修羅場を会話劇に─単身赴任夫と妻と膝枕と女
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修羅場を会話劇に─単身赴任夫と妻と膝枕と女

こちらで公開している会話劇脚本「単身赴任夫と妻と膝枕と女」(近道は目次から)は、短編小説「膝枕」の派生作品です。Clubhouseオトナの朗読リレー#膝枕リレー )の朗読にもどうぞ。朗読リレーの経緯や二次創作まとめは「膝枕」マガジンに。

「膝枕」界で一番悪いヤツは?

このところ掛け合いで「膝枕」を読む膝枕erさんがふえてきたので、セリフだけの「膝枕」派生作品を書いてみよう。

そう思った矢先、百膝一首(百人一首と「膝枕」を絡める雅な遊び)の膝合わせ(歌会)で十一番「わたの原 八十島(やそしま)かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人(あま)の釣り舟」(参議篁)に膝入れをした。

隠岐へ島流しされるときに詠んだ歌なので、百膝一首では二股をかけた「男」が左遷される歌にするのが良いのではという話になったとき、「もっと悪い男がいる」とkana kaedeさん(膝番号10)が自身の書かれた外伝「単身赴任夫の膝枕」に登場する「妻と箱入り娘とヒサコに三股かけた男」を挙げた。

「膝枕界で一番懲らしめられるべきは、この男!」と満膝一致し、「三股に懲りた男」が詠む百膝一首十一番が誕生した。

百膝一首 十一番 詠み人:単身赴任の男(三股に懲りて)
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 膝には告げよ 海人のつり舟百膝一首 
【膝枕語訳】単身赴任のさびしさから取り寄せた箱入り娘膝枕。取引先のヒサコともいい仲になり、妻に見つかって三股発覚。次の赴任先は大海原の島々の向こう。これじゃあ島流しだよトホホ。僕はもう行ったよと愛しい箱入り娘膝枕に知らせてよ。のんきに釣り糸を垂れている、そこの人。

すると、「男が反省するとは思えない」「どこに行ってもまた浮気しそう」という声が上がり、「三股に懲りない男」版が生まれた。

百膝一首 十一番 詠み人:単身赴任の男(三股に懲りず陽気に)
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 膝の浮き舟
【膝枕語訳】単身赴任のさびしさから取り寄せた箱入り娘膝枕。取引先のヒサコともいい仲になり、妻に見つかって三股発覚。まだ怒っているのかLINEの既読がつかないけど、出世コースからますます外れて、大海原の向こうの島に流されに行くよ。浮気のきっかけを作った膝枕と一緒に浮き舟に乗って、それなりに浮かれているよ。

ダメ男はドラマになる。kana kaedeさんの「単身赴任夫の膝枕」では妻が膝枕を発見するが、そこでは夫を問い詰めず、ヒサコが訪ねて来たところに舞い戻って三股を知る展開になっているが、単身赴任夫と妻と箱入り娘の三すくみの場面を書いてみることにした。

石野竜三さん(膝番号54)の語りの「三角関係のラブコメ感」が楽しく、「修羅場を会話劇にできたら」と思ったのだが、箱入り娘が膝でしゃべることで会話が成り立つ。膝語(ヒサゴ)とヒサコも似ているぞ。

※9/10追記。藤本幸利さん(膝番号1)、Mayflower理恵さん(膝番号4)、Miho.Fさん(膝番号9)が3人芝居で膝開き(初演)してくださることになり(9/11  15時より)、後半を加筆。「妻」と「女」も鉢合わせる「三股さん集合」バージョンに。また、kana kaedeさんの外伝「単身赴任夫の膝枕」に合わせて、女(ヒサコ)を敬語設定にしました。

※9/13(ヒザの日)追記。9/11の膝開きバージョンの「言い訳は繰り返す」感がとても面白かったので、そちらを取り込み、「妻がしーちゃんを連れ去らず、一人で立ち去ってから舞い戻る」バージョンを別に作り、男へのお仕置き度も高めてみました。こちらを「レベル4」、旧バージョンを「レベル3」と呼び分けます。

