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5G で加速し、ドローンともコラボする UGV(地上配送車)の未来

 先日、楽天と西友は、横須賀市でドローンを活用した配送サービスをスタートすると発表しました。無人島「猿島」へバーベキュー用の食材や飲料を運びます。

 このように、物流・配送、特に消費者へ物品を届ける、配送の最終局面である「ラストワンマイルデリバリー」を効率化していくものとして、ドローンが注目されていますが、本稿では、空を飛ぶドローンに対して、同じようにラストワンマイルで注目されている地上を走るUGV (Unmmaned Ground Vehicle)について書きます。基本的にはここでは配送目的のUGVとして、高さ100cm程度、積載量50kg以下の自動配送車を想定します。従来は技術的困難さから実現可能性が低いと思われてきましたが、様々な大学や企業による実証研究の積み重ねや、深層学習を中心とした自動配送をサポートする各種AIIoT技術の発達により、注目度が高まってきています。


 2019年の MHI Annual Industry Report によると、新技術をどのように評価しているかの調査において、ドローンやUGV等の自動配送ロボットにあたる Autonomous Vehicles and Drones が将来性のあるものと認める割合が50%をこえました。とうとうこえた、という感じです。技術及び先行する実証研究等が進捗し認知されるようになってきたといえます。
 その市場規模についてですが、2018年のMarkets and Markets Research 調べによると、配送目的のUGVは、2022年に13億米ドル、2027年には、37億米ドル、ほどの規模が期待されます。世界市場規模と日本のGDP比を前提とすると、日本は、2022年には100億円程、2027年には330億円程の規模に成長すると推定できます。
 しかしながら普及にあたっては安全に関する標準規格の制定や、配送ロボットの配送可能領域(道路)の設定が重要になります。ドローンが過疎地や山間部での配送を念頭に置いた規制整備・緩和が行われているのに対して、UGVは都市部での実証実験というところを睨んで、規制の整備・緩和が議論されてきています。屋外公道での実証実験が2019年度から解禁されます。今後実証実験の結果とともに、衝突の予防、衝突に伴う損害賠償責任、安全管理システムに関する規制の整備、運用を含む各種標準化も進んでいくと考えられます。

 そもそもの配送ニーズは増加の一途をたどっています。国土交通省「平成29年度 宅配便取扱実績について」によるとネット通販(EC)の伸びとともに宅配便の取扱個数は急伸。2017年度の取り扱いは約42.5億個にのぼっています。日常的に食料品や日用雑貨の購入にネット通販を利用する例も増えており、また近年は、ECの大型セールの常態化や、ふるさと納税によるネットを通した寄付と返礼品の取扱も増えています。今後、高齢化と高齢者におけるインターネット等の利用の普及が進むことでECの利用は更に増加すると予想されます。そのような中、宅配便の不在再配達は全体の約2割に達しており、配送の効率性を阻害する要因となっています。配達時間指定や置き配、宅配BOX等、様々な取り組みが行われていくでしょう。
 一方、配送を担うドライバーの確保は段々厳しい状況になります。総務省「平成29年度情報通信白書」によると、日本の生産年齢人口は、2030年には6773万人と2000年から21.4%減少するという予測があります。ボストンコンサルティングの分析によると、日本の配送ドライバーの数も2017年は83万人いるのが、2027年には72万人に減少。ニーズは拡大しているため、ドライバー不足は短期的には外国人の労働規制の緩和や省力化で対応していくことになりますが、これらの配送をドローンやUGVが担い、ニーズの増加と労働力不足の両方に対応し、また効率性向上、再配達抑制に向けたAIの活用による配達時間・ルート最適化、配達のパーソナライズ化を行っていくのは自然な流れといえます。人的作業は、特に各種配送に関わる直接的な作業から、UGVの管理や支援へとシフトし、技術力や管理能力の高い人材が求められていくでしょう。将来的には、AIによる予測性能の向上から、予測配荷も実現されるようになると考えられます。

 ではどのような感じでUGVは普及していくのでしょうか。UGVは、ニトリが大阪の物流倉庫に採用した「Butler」、佐川急便が物流センターに導入した搬送ロボット「CarriRo」、パナソニックの自律型搬送ロボット「STR-100」等、倉庫内での自動棚搬送や自動荷台にまず活用されていくと考えられます。特に「3PL(thrid-party-logistics)」と呼ばれる業界では、商品保管・発送業務を依頼する顧客が3年などの短期サイクルで変わるため、ベルトコンベア等の設備に比べると導入が容易です。定まったルートの移動から作業者を追従する機能も普及し、様々な荷物に対応するために搭載量や性能は向上していくと考えられます。品川プリンスホテルでは米Savioke 社の自律走行型デリバリーロボット「Relay」がアメニティーグッズなどを客室に運んでいますが、このような施設内での個別配送も普及していくでしょう。
 導入実績が増え、投資対効果の採算性が高まれば、倉庫内や施設内での活用から、観光客の荷物の運搬、消費者への配送現場においても、UGVの利用が進んでいくでしょう。例えば、楽天は中国EC最大手JD.com(京東商城)と共にUGV配送の実験を行っています。

