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天城山からの手紙

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伊豆新聞で2018年10月より連載スタートした、天城山からの手紙-自然が教えてくれたことのアーカイブ記事になります。加筆訂正をし、紙面では正確に見れなかった写真も掲載。
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2020年6月の記事一覧

「天城山からの手紙」4回目

「天城山からの手紙」4回目



八丁池口までバスで行き、秋の探索に出た。晴天で雲もほとんどなく、絶好の登山日和。辺りには、キラキラと輝く黄色いブナの葉が、空を仰ぎ、誇らしげに立っている。事、写真を撮るとなると、光の強さは、コントラストが強くなってしまい頭を悩ませる。写真家という立場上、「ハイ撮れました」では放棄したようなものだと常に思っているが、こんな時こそ、自然に委ねて出会いを楽しみ、撮影は二の次にしている。相変わらず木々

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「天城山からの手紙」9話

「天城山からの手紙」9話



天城の森というと霧に包まれた情景がイメージとしてある。実際は、霧の情景に出合うのは難しい。だからこそ、霧に包まれた天城に出合うと心から憂う気持ちで一杯になってしまう。経験を積むとある程度は天気で予測できるが、自然はなかなかそうはいかず、与えられた条件を受け入れるしかない。特に自然風景を撮影する者は、”受け入れる”という向き合い方が大事な要素で、この向き合い方は、写真だけでなく日常でも大きな力に

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「天城山からの手紙」8話

「天城山からの手紙」8話



森に流れる四季の時間は、沢山の顔を持っている。その中でも秋という季節は、なぜか私達を魅了する。この日は、お昼過ぎにバスで八丁池へ向かい、日が暮れる森を撮影する予定で訪れた。夜半から入山するのも怖いが、精神的には山で夜を迎える方が怖い。やはり夜明けが目の前にあるのと、長い夜がこれから始まるのとでは、大きな違いがあるのだろう。それでも出会える情景の魅力が大きくて何時も、足が向かってしまう。八丁池へ

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「天城山からの手紙」7話

「天城山からの手紙」7話



今の天城山は、たった5年位でも目に見えて森が変わっていく様がわかる。それくらい急速に環境が変わりつつあるのかもしれない。今回の写真は、今の天城を切実に表した1枚ではないかと思う。環境の変化に、例外なく天城の森も影響を受け、ある地域では馬酔木の勢いが森を呑み込み、形相が大分変ってきた。まさにブナ対馬酔木の陣取合戦だ。この日、ある急斜面を渡り反対側の稜線へと登ると、ブナの林が見渡す限り広がっている

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「天城山からの手紙」6話

「天城山からの手紙」6話



この日も、雨化粧の紅葉と出会いたく、何時もの様に、夜の明ける前から歩を進めていた。葉が色づく頃に毎回天候が上手く合うわけではなく、天気の様子をうかがっていればあっという間に山の紅葉も終わってしまう。もちろん大雨に打たれるのは覚悟の上だ。目的地に近づく頃、森の中に”パチンパチン”と音が響き始めた。この音が鳴り始めるとそれは雨が降ってきた証拠。普通は雨が降ってきたと落胆するのだろうが、私はなぜかこ

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「天城山からの手紙」5回目

「天城山からの手紙」5回目



ある日、八丁池からの帰り道に、目を疑うような倒木に出会った。その倒木は、つい3日前まで、大地に根を張り生きていたブナである。私は大きな衝撃を受け、その倒木の前でどれだけの時間、立ち尽くしていただろうか?目に飛び込んで来た時、ドクンと大きく鳴った鼓動の音を今でも覚えている。私は、そんな出会いがあった事をつい忘れていた。先日、4年ぶりにそのルートを夜明け前に歩いていると、森は霧に包まれ、ライトに照

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「天城山からの手紙」3回目

「天城山からの手紙」3回目



伊豆天城山に住むブナ達は、訪れる者達を魅了する。何か宿った様なその姿が、出会った者の心の中で、それぞれの想いへと、姿を変えるからなのかもしれない。それほどに、天城という森は、沢山の情念が渦巻く場所なのだ。そして一筋の霧が森を流れる瞬、ブナ達は、精霊の魔法に支配される。瞬くまに、辺りから声が響き、木々は動き出し、そして私は魔法の国へと誘われるのである。何時もの様に、夜も明けぬ森を歩いていると、目

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「天城山からの手紙」2回目

「天城山からの手紙」2回目

真夜中に車を走らせ登山道へ到着する頃、今日はやめて帰りたいな?と葛藤した事だろう。その度に自分を騙し暗闇へと歩を進めさせる。歩き始めてしまえばこっちのもので、後は独り言をつぶやきながら撮影地へと向かうだけだ。この日は予定外の霧が立ち込め、2mもない視界の中、ヘッドライトを灯して歩いていると、今日出会えるだろう情景が頭にふっと浮かんできた。自分の感を信じて撮影地を変更し、まだまだかとジッと暗い森の中

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「天城山からの手紙」1回目

「天城山からの手紙」1回目

まだ見ぬ姿を求めて今日も暗闇に一歩踏み出す。その場所は伊豆に鎮座する天城連山。あまり知られていないが、全国でも珍しい橅(ブナ)が生き残っている貴重な森である。今回からそんな天城山にスポットをあて、たくさんの物語を写真と一緒にお伝えして行きたい。
この日は風速7m気温-15℃という伊豆では信じられない冬の日。天城連山越しから見える、朝日を求めて、達磨山に向かっていた。山頂に着くと、吹き付ける猛烈な風

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