さらに逆算して、

女「急に来ちゃダメですか?」
夫「そんなことないよ」
女「誰かいるんですか?」
夫「そんなわけないよ」

で終わるバージョンを「レベル2」とします。

カレーや坦々麺の辛さレベルを唐辛子の数で表す感じで🌶🌶🌶

今井雅子作「単身赴任夫と妻と膝枕と女」(レベル3)

ピンポーン。

夫「あれ? 今日来るって言ってた?」
妻「急に来ちゃダメ?」
夫「そんなことないよ」
妻「誰かいるの?」
夫「そんなわけないよ」
妻「ちょっと、あれ何⁉︎」
夫「あれって?」
妻「それ」
夫「どれ?」
妻「女の腰から下が正座してる」
夫「ああ。あれね」
妻「なんであんなのが部屋にあるの?」
夫「預かってる」
妻「誰から?」
夫「誰だっていいだろ」
妻「いいよ。購入履歴見ればわかるから」
夫「(取り乱して)」
妻「自分で買ったんでしょ」
夫「買って預かってる」
妻「どういう状況?」
夫「プレゼント」
妻「誰に?」
夫「誰だっていいだろ」
妻「話、戻った」
夫「実は、ああ見えて、ルンバなんだよ」
妻「ルンバ?」
夫「ああいう形の」
妻「膝枕型ルンバねぇ。ふうん。吸わせてみてよ」
夫「吸わせる? 今?」
妻「ルンバなんでしょ?」
夫「あ、ああ。ゴミを吸わせるってこと?」
妻「なんだと思ったの?」
夫「あ、いや」
妻「動かしてみてよ。膝枕型ルンバ。そしたら信じるから」
夫「んー」
妻「できないんでしょ。これルンバじゃないよね?」
夫「あー。さっき言い間違えた。ルンバじゃなくてアレクサ」
妻「ルンバとアレクサ言い間違える?」
夫「似てない?」
妻「どこが?」
夫「ポジション的に。ビックカメラで同じフロアに置いてる」
妻「アレクサ、今何時? 答えないけど」
夫「電池切れ、かな」
妻「帰るわ」
夫「え? メシは?」
妻「膝枕型アレクサに頼んで、ウーバーでも呼べば?」
夫「そういう機能はついてない」
妻「アレクサでもないわけ?
じゃあ、あれ一体何?」
夫「枕」
妻「膝枕型膝枕」
夫「膝枕型枕だよ」
妻「そういうとこセコいよね」
夫「セコい?」
妻「やだ、動いてる」
夫「え? 何が?」
妻「膝枕。モゾモゾって」
夫「ああ。電動だから」
妻「あれ? 電池切れてるんじゃなかったっけ」
夫「妻だよ」
妻「何? 今さら?」
夫「こっちに言ったんだよ」
妻「そっち?」
夫「誰って聞かれたから」
妻「会話機能ついてるんだ?」
夫「膝の動きを読んでる」
妻「膝をこすり合わせてる。何て言ってんの?」
夫「結婚してるって聞いてないって。いじけてる」
妻「二股かけられた彼女ヅラして」
夫「膝枕に、ツラないから」
妻「彼女ヒザしてる」
夫「彼女ヒザ、だってさ」
妻「膝叩いてる」
夫「それ拍手」
妻「拍手いらない」
夫「和ませてくれてんだよ」
妻「和ませてどうすんの?」
夫「制御機能ついてるから」
妻「なんの制御?」
夫「空気、かな」
妻「空気?」
夫「ピリピリしてるって感知したんだよ」
妻「膝頭が上下してる」
夫「うなずいてる」
妻「膝が首なんだ?」
夫「うん。だいたい、首」
妻「で?」
夫「で?」
妻「どういう関係?」
夫「何が?」
妻「膝枕型膝枕と、どんなことしてるの?」
夫「だから枕だって」
妻「枕営業の枕?」
夫「ただの枕。頭預けるだけだよ」
妻「なんか、赤くなってるけど」
夫「なってないよ」
妻「あんたじゃなくて、膝枕」