 実績と共に将来的にはオンデマンドでの個配が実現していくことになるでしょう。

 UGVでの配送を支えていく技術には様々なものがあります。それら個々の技術開発が進む中で、構成部品の標準化、各技術を統合していく融合技術(マルチモーダルラーニング等)やシステムの開発、またシステム連携時のAPIの標準化等もあわせて、UGVの高度化が進んでいくことになると思います。

 昨年11月に、楽天は、楽天イーグルスのホームスタジアムにて、5G ネットワークを活用し、UGVの遠隔操作やドローンによる撮影映像を用いたユーザー認証等の実証実験を実施しました。

 UGV高度化のトリガーとなるのは、この実証実験が示すように、エッジコンピューティングおよび5Gの普及です。エッジGPUが普及していくことで、高度なAI 技術(深層学習)を自動配送ロボットが搭載し、認証システム、安全性の向上、機体間連携が実現されます。更に5Gの登場が続きます。5Gのもつ通信の大容量化、高信頼性・低遅延という特徴により、技術はグレードアップしていき、管制システム・配送システムとリアルタイムかつシームレスに結合していく未来が開かれます。


 しかし、まずは、UGV自体の制御技術向上が重要です。例えば、不意にUGVの前に出てくる人や自動車、自転車等を認識し、きちんと急停止を行える必要があります。更には衝突時や重量変化時にも安定して走行、停止を行うべきです。その上で、実際の配送時の道路は、様々な傾斜、凹凸や段差、時には階段等も存在しているわけで、これらを無事に走行していくための技術の向上が段階的に進んでいきます。将来的には障害物を避けるだけでなく自らどかす、ドアを開ける、エレベーターのボタンを押す等、より多様な環境にも対応できるアームを備えた機体も登場していくことでしょう。
 制御技術の高度化とともに、複雑な環境中で活動するUGVにとって、刻々とかわる環境を的確に把握することは非常に重要です。障害物検知や距離計測の手段として、カメラ、マイク、レーダーや LiDAR (Light Detection And Ranging)、ソナー等がありますが、近年はカメラからの動画像から、深層学習によって環境や障害物を認識する技術の向上が著しいです。深層学習は他のレーダーやLiDARの精度向上などにも適用されていき、今までは人間の調整などが必要だったものが、リアルタイムのノイズ除去なども数年以内には可能になります。それにより、周囲の三次元形状を的確に把握し、自身の居場所を推定するSLAM技術は、基盤技術として普及してくるでしょう。将来的には、これら複数のセンシング機器や、個々の機体識別等の安全機能や管制システムがリアルタイムで統合されます。
 センシング技術が発達すると、配達時における顧客の個別認証も可能になります。先のスマートスタジアムの実証実験の例のように、5Gの普及で、8Kカメラにより高精細な認証で、単に個々の顧客の顔やIDカードを認証できるだけでなく、偽造されたIDカードを見破ることも容易になり、声紋認証なども含めた生体認証も活用されるでしょう。これにより、例えばもともとの受け取り場所より前の、配送途中の時点でも個別認証で受け取ることが可能な柔軟な配送が実現されていきます。認証を可能にしていくと同時に、AIスピーカーのように、通行人や顧客と対話する機能も備えていくでしょう。ドローンと異なり、日常の生活圏の中に入っていくため、コミュニケーションやインタフェースの利便性も非常に重要です。
 安全性能の技術も向上していきます。配送ロボットの実用化を考えた際、一般論として、 法令上要求される技術的な安全基準として技術的にどの程度の検証がなされていれば、事故時の民事責任及び刑事責任に関する予見が可能となるか、といった点では、信頼できる実証データの蓄積が重要になります。国際基準に従いつつ、例えば、UGVが事故時の自己調査に活用する活動レコーダーや機体の識別用コード等が定まり、また連携での安全性、異なる機種同士の衝突回避のためのコミュニケーション・プロトコルも定まっていくでしょう。
 安全性能技術が向上し、エッジコンピューティング5Gの発達で、UGVは単体での配送から連携した配送へとより進化していきます。これは単に衝突回避や配送の最適化ということだけにとどまらず、例えば、複数連携した上で、同じ目的地に向けて大量の荷物を協調して運ぶ等の群行動が可能となります。また、機体間での道路上での給電等も行われるようになるでしょう
 安全性能技術が整備され、機体間連携が実現される過程において、UGVの運用システムも高度化していきます。将来的にはUGVの運用システムとドローンの管制システムとの連携等、システム間接続が重要になります。ECのオンデマンドサービスの拡充によって、AIによる需要予測を駆使したオペレーションが進み、ドローンやUGVの各配送システムも統合されていきます。ラストワンマイルデリバリーはこれらシステムや個々の安全技術が組み合わさり、全体として最適化をなしていくシステムとして実現していくことになるでしょう。


おまけ

以下は、UGVも含んだ、ロボット開発の歴史と今後のAIとの統合による発展について述べた記事です。ご興味がありましたら、こちらもご覧ください。


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