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もしかすると俺たちは、歌詞がわからないからメタルを聴けているのかもしれない!

PEARL JAM のエディ・ヴェダーは農家のオッサンのようだ。失礼を承知でいえば、僕のイメージするアメリカの農家のオッサンとはまさにエディ・ヴェダーだ。アイダホあたりで芋を作り続けて40年、メイクイーンもキタアカリもインカのめざめも認めん!唯一認めるのは男爵だけだ!そんな感じがする。とにかく無骨で、無口で、正義感が強く、曲がった事が大嫌い。そんな雰囲気がムッシュムラムラと伝わってくる。

こういう人のスイッチは絶対に押してはいけない。しかしアホなインタビュアーがヘラヘラとこんなことを聞いてしまった。「ねえねえ、どうなん?MTVのバンドとか、ホントは聴いたりしてたん?」

僕が横にいたら、とりあえず殴り倒して「いやーすいませんねえ…コイツ今日ちょっと朝からパンティーテックス、パンティーテックスうるさいんですわ。"珠代のおっぱいチョモランマ~" とか "マウンテン、マウンテンは山! 山! はい! 山あり谷あり、沼地あり~、沼地にはまって出られなうぃ~うぃ~うぃうぃうぃ"とかわけわからんことばっかり抜かしやがって、ちょっとスピリチュアルな自然のアレに傾倒しすぎたんですかね…すみません、ではちょっと急ぎますんで、今日これにて…ドロン!」などと言ってそそくさ退散する案件だ。

案の定、エディのスイッチがオンになってしまった。オッパイどころか怒りがチョモランマだ。「MTVに出てた80年代のバンドは…やんわり言って、吐き気がした。MOTLEY CRUE, "Girls, Girls, Girls"。大嫌いだったよ。男も女も最低の見た目をしていたな。最高に空虚だった。GN'Rが出てきて良かったよ」やんわり言ってやんわり言ってないところにチョモランマな感じがとてもよく出ている。

だけど、こんなことを言われて黙っているようなニッキー・シックスではない。「PEARL JAMのシンガーがMOTLEY CRUEをめっちゃ嫌っているって読んで笑っちゃったよ。奴らが歴史上最も退屈なバンドの1つであることを考えると、ある種の褒め言葉だよな?それはそうとアイツ、口の中にビー玉つめて歌ってるよな?」完全にプロレスのゴングがなってしまった。口の中にビー玉つめて歌うって、窒息上等のある意味めちゃくちゃロックンロールな行為だと思うけど、得られるものが何もないよね。

「いいぞ!もっとやれ!」心の中ではみんなそう思ったんじゃないかな。というのも、80年代のバンドと90年代のバンドって、あまりにも毛色が違いすぎて、単独で互いについてボソボソとコメントすることはあっても、こうやって真っ向勝負で言い合うことってほとんどなかったと思うから。

僕は両方大好きだから、もうすべてのコメントに笑顔になってしまうんだけど、それでもやはりエディの言葉には一理あるなあと思わざるを得ない。

PEARL JAM に "Jeremy" という曲がある。90年代を象徴するような暗がり。これは、実際にあの時代を生きたジェレミー君についての歌だ。ある朝、登校して、「先生、僕にはやりたかったことがあるんです…」と拳銃を咥え、先生とクラスメイトの前で引き金を引いた16歳の少年の歌。

読んでいるだけで目を覆いたくなるような歌詞だ。背中がヒリヒリするような歌詞だ。もしかしたら、イジメがあったのかもしれない。もしかしたら、ジェレミーはその復讐として引き金を引いたのかもしれない。本当のことはわからない。だけど、結局、一つの命が失われたって、何も変わらない。同じような明日が来る。新聞にはあいも変わらず、"華氏64度、曇り" なんて穏やかな天気予報の記事が載る。だったら死ぬな。生きてもっとデカイ "漢" になって見返してやれ。エディの歌詞にはそんな想いが込められているとも言われている。まさに農家の漢。

こういう歌ならば、いくつになっても共感できるし、自分が年を重ねてそれぞれの立場で思索を深め、考え方も変わってきたりもするだろう。何より、ライブで歌っても、車で流しても、気恥ずかしさを覚えるような内容じゃないことは明らかだ。

一方で、"Girls, Girls, Girls" だ。もうタイトルからしてどうかしてる。パンティーテックスとまったく同レベルだ。珠代のココは肉食系となんら変わらない。歌詞もクソだ。本来の意味で目を覆いたくなる。

「ヤンキー娘はやっぱ最高だぜ!もっとハメを外してハメ倒そうぜ!女の子!女の子!女の子!」

僕は幸運なことに、英語の歌詞がすんなり頭に入ってくるほど英語が得意じゃない。聞き取れたとしても、一度日本語に変換するタイムラグが発生する。だからメタルを聴くときは、あまり何も考えずに歌詞を丸覚えするのが常なんだけど、それは本当に幸運なことだと思う。パリピどころの騒ぎじゃない。これはもう色情狂だ。渋谷のスクランブル交差点で可愛い女の子が多すぎて、「目が足りない!」と嘆き悲しんだ若いころの僕そっくりじゃないか!

まあ、若いころはそれでもライブで歌ったり、車から大音量で流したりしてもそこまで違和感はないかもしれない。だけどコレ、オッサンが歌ったらもう即ブタ箱行きのレベルじゃないだろうか。いくつになっても共感できるわけがない。

JUDAS PRIEST は自他共に認めるメタル・ゴッドだ。彼らの代表曲のひとつが "Painkiller"。

「弾丸よりも速く!恐怖の叫び声をあげて!怒りに満ちたヤツはもうサイボーグ!メタル・モンスターにまたがり!炎と煙を吐きながら!復讐のために空を駆ける!ヤツこそペインキラー!!アイツがまさにペインキラー!!」

結局、楽曲が発表されて30年以上の月日が経つけど、未だに "ペインキラー" が何なのかは明らかにされていない。どうやら飛ぶらしい。いくつになってもどろこか、8歳くらいまでしか共感できないというのが本当のところだろう。

あと、日本がまだチョンマゲだと思ってるやつね。EUROPE に "Ninja" という大名曲がある。

「忍者は生き残ってる」

これもう、共感云々通り越してただの嘘だからね。長年日本に住んでいるけど、マキビシや手裏剣をお見舞いされた覚えはないし、水蜘蛛で歩いているホッカムリのオッサンも残念ながら見たことはない。昔、水遁の術とか言ってドブ川で竹から空気を摂取していたら、ケムマキ君のように石を詰められた思い出ならある。ニンニン。

MANOWAR に "Carry On" という超名曲がある。

「北極星はいつも俺を導いてくれる」

わかる。

「凍えるような暗い冬の夜に」

うんうん。

「俺は決して裏切らない」

なるほど。

「道に迷った時は俺を頼れ」

カーナビか。

それでもエディ曰く"最高に空虚な" モトリーの CD を車に突っ込んで僕が今日も爆走できるのは、おそらくひとえに英語が母国語ではないからだろう…いやむしろ、英語だと中身がスッカラカンの歌詞でもカッコよく聴こえてしまうのが恐ろしい。

さて、今日は聖飢魔IIを聴きながら帰ろう。「オマエも蝋人形にしてやろうか?!」わかる!蝋人形にしてやりたいヤツばかりだよ!共感しかない!なんだ、メタルだっていくつになっても共感できるじゃん。うん、やっぱなんだかんだ言っても、メタルはアホだからいい (メタルにも深い歌詞はたくさんあります…たぶん)。







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