夫「え?」
妻「膝をモゾモゾさせて、恥じらってる」
夫「そうかなあ」
妻「あんなこともこんなこともしたって言ってる」
夫「言ってない」
妻「いいえ、この膝が覚えてる。誰にも言わない、言えない、二人だけのヒ、ミ、ツ」
夫「膝の動きにアフレコするなって」
妻「今、はねた」
夫「はねた?」
妻「ほら、またはねた。スカートがふわって」
夫「うん」
妻「裾がレースになった白のスカート。こういう趣味なんだ?」
夫「趣味っていうか」
妻「はかせてあげたの?」
夫「はかせたよ」
妻「脱がせたの?」
夫「そういうことはしないよ」
妻「じゃあどういうことするの?」
夫「妬いてる?」
妻「妬いてないし」
夫「妬いてよ」
妻「名前あるの?」
夫「名前? 箱入り娘膝枕」
妻「商品名じゃなくて。ねえ、なんて呼ばれてるの?」
夫「そっちに聞くなって」
妻「雪みたいな白い膝だから、ゆきちゃん?」
夫「聞くなって」
妻「あ、膝を右左に振ってる。違うんだ? でも、惜しい?」
夫「いいだろ」
妻「じゃあ、白い膝で、しーちゃん? 当たった」
夫「当てるなって」
妻「しーちゃん。可愛い名前」
夫「いや、だから」
妻「名前までつけちゃったら、浮気だよね」
夫「浮気って」
妻「しーちゃんもうなずいてる」
夫「生身より良くない?」
妻「は?」
夫「生身の人間みたいに後腐れないし」
妻「何開き直ってんの?」
夫「慰謝料とか言ってこないし」
妻「モノだから何やっても許されるって?」
夫「何やってもとは言ってない」
妻「そういうの失礼だよ。私にもしーちゃんにも」
夫「しーちゃんって呼ぶなって」
妻「あ、箱取ってある。飽きたら返品する気なんだ?」
夫「しっかりした箱だから取っといたんだよ」
妻「しーちゃん、この人、ズルいとこあんの」
夫「しーちゃん、聞かなくていいよ」
妻「自分の都合ばっかり。妻のことなんて、家政婦だって思ってるから」
夫「思ってないよ」
妻「人間だけど、人間扱いされてないの。黙ってたらどんどんつけ込まれるの」
夫「落ち着けって」
妻「しーちゃんも怒ってる」
夫「怒ってないよ」
妻「見てよ。しーちゃんの膝、わなわな震えてる。うん、うん、そっか。ずっと耐えてたんだね?」
夫「そんなこと言ってないだろ」
妻「だいぶ膝語わかってきた」
夫「ヒサコ?」
妻「ヒサコなんて言ってないよ。膝語って言ったんだけど」
夫「ああ、膝語か」
妻「しーちゃん、ヒサコって誰?」
夫「なんで、しーちゃんに聞くんだよ?」
妻「しーちゃん、なんか知ってるっぽい。この人のいないとこで、じっくり話そ」
夫「俺のいないところって、なんだよ?」
妻「しーちゃん連れて帰るわ」
夫「は?」
妻「ね、しーちゃん、うちおいでよ。この人の部屋空いてるから」
夫「空いてないだろ?」
妻「女二人で気楽に暮らそ。見て。しーちゃんの膝頭が弾んでる。やったー、大賛成って」
夫「(突然の高笑い)」
妻「どうしたの? 妻とカノジョが意気投合するとは思ってなかった?」
夫「膝枕に感情なんかないよ。プログラミングだよ」
妻「プログラミング?」
夫「どっちについたら有利か、確率計算して、パターンで膝動かしてんだよ」
妻「だから?」
夫「バカだよな。人工知能に踊らされて、コロッと騙されるんだから」
妻「バカな男に踊られて、騙されるよりマシ」
夫「はいはい、バカな男ね」
妻「行こ。しーちゃん。じゃあね」

