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楓 作「単身赴任夫の膝枕」

今井雅子先生の膝枕の外伝を書きました。
ご覧いただきありがとうございます。
単身赴任夫の膝枕、朗読ご自由に☺️
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嬉しいです✨
今井雅子先生の、正調 膝枕は
下のリンクから飛べます!


「単身赴任夫の膝枕」


夫は7年前から
東京で単身赴任をしている。
55歳 働き盛り 出世コースからは
外れてしまったようだ。

顔はまあまあなのだが、長い単身赴任生活で
オジサン化が進んでいる。
1人になって、身の回りの事まで出来ないらしく
スーツ姿もなんだか小汚い。

たまに家族に会いに来ていたが
もう子供達も大きくなり、喜ぶことはない。
かえって迷惑がっている。

私は……というと
部屋の掃除という口実で、たまに訪ねて行っては
ミュージカルを見たり、高級ランチに足を運び
ちゃっかり楽しんで帰る。


子供達は大きくなり
留学と、就職とで家を出てしまった。
赴任先に行ってしまおうか…とも思ったが
今更、家を空き家にも出来ない。


コロナになり
夫も帰って来なくなった。
もう1年半会ってない。

そしてあんな事があってからは…



あの日…

連絡をせずに
サプライズをしてあげようと思いつき
食材を買い込んで
内緒でアパートを訪ねてみた。

散らかってる部屋に掃除機をかけていると
押入れからガタガタと音がする。


「え? 何の音??」

耳を済ませて
恐る恐る音の鳴る方へ行き
押入れを開けてみた。

大きな段ボールが入っていた。

「ん?これかな??
   え、微妙に動いてる……動物でも入ってるの??」

ドキドキしながら、押入れから出して
そーっと 箱を開けてみると
中には 女の腰から下の物体が。

「何これ??」

箱から出してみた。

中に入っているカタログに
[箱入り娘膝枕]と書いてある

「うわっ!何??
 気持ち悪い…!!!!!」


怖くなって
また押入れに戻した。


ご飯を用意して、夫が帰ってきたら
びっくりさせよう…と思っていたが

あまりに動揺して
そのまま何も言わずに、新幹線に乗って帰った。

どうやって家路に着いたのかは覚えていない。


「膝枕…大人のおもちゃ??
   あれは何??」

「あの人、大丈夫なのかしら…」



一方、夫の方は…

長い単身赴任生活。

仕事から疲れて、暗いアパートに帰る。
話し相手もいない。
週末に遊びに行くような同僚もいない。

みんな家族がいて
さすがに週末は付き合ってくれない。
オヤジの単身赴任生活は寂しいのだ…。


人恋しくなり
ふと、ネットで見つけた膝枕の広告。

サイトに飛んでみると
さまざまな商品が並んでる。

ちょっとくらい奮発してもわからないし
誰もいない部屋で、ちょっと暇を潰す目的で
ヴァーシンスノー膝が自慢の
「箱入り娘膝枕」を購入してみた。


一人暮らしのアパートに帰るのが
俄然楽しくなってきた。
仕事中も、膝枕のことばかり考えている。

あの、膝枕の心地よさといったら…。

そんな毎日を過ごしていた…ある日

会社の飲み会で、同じフロアーで働く
ヒサコが隣に座った。
存在は知っていたがあまり話したことはない。


「田中さんって面白い人なんですね〜。」


ヒサコが話しかけて来た。
ついつい酒が進む。
調子に乗って饒舌になる。

飲みすぎた。

眠くなってきて、ちょっと横になったら
ヒサコが膝を貸してくれた。
生身の膝の暖かさ…気持ち良さを実感した。


「あぁ、やっぱり若い子の生身の膝は
   なんて気持ち良いんだ…。」


我を忘れて気持ち良さに浸っていると
ヒサコが小声で上から呟いた。


「田中さんみたいな人、好きです…」


「好きになるだけなら許してもらえますか?
 困らせたりしないので…」


それから度々、ヒサコがアパートに
訪ねて来るようになった。
その度に、膝枕を段ボールに入れて押し入れに隠す。


今日は我慢の限界だったのか?
膝枕がガタガタと、音を立てて暴れている!


「何か…音がしませんか?」

「ん?気のせいじゃない?」


「え、でも何か、音が聞こえる…」
「まさか、奥さんが隠れてるとか?」


「いや、そんな事はないよ」


「あー、ちょっと…残りの仕事を片付けたいから
 今日は帰ってもらって良いかな?ごめん…」


慌ててヒサコを帰すと
段ボールから膝枕を出してあげた。


「どうしたの?嫉妬してるのかい?ごめんよ…」


優しく膝を撫でてあげた。
ちょっと落ち着いたようだ。

"私の膝に来て…"と
膝で合図を送ってくる。


「良いのかい?」


男は[箱入り娘膝枕]に横になり

「君の膝枕が1番だよ…」とつぶやく


バタン…

ドアの音が聞こえる。

玄関を見ると、ヒサコが戻ってきて
ワナワナと震えながらこっちを見ている。

ツカツカツカっと靴も脱がずに入ってきた。


「ひどい!!!
 田中さん…好きって言ってくれたのに…
 気持ち良いって言ってくれたのに…
 私以外の膝が良いの?? 私じゃ…
 私じゃダメなの?」


なんだか修羅場になっている。


「そんなわけないだろ!
君に会えない日は寂しいから
君の代わりに膝枕を使ってるだけだよ。
おいで…」


ヒサコを抱きしめてなだめた。

足元で[膝枕]が、ガタガタと怒りで震えている。



そんな光景を
玄関から妻が見ていたとも知らず…。


あの日
妻は、押し入れに入っていた膝枕を見て
初めは "気持ち悪い" と思った。

でも、 "きっとあの人も家族に会えなくて寂しいのよね"

そうだ!突然訪ねて行って
膝枕のことには触れずに
たまにはサプライズで、優しくしてあげよう。
夜も随分ご無沙汰だし…と思った。



アパートに着いたら
部屋の玄関が開いてる。

どうしたのかな?と思い 
中をそっと覗いてみたら
想像を軽く超えてくる場面が、飛び込んできた。


久しぶりに見た夫は、小汚いオヤジから
オシャレな、ちょいワルオヤジの風貌になり
若い女を抱きしめている。

足元には、あの[膝枕]がガタガタ騒いでいる。


なんなの?…この光景は…

怒りを通り越して
何とも言えない気持ちになった。


もう、声を掛ける気力もない
クラっとめまいを感じた…

もう…私の出番はないな…と思い
アパートをそっと後にした。


「生活費も学費も仕送りしてくれてるし
   もう良いか…」

「めんどくさいからほっとこう」

「夫が楽しんでるなら
   私も楽しもう…」


そう思いながら
あてもなく繁華街を歩く。

いつの間にか、歌舞伎町に迷い込んだ。

若いお兄さん達が声を掛けてくる。


何もかも忘れたいな…と思い
ふと立ち止まり、キャッチのお兄さんの話を聞く。


「お姉さん〜何してるの〜?
  うちはよそと違って、そんなに高くないお店です     よ。良かったら、ちょっと僕たちとお話ししませんか?」

優しく声を掛けられて
ちょっと泣きそうになった。


彼らなら…。この気分を癒やしてくれるかもしれない。


誘導されるがまま、ホストClubの扉の中へ消えて行った。


「腕枕…… あります?」


                    完

素人の拙い文章ですが最後までお読みいただき
ありがとうございました。      楓


















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