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「配属ガチャ」という価値観

隣の課の新卒採用の男の子が先週で退職したらしい。

本来ならば年次の近さから頻繁に話してもいいくらいのものだが、課が違うことや業務上での接点も無いため、ほとんど話さないまま退職することになった。聞いた話ではフリーターをしながら何かの資格取得を目指すらしい。

「らしい」というのはそもそも課が違うため関りが無くよく知らないためだ。隣の課の人たちとは数メートルしか離れていないが、「課が違う」というのは思っている以上に距離がある。

その新卒採用のM君は、最初からよく年次有給休暇を使用していた。全日休を使ったり、半休や、時間休を使ったりもしていた。年次有給休暇は確かに権利ではあるものの、1年目からバンバン使うとなかなか仕事が覚えられなくなってしまうため、1年目はほどほどに休むというのが慣例となっている。

あまりにもたくさん休むので、「アイツはよく休む」ということでウチの課でも噂になっていた。それは決して休むことに対しての否定ではなく、「大丈夫か?」という心配を含んだものだった。

当初に聞いた話では「運転免許」の取得のために休んでいると聞いていた。そしてある時からは「病院に通うため」と聞くようにもなった。これらの真偽はよくわからないが、早い段階から転職活動をしていたのだろうというのが周りの人の推理である。しかし、昨今では「パワハラ」を始めとする〇〇ハラというモノがはびこっており、上司もうかつに口出しができないのが現実なのである。

M君がどんな仕事に就くかは自由であるし、M君の本音を聞いたことも無い。ただ、私はおそらく、最近よく言われる配属ガチャに満足がいかなかったのではないかと思う。

最近聞かれるようになった「配属ガチャ」とは、新卒入社後に配属先がランダムに決まることや、その配属に対する不満や不安のことを指す言葉である。通常、入社後や入庁後の配属や上司は人事によって決められるものであるが、近年、特にいわゆるZ世代の間ではそれが就職における不安や不満、ミスマッチの原因となっている面があるそうだ。

本来であれば、配属の希望が叶わない、上司との相性が良くないということは十分に起こり得ることで、むしろそのように自分の思惑通りにいかないことの方が圧倒的に多い。何事も思い通りに行く方が稀であろう。多くの人がそう思い、多くのことを我慢しながら一生懸命に働いているが、最近の就活生や新社会人にとってはそれが単に「配属ガチャ」の当たりはずれという価値観で判断されてしまう傾向があるということだ。

その背景にはゆとり教育の影響があるのか、はたまた売り手市場や、終身雇用制度の崩壊、また転職が珍しくない時代感など、どういった理由や原因によるものかは断定できないが、「希望が叶わなかった」「配属先が希望とは違うのですぐに辞める」ということになりやすくなっているようである。

M君の本音はわからないし、M君が悪いとも思わない(あいさつもなく辞めていくのは悪いかもしれない)。だが、今の時代は「希望は叶わなかったけど頑張ろう」「3年は続けてみよう」という時代ではないということを痛感した。「嫌なら辞める」「希望が叶えられるところに行く」というのが今の就活生や新卒採用者たちの意識なのだ。

時代や価値観はいつも移り変わるモノだ。昔の人はヘルメット無しで原付バイクに乗っていたらしいし、飲酒した後に自動車を運転していたこともよくあったらしい。また、飲み会には参加しなければいけなかったし、定年まで勤めあげなければいけなかった。

だが、それはあくまでその時代、その時点での価値観やしきたりなのであり、時代や環境が変われば、当然それらの影響を受けて、人々の考えも変わる。職業選択の自由も保証されているし、人生は一度きりしか無い。M君が、次こそは当たりのガチャを引いて、どこかで楽しくやってくれることを願う。


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