夫「はー。ひさびさに肉じゃが作ってもらいたかったけどな。ま、いっか」

ピンポーン。

夫「え、もう帰って来た?」
女「今日も来ちゃいました」
夫「なんだヒサコか」
女「なんだって何ですか?」
夫「あ、いや、今日来るって言ってたっけ」
女「急に来ちゃダメですか?」
夫「そんなことないよ」
女「誰かいるんですか?」
夫「そんなわけないよ。ねえ、いいかな」
女「また膝枕ですか?」
夫「ダメ?」
女「いいですけど、そろそろ」
夫「え?」
女「ううん。なんでもありません」
夫「やっぱり君の膝が一番だよ」
女「やっぱりってどういうことですか?」
夫「あ、いや」
妻「やっぱり」
夫「うわ、なんで戻って来るんだよ」
妻「しーちゃんのセンサーが感知して、教えてくれたの。ヒサコって人が来るって」
夫「どうやって名前伝えたんだよ?」
妻「膝文字でヒ・サ・コって」
夫「そんなことできるんだ?」
女「すみません。この人、誰なんですか?」
夫「あ、えっと」
妻「先ほどまで妻だった者です」
夫「過去形?」
妻「この人の浮気が発覚したので。こちら、膝枕のしーちゃん」
女「三股だったんですね。私という膝がありながら、プロにも手を出してたなんて」
夫「いや、手は出してない! 頭だけだ!」
女「膝なら誰でも良かったんですね?」
夫「違う。大事なのは君だけだ。これはオモチャじゃないか!」
女「ひどい」
夫「え? なんかマズいこと言った?」
女「なんで私を持ち上げるのに、膝枕をおとしめるんですか?」
夫「え?」
妻「そういうとこあんの。いつだってその場逃れ」
女「そうなんですね」
妻「ほら、しーちゃんの膝もうなずいてる」
夫「ちょっと、しーちゃん味方につけるの、やめてよ」
女「もしかして、いつも押し入れから聞こえていたカタカタいう音って」
妻「しーちゃんの膝が激しくうなずいてる。『それは私です』って言ってる」
女「この子を押し入れに押し込めて、私に膝枕ねだってたんですか?」
夫「一旦落ち着こう」
妻「見て。しーちゃんの膝、打ち身ができてる。ここから出してって暴れた跡じゃない?」
女「ほんとだ。可哀想に。ごめんなさい」
妻「しーちゃんが膝を擦り合わせてる。『辛かったけど、いいよ、お互い様』って」
女「許してくれてありがとう、しーちゃん」
夫「よし。良かった良かった。一件落着」
妻「はあ? あんたは誰からも許されてないよ」
夫「え?」
妻「でも戻って来て良かった。ヒサコちゃん、一緒にお酒飲んだら楽しそうだし」
女「私もです。初めて会った気がしません」
妻「ん? しーちゃんが何か言ってる。被害者の会? ああ、同じバカな男にひっかかった女同士ね」
夫「しーちゃんそんなこと言ってないだろ。膝動いてないし」
妻「よーし。三人でホストクラブにくり出して、乾杯しちゃう?」
女「いいですね。賛成です!」
妻「しーちゃんの膝、すっごく弾んでる。じゃあねー」

夫「まいったな。ま、いっか。次、どの膝枕にしようかな。これにするか、ルンバつきメイド膝枕」

クレジットとタイトル

外伝が外伝を呼ぶ「膝枕」。

今井雅子作「膝枕」からkana kaedeさんが外伝「単身赴任夫の膝枕」を書き、その修羅場場面を今井雅子が脚本にし、「単身赴任夫と妻と膝枕」とタイトルをつけたという流れ。

