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目標設定と管理のOKR: DXや全社変革、創造的な組織実現のドライバー

本記事では、人事関連およびDX関連の記事として、目標設定と管理のフレームワークである OKRについて概観します。


DXと全社変革に役立つOKR

今後、大企業においてデジタルトランスフォーメーション(DX)をいかに推進していくかにつながる様々な関連記事を執筆していこうと考えています。そこにリンクするものとして、先日、DXなどの全社改革を行う上で重要なプログラムマネジメントの肝を解説する記事を書きました。

記事においては、プロジェクトとプログラムと経営という異なるレイヤとそれぞれの部署・組織というポジション、その縦横無尽の視点をもって能動的にマネジメントしていくことが肝であるということを述べました。このときに、小さいタスクレベルにおいても大きな組織レベルにおいても、それぞれの目標設定と達成管理が整合し、有機的に連携しておくことは、特にDXのような全社的な取り組みにおいて重要です。このような場合においてまさにOKRは有効なフレームワークとして機能します。


目標設定と管理のマネジメント

過去に、目標設定と管理のマネジメントには、Peter Drucker が提唱したMBO、George Doran の S.M.A.R.T、広く世の中に普及しているKPI マネジメント、Kaplan と Norton によるバランス・スコアカード(BSC) 等があります。OKR はIntel 社の社長 Andy Grove によって実装されたのを起源とし、比較的新しいマネジメントフレームワークとされています。Intel の他には、Google、LinkedIn、Oracle、Twitter、Sears 等のグローバルリーディングカンパニーで活用されていることで有名です。


OKRとは

OKR においては、Objectives(目標)Key Results (主たる結果) を定め、企業やチームの進捗をモニタリングしていきます。OKR は、組織とそのメンバーをみな同じ企業全体のゴールに向けて進ませつつ、個々の自律性・自主性を尊重、後押ししていくという優れた手法ですが、最初にOKRを使おうとした時に、留意しなければいけない幾つかの事柄があります。

企業はまずその企業が追求する究極の価値観として、 Vision と Mission を持ちます。何を目指すか、そして、何をすべきか、です。 Mission により、Vision を成し遂げる。”Vision by Mission” がその会社の究極的なゴールとなります。

OKR における Objective とは、会社の究極的目標に向かって前進するための戦略的方向性を体現した、年次や四半期等のサイクルで達成される、大きな野心的なゴールのことです。現実的なゴールではなく、大きく戦略的かつ野心的である、というところは一つのポイントです。Key Results は、Objective の達成の度合い、進捗を測る指標です。そして、週次の計画で日々のタスクやゴール達成のためにすべき週の取り組みを定めます。

OKRを書く前に、まず、何を達成したいのか、ゴールについて、十分に考えをめぐらし、理解を深めておきます。


Objective

最初に、Objective にフォーカスします。今期(四半期)、達成したいと思っている Objective 候補について考えます。例えば、売上、マーケットシェア、顧客満足、新規事業創出等でObjective を考えてみます。そして、自分自身に以下の問いかけをしましょう。

このObjectiveは会社のゴールを達成するのに役立つか?
このObjectiveはインスピレーションをもたらしてくれるか?
このObjectiveは会社を前に進めるか?
このObjectiveは期限が切られているか?
このObjectiveは年間の目標なのか、四半期の目標なのか?

これらの問いの他に、何が Objective にはならないか、という逆のことも検討しておくことが重要です。

Objective は達成することが容易なものであってはなりません。目安として、年間や四半期というサイクルにおいて最大3分の2ぐらいが達成されることが期待される、そんな風にストレッチした感じでObjectiveを設定すべきです。もし、Objective が期限の十分前に達成された場合は、野心的な目標を考えなかったのかもしれません。また、四半期の成果が、 Objective の20%ぐらいしか達成しないような状況なのだとしたら、もしかしたらその目標は、年間のObjectiveとして設定すべきだったのかもしれません。

Objective は、プロジェクトとは違います。Objective 自体は、会社を改善する、会社を変える、そんな情熱を掻き立てるようなゴールです。ただの活動ではなく、ただのプロジェクトではありません。もちろん、対となるべき Key Results もそれがタスクの言い換えのようなものであってはなりません。

もし会社の売上をあげる Objective を書くのであれば、Objective の候補になるのは、例えば、Q3の売上は会社の過去の売上記録を更新する、等です。これは、ある種の熱意を掻き立てる目標と言えます。期限も切られており、また会社を前に進めるObjectiveといえます。

逆に、売上を上げ続ける、というのは適切なObjective とはいえません。それは熱意あるゴールではなく、継続的な活動として見なせるからです。

他にはObjective の例としては、「今年、USマーケットの首位を獲得する」、「(それが今まで達成されなかったものであれば)業界の四半期顧客満足度ランキングで一位に輝く」、「年内に第4の収益源となる事業を確立させる」等を定めることができるでしょう。最終的には3から5つの Objective をリストとして掲げることになります。


Key Results

Objectives を選んだら、次にやるべきことは、Key Results を定めることです。それぞれの Objective に、3つから5つのKey Results を設定します。Key Results は、具体的であり、定量的であり、困難ではあるが達成可能であることが重要です。

