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サブスクにない音楽は本当に存在しないも同然なのか?

「ブランキーのサブスク解禁とアナログ発売。大事なのはブランキーを知らない若い人に届けること。現在の音楽シーンで、サブスクに音がないのは致命的。存在しないも同然だ。CDを聴こうにも廃盤で手に入らない。つまり若い人がブランキーを聴こうと思っても手立てがない」

小野島大氏


最近、こんなツイートを見かけることがあってね。ついに、"有識者" のような方からこうした発言が出るようになってしまったのかと、とても残念な気持ちになったんだ。

だってそもそも、その "存在" を伝えるために "有識者" がいるんじゃないのかな? その伝説を、名作の誉を、音楽の素晴らしさを伝えるために。そして、もしその偉業が伝わり、鳴り響いていれば、若い人だって中古なり、YouTube なりで勝手に探して勝手に耳にするはずなんだ。

なにより、たしかに多くの若い人に伝えていく、もしくは商業的な視点でサブスクに音がないのは致命的かもしれないけど、決して存在しないも同然ではないんだよね。

むしろ、そうやって伝説や偉業を新しく知った人にとっては、サブスクにないことが逆にどハマりするキッカケになったりするかもしれない。人間は、簡単に手に入らないもののほうが、より欲しがるし、なおいっそう宝物のように大事にするものだ。恋愛と同じだよね。僕なんか、すぐにパタパタちんぽを振りながらついていくので、いつも負けヒロインだよまったくぷー。

僕の愛するヘヴィ・メタルにも、サブスクに存在しない音楽はたくさんある。でもだからこそ、そうした作品は僕の中で光り輝いている。ここにいるぞ!と雄々しく雄叫びをあげ続けている。これでもか!とその存在を主張し続けている。いやむしろ、サブスクという貯蔵庫に "あるだけ" の音楽も多くはないだろうか?

ちょっと昔の話をしようか。かつて、BADLANDS というバンドがいた。オジーのお抱えギタリストだったジェイク・E・リーが立ち上げたスーパー・バンドだった。

僕はね、今でも BADLANDS は世界最高のバンドのひとつだったと信じているんだよ。ジェイクのブルージーでありながらおもちゃ箱のようなギター捌き。タイトでラウドなリズム隊。そして何より、レイ・ギランの魂の叫び。こんなにも、自分の中にある衝動のようなものを、声という媒体にのせて外界に吐き出せる人を僕は他に知らない。

でもね、残念ながら僕が BADLANDS を知った時には、彼らはすでに崩壊した後だった。もっといえば、レイ・ギランはすでに亡くなっていた。

もちろん、当時サブスクなんてものはなかったよ。ネットもなかったし、メタルの情報源は雑誌とラジオだけだった。だけど、僕の中で BADLANDS は存在していたんだ。確実にね。そういう意味では、BURRN! の "有識者" の方々は素晴らしい仕事をしていたんだと思う。

残されていたアルバムは2枚だけだった。もちろん、CD が擦り切れてスケスケ・パンティー (こしたんたん) のようになるくらいまで聴き続けた。

ファミリー・ツリーも紐解いていったなぁ。レイ・ギランは BLACK SABBATH にもいたのか!とか、このドラマー、RACER X のボーカリストだったのか!とか、ジェイクは RATT の心臓だったのか!とか、ここから広がった知見や音源も少なくない。そうやって、僕の中の BADLANDS はどんどんその存在感を強くしていったんだ。

そんな時、BADLANDS の新たな音楽がリリースされた。1998年の "Dusk" だ。

狂喜乱舞したね。"Dusk" は基本的に、"Voodoo Highway" の次のアルバムとなるべき曲たちのデモを精錬したものだったけど、これがもう素晴らしかった。レイの歌声が再び聴くことができるだけでもうれしいのに、"Healer", "Sun Red Sun", "The River" など、グランジーな時代の調味料を振りかけた "日没" という名の最終作にふさわしい傑作だったんだ。

僕が "Dusk" とオンタイムで出会えたのは、当時の "有識者" の人たちが彼らの "存在" を伝えてくれていたから。彼らの "伝説" を語り継いでいてくれたから。

だからね、今の "有識者" の人たちも、人の手で伝えることを諦めてはいけないと僕は思うんだ。サブスクや AI のアルゴリズムに丸投げしてしまうなんて、職務放棄でしかないんじゃないかな。人間にしかできない伝え方が必ずあるはずだから。人間はストーリーを語れるから。物語を紡げるから。

実際、BADLANDS。聴きたくなったでしょ?サブスクにはぜんぜんないけどね。

ちなみに、BADLANDS のベーシスト、グレッグ・チェイソンによると、ジェイクはまた5年間ギターから遠ざかっているんだけど、それは手に病気を抱えているから。手術のために保険金が降りるのを待っているらしい。だけど音楽を諦めたわけじゃない。手術が成功したら、彼らが再度組む可能性もあるそうだ。

まあとにかく、だからね、僕は "有識者" でも "音楽ライター" でもないけれど、ひとり編集長としていろんなストーリーを語り継いでいこうと思う。伝えていこうと思う。繋げていこうと思う。だって、大好きなジェイクだって何も諦めてはいないんだから。

追記: "サブスクにはないけどたしかに存在する" ぜひ自力でなんとかして聴いてほしいメタル/ハードロック作品を記しておきます。

BADLANDS 全作
JUDAS PRIEST "Jugulator" "Demolition"
ZENO "Listen to the Light" "Runway to the Gods"
NARITA 全作
NATION 全作
WIDOWMAKER のファーストや PLACE CALLED RAGE といったアル・ピトレリ先生関係
ARK のファーストアルバム
MILLENIUM や EYEWITNESS といった故ラルフ・サントーラ先生関係
VAGABOND "A Huge Fun of Life"
Steve Lukather "Lukather" "Candyman"
KATMANDU "S.T"
CHROMING ROSE 全作
HAREM SCAREM "Voice of Reason" から "Ultra Feel" まで
Pete Lesperance のソロ作
Jake E Lee "Fine Pink Mist"
MOTHER'S ARMY 全作
TNT "Firefly"
HELLOWEEN (Keerer 以後の美味しいところがザックリ抜け)
DOKKEN "Shadowlife" "Erase the Slate" "Long Way Home"
SUBWAY ほぼ全作
BURNING RAIN ほぼ全作
Andi Deris のファースト (傑作!)
PINK CREAM 69 (David Readman期に結構な抜け)
SIAM 全作
MASTERMIND ほぼ全作
HUGHES TURNER PROJECT 全作
Joe Lynn Turner "Nothing's Changed" "Hurry Up and Wait"
GLORY "Danger in this Game" "Positive Buoyant"
Steven Anderson "Missa Magica"
TRIBE OF GYPSIES 全作
Bowes & Morley
Brucb Dickinson "Skunkworks" "The Chemical Wedding"
Michael Romeo "The Dark Chapter"
NIGHT RANGER "Seven" "Hole in the Sun"
SYMPHONY X 中期
Roland Grapow ソロ
Timo Tolkki ソロ
GAMMA RAY ラルフ期
初期WHITESNAKE
THE SCREAM "Let It Scream"
Brad Gillis "Gilrock Ranch"
WITHOUT WARNING 全作
TALAS 新作以外
SHY ほぼ全作
FEEL SO BAD 全作
WANDS ほぼ全作
ラクリマ全作


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