つまり正調膝枕の孫⁉︎

クレジットをフル表記するとしたら、どうなるのだろう。とりあえず、タイトル画像では

kana kaede作外伝
「単身赴任夫の膝枕」より
修羅場を会話劇脚本に
今井雅子作
「単身赴任夫と妻と膝枕」

とした。タイトルは「単身赴任夫と妻と膝枕」となっているが、最初に公開したときにオチだった女(ヒサコ)が膨らんだので、「単身赴任夫と妻と膝枕ともう一人の女」のほうが良いのかも。

長いので、略して「修羅場膝枕」。

※追記。タイトルは「単身赴任夫と妻と膝枕と女」に定まりました。

kana kaede作外伝
「単身赴任夫の膝枕」より
修羅場を会話劇に
今井雅子作
「単身赴任夫と妻と膝枕と女」

修羅場はぶっつけ本番

Clubhouseでの膝開き(初演)は、藤本幸利さん、MayFlower理恵さん、Miho.Fさん。9/11(土)15:00

妻がしーちゃんを置いて去り、夫と妻の膝枕をめぐるやりとりを夫とヒサコが繰り返す構成。妻はしーちゃんからLINEを受け取って舞い戻る設定になっていた。「いいね焼肉ソング」作者である鶴野充茂さんの朝のルームで宣伝した流れで、ラストはホストクラブではなく焼肉屋へ。

今後読まれる方もアレンジ、アドリブご自由に。さらなる二次創作も歓迎。

画像2

3人で合わせるのは初めてとのこと。相手がどう出るかわからない腹の探り合い、駆け引き。あまり作り込まないほうが、修羅場のスリルが出て良いのかも。

その前に14:05から宮村麻未さんがkana kaedeさんの「単身赴任夫の膝枕」を朗読。感想会が白熱しすぎたため、「妻とヒサコがあっさり意気投合しすぎ!」「もっと修羅場を!」という声も出た。

徳田祐介さんが落語調にした一人劇版を準備中。しょこらさんときぃくんママとかわたりえさん、小羽さん(お相手募集中)も上演予定。あと3回は聴けそう。

今井雅子作「単身赴任夫と妻と膝枕と女」(レベル4)

