの。見た目で、「わっ!」っと心が喜ぶものに仕上げないといけませんし、お砂糖ひとつの選び方で、味の質が随分変わってしまいます。

老舗の和菓子店などでは、後継にきちんと伝達できているかどうかが大切になってきます。

松山の日常菓子は、きちんと“昔の味”がきちんと伝達されている」とみどり先生は言います。

松山のおすすめ和菓子

みどり先生に、個人的におすすめな「日常菓子」を尋ねてみました。
ひとつずつご紹介させていただきます!

白石本舗のしょうゆ餅

創業明治16年の醤油餅専門店の、「しょうゆ餅」。
「しょうゆ餅」は、松山の伝統菓子です。江戸時代初期に松山藩祖の久松貞勝が家臣の繁栄を願って、桃の節句につくったのが始まりだと言われています。以来、松山ではひな祭りで各家庭でつくられるようになったそうです。

お醤油と生姜のあまじょっぱい風味が特徴。もっちりしていて、満足感がありますが、甘すぎないやさしい味でペロリと食べられてしまいます。


林仙堂(りんせんどう)のみたらし餅とうぐいす餅

林仙堂は、和の伝統を守りながら、洋菓子感覚でいただける生クリームや大福も人気のお店。みどり先生のおすすめは、みたらし餅とうぐいす餅です。

みたらし餅(画像は、公式ウェブサイトからお借りしました)
うぐいす餅(おなじく、公式ウェブサイトからお借りしました)

みたらし餅は、薄く焼いたお餅の中にみたらしのタレが入ったおやつです。「みたらし」といえば、みたらし団子を想像する方が多いと思いますが、このお餅は中にみたらしが入ってます。

うぐいす餅は、春から初夏の季節限定のお菓子。求肥でできていて、中は粒あんがたっぷり。まわりにはうぐいす色のきな粉がついています。

労研饅頭(ろうけんまんとう)

昭和6年創業。酵母菌で作った、素朴な蒸しパン。こちらも、松山市を代表するお菓子です。

色とりどりの見た目がかわいらしく、味はほんのりやさしいです。蒸したてのホカホカの状態で食べるのが最高に美味しいのですが、おうちで蒸し直したり、トースターで焼いても美味しく食べられます。

中野本舗の薄墨羊羹

羊羹といえば・・・「とらや」が有名ですが、松山の薄墨羊羹はとらやほど濃くなくて、あっさり食べられる!品のある味です。

中野本舗さんといえば、和洋菓子を融合させたブランド「アンファン」も人気。なかでも「三笑」は、みどり先生もお気に入り!水ようかんと錦玉羹が2層になっていて見た目も美しく、つるりとした口当たりです。


山田屋まんじゅう

もはや全国区ですが、松山の上品なお菓子の代表格「山田屋まんじゅう」!
22gのちいさなおまんじゅう。ひとくち食べると、上質な素材が使われていることが分かるはず。
「おもたせ」にも喜ばれる逸品です。


六時屋の「超特選タルト」

「タルト」と聞くと、サクサクのクッキー生地にフルーツなどを乗せた洋菓子をイメージする方が多いかもしれませんが、松山銘菓の「タルト」は違います。カステラ生地でゆず風味の餡を包んで巻いたロールケーキ状のお菓子なのです。

いろんなお店が出していますが、みどり先生のおすすめは六時屋の「特選タルト」。超特選タルト専用卵(青い卵)、 グラニュー糖、北海道産、極上小豆など厳選された素材でつくられています。茶道の家元さんも絶賛されているそうです。

画像は公式サイトからお借りしました


坊っちゃん団子

松山のお菓子といえば、「坊っちゃん団子」。夏目漱石の小説『坊っちゃん』に登場するお菓子です。抹茶・卵・小豆の3色を串刺しにしたものがポピュラーで、さまざまな製菓会社がつくっていますが

最も早く世に出したのは、道後商店街の「つぼや菓子舗」のものであると言われています。

飽きがこなくてずっと食べられる味。見た目もかわいらしくて、地元民の私たちでも時々食べたくなる味です。



松山でおすすめのコーヒーは?