Key Results は、到達したか・到達していないか、というような Yes/No に分かれて評価するようなものではいけません。数値でアップデートされるものであり、その結果の凄さを定量的に測定できるものであるべきです。もし、到達したか・到達していないかという二分法のようなKey Results だとしたら、それはタスクやもしくは計画そのもの、あるいはそれらの言い換え(トートロジー)である可能性があります。「もっと」「更に」「ますます」等の単に上乗せしていくような表現を使うものもよくありません。例えば、「もっとインスタグラムのフォロワーを獲得する」等です。「もっと」と単なる方向性を表現するものではなく、達成されるべき数字を特定化しつつ含め、「新しく1万のフォロワーを獲得する」とすべきです。できれば、その進捗が割合などで観測することができるのがいいでしょう。1万の新規フォロワーであれば、5000のフォロワーを獲得した時点で50%の達成度合いであることがわかります。

それを踏まえると、Key Results の例としては、前述のQ3の売上で売上記録を更新するという Objective に対しては、例えば、「1億円の新規売上を生み出す」、「顧客の離脱率(Churn Rate)を10%から7%に減らす」、「新規顧客を400名獲得する」、等がありえるでしょう。Objective が顧客満足度ランキングで一位に輝くであれば、「顧客からのフィードバック回収率を80%に高める」、「顧客問い合わせの平均レスポンスタイムを1時間以内にする」、「顧客の離脱率(Churn Rate)を10%から7%に減らす」、がありえるでしょう。違うObjective でも同じKey Results が当てはまることももちろんあります。これらは具体的であり、定量的であり、チャレンジングともいえます。

そして、設定したObjectives と Key Results を踏まえ、取り組みの計画が設定されていきます。これらはスケジューリングされたタスクとして整理され、実行されていくことになります。

Objectives とKey Results はこのように設定されていくわけですが、単なる数字管理に堕してしまわないように気をつけなければいけません。Objective のところの問いかけにも書きましたが、あくまでもこれはインスピレーションをもたらすものであるかどうかを問い、日々の創造的なチャレンジ、努力を自然に醸成していくものが望ましいのです。そうすることで、数値的な達成と創造性の誘発を同時に狙っていくことがOKRの精神ともいえます。


OKRの運用

OKRの運用に関しては、イテレイティブな管理とオープンさ、そしてフォーカスがポイントになってきます。
イテレイティブな管理とは、定期的にモニタリングされ、レビューするということです。例えば、週次・月次でモニタリングされつつ、四半期等で定期的にレビューし、活動を常に軌道修正しながらまた問題点を改善しながら前に進んでいきます。

オープンさについては、全社的な取り組みへのアラインを容易にするため、また相互の連携を機能させるため、基本はOKRを公開して共有し、透明性を確保します。適切な範囲で他メンバー・他組織にも参照できるようにすることが大事です。全社のOKRと自分個人のOKRがつながっていることを意識することで自分自身の目標の意義を理解することができます。他部署のOKRを見ることで、それぞれがどう役割分担しているのかが理解できますし、また別部署の野心的なOKRで刺激を受け、高め合うという効果も期待できるでしょう。

そしてフォーカスです。上記に加えてOKRは個人としても組織全体としても多すぎないようにすること、そのモニタリングや管理に時間がかかりすぎないようにすることも大事です。あらゆるレベルでOKRを設定し、全てモニタリングし参照し合うと、その量に圧倒されてしまい、フォーカスがぼやけてしまうかもしれません。またOKRのモニタリングに時間を要してしまうのであれば、OKRのモニタリング自体が達成目標になるような本末転倒な状況を招くでしょう。あくまでもOKRは大きな野心的目標に向けて戦略的にかつ創造的に会社を前進させていくものです。OKRマネジメントが組織全体で氾濫したり過剰になったりしないよう注意しつつ、全社の成長、変革していく方向にアラインさせ、運用を行っていきます。その際には、OKR と関係ない活動に注がれている時間・リソースを見直し、Objectives の達成に向けて集中できるように調整していくことも必要です。


OKRアンバサダー

最後に、OKRの実装と運用には、OKR PIC あるいは、OKRアンバサダーを任命していくこともおすすめです。OKR PICあるいはアンバサダーは、OKR のコンセプトの啓発、OKRフレームワークの組織への導入、モニタリング・レビューとその活用の支援を行っていきます。時には、OKRの効果的実践のために、冒頭であげたプログラムマネジメントの記事で解説したようなプログラムマネージャーのような役割も担ってもらう必要があるかもしれません。彼らの支援を経て、組織にOKRの文化とマネジメントが根付いたら、あとは日常的に活用し、波状的に成果を創出していきましょう。


終わりに

以上、OKR について概観しました。OKRのような枠組みを用い、組織の階層間で、または部署間で、それぞれの目標設定と達成管理が有機的に連携できるようにマネジメントしておくことは、全社的な取り組みにおいて有効です。OKRを使いこなし、大きな成果を達成できる組織へと脱皮していくことは、今日の多くの企業の喫緊課題でありながら長い旅にもなる DX のような全社変革においてはとても重要になるでしょう。

そして、更にはその先の、前人未到の領域へと踏み出していければと思います。


おまけ

以下は、OKR解説のスライド版です。こちらもどうぞ。


おまけのおまけ

OKRが創造的なチャレンジを醸成していくように実装、運用していくことが大事であることを述べました。これらはイノベーションのための重要な土台でもあります。イノベーションや革新を起こす組織をどのように立ち上げ、運営していくかに関して、以下の記事でちょっと違った角度からの考察をしています。こちらもご参考までに。


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