ピンポーン。

夫「あれ? 今日来るって言ってた?」
妻「急に来ちゃダメ?」
夫「そんなことないよ」
妻「誰かいるの?」
夫「そんなわけないよ」
妻「ちょっと、あれ何⁉︎」
夫「あれって?」
妻「それ」
夫「どれ?」
妻「女の腰から下が正座してる」
夫「ああ。あれね」
妻「なんであんなのが部屋にあるの?」
夫「預かってる」
妻「誰から?」
夫「誰だっていいだろ」
妻「いいよ。購入履歴見ればわかるから」
夫「(取り乱して)」
妻「自分で買ったんでしょ」
夫「買って預かってる」
妻「どういう状況?」
夫「プレゼント」
妻「誰に?」
夫「誰だっていいだろ」
妻「話、戻った」
夫「実は、ああ見えて、ルンバなんだよ」
妻「ルンバ?」
夫「ああいう形の」
妻「膝枕型ルンバねぇ。ふうん。吸わせてみてよ」
夫「吸わせる? 今?」
妻「ルンバなんでしょ?」
夫「あ、ああ。ゴミを吸わせるってこと?」
妻「なんだと思ったの?」
夫「あ、いや」
妻「動かしてみてよ。膝枕型ルンバ。そしたら信じるから」
夫「んー」
妻「できないんでしょ。これルンバじゃないよね?」
夫「あー。さっき言い間違えた。ルンバじゃなくてアレクサ」
妻「ルンバとアレクサ言い間違える?」
夫「似てない?」
妻「どこが?」
夫「ポジション的に。ビックカメラで同じフロアに置いてる」
妻「アレクサ、今何時? 答えないけど」
夫「電池切れ、かな」
妻「帰るわ」
夫「え? メシは?」
妻「膝枕型アレクサに頼んで、ウーバーでも呼べば?」
夫「そういう機能はついてない」
妻「アレクサでもないわけ?
じゃあ、あれ一体何?」
夫「枕」
妻「膝枕型膝枕」
夫「膝枕型枕だよ」
妻「そういうとこセコいよね」
夫「セコい?」
妻「やだ、動いてる」
夫「え? 何が?」
妻「膝枕。モゾモゾって」
夫「ああ。電動だから」
妻「あれ? 電池切れてるんじゃなかったっけ」
夫「妻だよ」
妻「何? 今さら?」
夫「こっちに言ったんだよ」
妻「そっち?」
夫「誰って聞かれたから」
妻「会話機能ついてるんだ?」
夫「膝の動きを読んでる」
妻「膝をこすり合わせてる。何て言ってんの?」
夫「結婚してるって聞いてないって。いじけてる」
妻「二股かけられた彼女ヅラして」
夫「膝枕に、ツラないから」
妻「彼女ヒザしてる」
夫「彼女ヒザ、だってさ」
妻「膝叩いてる」
夫「それ拍手」
妻「拍手いらない」
夫「和ませてくれてんだよ」
妻「和ませてどうすんの?」
夫「制御機能ついてるから」
妻「なんの制御?」
夫「空気、かな」
妻「空気?」
夫「ピリピリしてるって感知したんだよ」
妻「膝頭が上下してる」
夫「うなずいてる」
妻「膝が首なんだ?」
夫「うん。だいたい、首」
妻「で?」
夫「で?」
妻「どういう関係?」
夫「何が?」
妻「膝枕型膝枕と、どんなことしてるの?」
夫「だから枕だって」
妻「枕営業の枕?」
夫「ただの枕。頭預けるだけだよ」
妻「なんか、赤くなってるけど」
夫「なってないよ」
妻「あんたじゃなくて、膝枕」
夫「え?」
妻「膝をモゾモゾさせて、恥じらってる」