みどり先生は茶道の先生ですが・・・敢えて(笑)コーヒーのおすすめ店を伺ってみました。

手焼珈琲RODAN(ロダン)

お茶の世界では、飲んだあと器に香りが残るお茶が、美味しいお茶だと言われています。

ロダンのコーヒーは、まさにそれ。
飲み切ったあとに香りの余韻を楽しめるコーヒーなのです。

オーナーのテルさんは、アルカリ水を鉄瓶で沸かしたお湯を使ってコーヒーを淹れます。そうすることで水が甘くなり、美味しく淹れられるのだとか。

テルさんが淹れるコーヒーは時間がかかります。それは、テルさんが全身全霊、“命懸け”でコーヒーを淹れているから。

その姿からも、味からも、テルさんのコーヒーに向かわれる真摯な姿勢が感じられます。

ル・ジャルダン・ドゥ・カフワ

ジャルダンのコーヒーは、やさしくて飲みやすい。
オーナーの伊福さんが、とても勉強して淹れられているのが伝わる味です。

ご紹介いただいた2店舗の共通点は、淹れる「姿勢」だなぁと感じました。

みどり先生は、お茶の先生であり、彫金師、版画家でもあります。
毎回、お茶を点てるとき、お菓子をつくるとき、作品をつくるときに、「どうすればもっと良いものを出せるのか」、それをずっと追求されています。

「これでいいや」が決してない。終わりがない。

私から見ると、それってしんどいことのように思えて、「なぜ、上を目指すのですか?」と尋ねてみました。

すると、みどり先生は「自分への興味でしょうか」と答えられました。

誰かを納得させるとか、賞賛を得るとか、そういうのが目的ではない。
ただ、自分への興味。もっと工夫すれば、どこまでいけるのか。その試行錯誤や鍛錬、姿勢が、美しいものをつくるのかもしれません・・・。

ご紹介いただいた、2店舗のコーヒー店、そして和菓子においても。
同じものを感じました。

どちらも、イートイン、テイクアウトのほか、
豆の購入ができるので、おうちで楽しむことができます。

誰かを想って用意する “お接待”のお菓子

長年、松山の人やお店、お菓子を見つめてきているみどり先生。選ばれたお菓子は、意外にも(?)松山の人なら誰でも知っているような素朴なお菓子でした。

そういえばこれらのお菓子、自分で買うよりも人からもらう方が多い気がします。かといって特別な日に出される「かしこまった」感じではないのです。誰かのために、ほんのちょっとした心配りから用意される・・・そんな存在のお菓子。

親戚の家に行ったとき、「食べておゆき〜」と勧められるお菓子、
ご近所さんからお裾分けしてもらったお菓子。
「よく来たね〜」と、おもてなしの気持ちを表すお菓子。

コーヒーもそうですね。
誰かがきたときに、丁寧に淹れる。
そして、一緒にいただく。

四国には「お接待文化」が残っているといいます。
「お接待」とは、お遍路さんにお菓子や飲み物などを無償で施すこと。

それが、もしかしたら松山の郷土菓子のルーツなのかもしれません。
「お疲れ様」
「がんばってね」
「ちょっと休んでおゆき〜」

そんな、小さな心気配りから用意されるお菓子。

その気持ちが反映されているかのように、どのお菓子も、ほっとする、やさし〜〜〜い素朴なお味なのです。

松山の人は「穏やか」と言いますが、それは、誰かのことを想って用意する「お接待」文化が根付いているからかもなのかも。
相手のことを想いながらも、ちゃっかり自分も一緒にお茶の時間を楽しむ。そんなほのぼのした光景が松山には残っています。

美味しい和菓子とお茶で、一休み♪
特別なときではなく、日常に。
家族と、お友達と、同僚と。

そんな時間を、松山の郷土菓子とともに楽しんでみてはいかがでしょうか。

さて、今回もみどり先生に教えていただいたお菓子屋さん、コーヒー屋さんからピックアップして詳しく取材をしています。

そちらの記事もお楽しみに♪

今回の書き手:大木春菜
大洲市出身、松山市在住。松山ローカルエディターズ編集長。株式会社せいかつ編集室 編集者・ライター。地元も好きだけど、旅も好き。レトロなものやマニアックなカルチャーが好み。手帳のYouTubeも発信中。
Instagram▶︎ooki_haruna
Twitter▶︎haruna_ooki
YouTube▶︎せいかつ編集チャンネル

※記載している店舗やサービスについての詳細は、各ホームページからご確認ください。


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