夫「そうかなあ」
妻「あんなこともこんなこともしたって言ってる」
夫「言ってない」
妻「いいえ、この膝が覚えてる。誰にも言わない、言えない、二人だけのヒ、ミ、ツ」
夫「膝の動きにアフレコするなって」
妻「今、はねた」
夫「はねた?」
妻「ほら、またはねた。スカートがふわって」
夫「うん」
妻「裾がレースになった白のスカート。こういう趣味なんだ?」
夫「趣味っていうか」
妻「はかせてあげたの?」
夫「はかせたよ」
妻「脱がせたの?」
夫「そういうことはしないよ」
妻「じゃあどういうことするの?」
夫「妬いてる?」
妻「妬いてないし」
夫「妬いてよ」
妻「名前あるの?」
夫「名前? 箱入り娘膝枕」
妻「商品名じゃなくて。ねえ、なんて呼ばれてるの?」
夫「そっちに聞くなって」
妻「雪みたいな白い膝だから、ゆきちゃん?」
夫「聞くなって」
妻「あ、膝を右左に振ってる。違うんだ? でも、惜しい?」
夫「いいだろ」
妻「じゃあ、白い膝で、しーちゃん? 当たった」
夫「当てるなって」
妻「しーちゃん。可愛い名前」
夫「いや、だから」
妻「名前までつけちゃったら、浮気だよね」
夫「浮気って」
妻「しーちゃんもうなずいてる」
夫「生身より良くない?」
妻「は?」
夫「生身の人間みたいに後腐れないし」
妻「何開き直ってんの?」
夫「慰謝料とか言ってこないし」
妻「モノだから何やっても許されるって?」
夫「何やってもとは言ってない」
妻「そういうの失礼だよ。私にもしーちゃんにも」
夫「しーちゃんって呼ぶなって」
妻「あ、箱取ってある。飽きたら返品する気なんだ?」
夫「しっかりした箱だから取っといたんだよ」
妻「しーちゃん、この人、ズルいとこあんの」
夫「しーちゃん、聞かなくていいよ」
妻「自分の都合ばっかり。妻のことなんて、家政婦だって思ってるから」
夫「思ってないよ」
妻「人間だけど、人間扱いされてないの。黙ってたらどんどんつけ込まれるの」
夫「落ち着けって」
妻「しーちゃんも怒ってる」
夫「怒ってないよ」
妻「見てよ。しーちゃんの膝、わなわな震えてる。うん、うん、そっか。ずっと耐えてたんだね」
夫「そんなこと言ってないだろ」
妻「だいぶ膝語わかってきた」
夫「ヒサコ?」
妻「ヒサコなんて言ってないよ。膝語って言ったんだけど」
夫「ああ、膝語か」
妻「しーちゃん、ヒサコって誰?」
夫「なんで、しーちゃんに聞くんだよ?」
妻「しーちゃん、なんか知ってるっぽい。この人のいないとこで、じっくり話そ」
夫「(突然の高笑い)」
妻「どうしたの? 妻とカノジョが意気投合するとは思ってなかった?」
夫「膝枕に感情なんかないよ。プログラミングだよ」
妻「プログラミング?」
夫「どっちについたら有利か、確率計算して、パターンで膝動かしてんだよ」
妻「だから?」
夫「バカだよな。人工知能に踊らされて、コロッと騙されるんだから」
妻「バカな男に踊られて、騙されるよりマシ」
夫「はいはい、バカな男ね」
妻「じゃ、帰る。しーちゃん、またね」
夫「はー。ひさびさに肉じゃが作ってもらいたかったけどな。ま、いっか」

ピンポーン。

夫「え、もう戻って来た?」
女「今日も来ちゃいました」
夫「なんだヒサコか」
女「なんだって何ですか?」
夫「あ、いや、今日来るって言ってたっけ」
女「急に来ちゃダメですか?」
夫「そんなことないよ」
女「誰かいるんですか?」
夫「そんなわけないよ」
女「ちょっと、あれ何ですか?」
夫「あれって?」
女「女の人の腰から下が正座してるんですけど」
夫「ああ。あれね」
女「なんであんなのが部屋にあるんですか?」
夫「実は、ああ見えて、ルンバなんだよ」
女「ルンバ?」
夫「ああいう形の」
女「そうなんですね。じゃあ吸わせてみてください」
夫「吸わせる? 今?」
女「ルンバなんですよね?」
夫「あ、ああ。ゴミを吸わせるってこと?」
女「なんだと思ったんですか?」
夫「あ、いや」
女「動かしてみてください。膝枕型ルンバ。そしたら信じます」
夫「んー」
女「これルンバじゃないんですよね。私、嘘つかれてるんですね」
夫「あー。さっき言い間違えた。ルンバじゃなくてアレクサ」
女「アレクサ?」
夫「ああいう形の」
女「アレクサ、今何時? 答えてくれないですけど」
夫「電池切れかな。ねえ、いいかな」
女「また膝枕ですか?」
夫「ダメ?」
女「いいですけど、そろそろ、あちらの枕と」
夫「え?」
女「いえ、なんでもありません」
夫「やっぱり君の膝が一番だよ」
女「やっぱりってどういうことですか?」
夫「あ、いや」
女「誰の膝と比べてるんですか?」
妻「やっぱり」
夫「うわ、なんで戻って来るんだよ」
妻「しーちゃんのセンサーが感知して、教えてくれたの。ヒサコって人が来てるって」
夫「なんだよそれ。告げ口機能ついてんの?」
女「すみません。この人、誰なんですか?」
夫「あ、えっと」
妻「先ほどまで妻だった者です」
夫「過去形?」
妻「この人の二股が発覚したので」
女「二股? 私のこと、バレてたんですか?」
妻「いえ、そちらの膝枕のしーちゃんと」
女「膝枕のしーちゃん? 膝枕型アレクサじゃなかったんですね」
妻「白い膝が自慢だから、しーちゃんって名前つけたんだって」
夫「自転車なんかにも、名前、つけるよね」
妻「膝は乗り物なんだ?」
夫「そうは言ってない」
女「私、三股かけられてたんですね」
夫「三股って」
妻「私は降りたからカウントしないで」
夫「二股っていうか」
妻「二股でしょ」
女「二股ですよ」
夫「ふた膝じゃないかな」
女「どーだっていいです」
妻「ほんと、この人セコいの。もう、しーちゃん、膝叩いて拍手しないの」
女「私という膝がありながら、プロにも手を出してたなんて」
夫「いや、手は出してない。頭だけだ」
女「私だって膝枕止まりじゃないですか。膝なら誰でも良かったんですね」
夫「違う。大事なのは君だけだ。これはオモチャじゃないか」
女「最低です」
夫「え? なんかマズいこと言った?」
女「なんで私を持ち上げるのに、膝枕をおとしめるんですか?」
夫「え?」
妻「そういうとこあんの。いつだってその場逃れ」
女「そうなんですね」
夫「意気投合するの、やめてよ」
妻「ほら、しーちゃんの膝もうなずいてる」
夫「しーちゃん味方につけるの、やめてよ」
女「もしかして、いつも押し入れから聞こえていたカタカタいう音って」
妻「しーちゃんの膝が激しくうなずいてる。『それは私です』って言ってる」
女「この子を押し入れに押し込めて、私に膝枕ねだってたんですか?」
妻「クズだね」
夫「一旦落ち着こう」
妻「見て。しーちゃんの膝、打ち身ができてる。ここから出してって暴れた跡じゃない?」
女「ほんとだ。可哀想に。ごめんなさい」
妻「しーちゃんが膝を擦り合わせてる。『辛かったけど、いいよ、お互い様』って」
女「許してくれてありがとう、しーちゃん」
夫「よし。良かった良かった。一件落着」
妻「はあ? あんたは誰からも許されてないよ」
夫「え?」
妻「箱入り娘をキズモノにしやがって。このDV男が」
夫「いやいやいや、DVって」
妻「しーちゃん連れて帰るわ」 
夫「は?」
妻「しーちゃん、うちおいでよ。この人の部屋空いてるから」
夫「空いてないだろ?」
妻「女二人で気楽に暮らそ。しーちゃんの膝が弾んでる。じゃあヒサコちゃん、この人めんどくさいけどよろしくね」
女「イヤです!」
夫「え?」
妻「いいよ、あげる。しーちゃんも、どうぞって」
女「皆さんがいらないもの、私もいりません」
夫「おいおいおい」
妻「ん? しーちゃんが何か言ってる。被害者の会? ああ、同じバカな男にひっかかった女同士ね」
女「そうです! 仲間です!」
夫「しーちゃんそんなこと言ってないだろ。膝動いてないし」
妻「よーし、決まり。被害者の会、結成! 三人でホストクラブにくり出して、乾杯しちゃう?」
女「いいですね! あ、しーちゃんの膝が、なんか言ってます」
妻「え、何? 腕枕して欲しい? しーちゃん最高! じゃあねー」

夫「まいったな。ま、いっか。次、どれにしようかな。病んでるあなたを優しく癒すナース膝枕。お兄ちゃんをとことん慕う可愛い妹膝枕。天使の微笑みで天国にいざなうエンジェル膝枕。お、これにするか。ルンバ機能つきメイド膝枕」

落語風一人語りもいけるらしい

会話劇脚本だけど一人語りもいける、と聞いたので、落語風に下げ(落ち)をつけたラストも。「まいったな。ま、いっか」以下を差し替えでどうぞ。

夫「まいったな。ま、いっか」

電話の呼び出し音。

夫「もしもし。注文お願いします。リピーター割引で。会員番号135135です。おすすめの膝、ありますか?(おうむ返しで)病んでるあなたを優しく癒すナース膝枕。お兄ちゃんをとことん慕う可愛い妹膝枕。天使の微笑みで天国にいざなうエンジェル膝枕。ルンバ機能つきメイド膝枕。それにします。梱包なんですが、袋入りでお願いできますか。箱入り娘は、もう懲りました」

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脚本家・今井雅子(Clubhouse朗読 #膝枕リレー)

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