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ロシアのデスコアバンドが命を賭して伝えたいこと

ロシアが生んだデスコアの破壊者 SLAUGHTER TO PREVAIL。彼らが昨年発表した2ndアルバム "Kostolom" は、2021年のベスト・デスコア・アルバムと呼んでも差し支えのないほどに強烈な作品でした。ニューメタルやスラブの民族音楽を咀嚼した暴力的な死の舞踏は、ボーカリスト Alex Terrible 考案のキッド・オブ・ダークネスという悪魔の仮面によってさらに血の匂いを増幅させていきます。ただし、だからといって彼らが母国の (ギタリスト Jack Simmons のみイギリス人) 不条理な暴力に賛同しているわけではありません。


今年2月にロシアがウクライナに侵攻し、現在も続く流血の紛争が始まったことで、彼らの母国では多くの変化がありました。しかしロシアの侵略が始まってすぐに、Alex Terrible はソーシャルメディア上でこの戦争に対し声高に反対の声をあげました。

「俺たちは残忍な音楽を演奏しビデオには武器も出る。だけどどんな戦争にも反対だ。ウクライナで起こっていることにとても傷ついている。どうかロシア国民全体を共犯者だと思わないで欲しい。皆の頭上に美しい、平和な空が広がりますように」


かつて BEHEMOTH がそうだったように、彼らもまたロシア正教によって "暴力的で自殺を誘うプロパガンダ" の落胤を押され、イベントのキャンセルを余儀なくされたことがありました。先日、同じロシア出身のプログ・チェンバー・デュオ、IAMTHEMORNING の Gleb と会話をした際、彼は今のロシア、そしてその国民を "ゾンビ" と呼びましたが、全員が全員 "噛み付かれて" ゾンビになっているわけではありません。ロシアが突き進む全体主義、差別主義、帝国主義に疑問を呈するアーティストやスポーツ選手、資産家が少なからず声を上げています。逮捕や暗殺の危険もかえりみず。

我々個人にできることは決して多くはないでしょう。しかし、まず恐ろしい戦争が今も続いていることを忘れないこと。戦争や弾圧、人の死に慣れないこと。そしてロシアとロシア人すべてを憎み切り捨ててしまわないこと。ロシアの全てを完全否定してしまうことは、そうした "自浄作用" の芽までも潰してしまいかねない危険な行為なのかもしれませんし、そもそもロシアがやっていることと何ら変わりがありません。


SLAUGHTER TO PREVAIL は昨日、戦争を止めるための第二の矢を放ちました。彼らが最も得意な方法で戦争と流血、そして全体主義について強く発言することを決めたのです。"1984"というタイトルの、強烈なエクストリーム・メタルによって。

1984

what if it's all about you?
 what if these tears are shed at your house too? 
you will smear this shit on the white walls
in your own house with your fam
conscience is DEAD
! see the marching troops
hurts… but I see friends there have no face have no fate
can't figure out you're a dumb or what? 
death and pain trails behind the crowd
 what is it all about?

Please stop the violence
 please stop the bloodshed on earth 
look into the eyes of children who are scared and remember remember yourself
 

Please stop the violence 
please stop the bloodshed on earth!
 my brother my brother!
 anger will live in memory! anger will live and prevail!

pretend you are not guilty 
pretend you don't see this shit
 pretend that this is not your war 
Pretend FUCK WAR

their eyes are damnd
their faith is crucified
WAR
their tongue is stone
their tongue is dead
WAR
this son of a bitch will stick a knife in your back


もし、あの場所で起きていることがすべて自分のことだったら?
あの涙が自分の家でも流れたとしたら?
お前はあんなクソを白い壁に塗りたくれるか?
自分の家で家族と一緒に

良心は死に絶えた!
行進する軍隊が見える
痛みが走る...だがそこにいる友にはもはや顔も運命もない
死と痛みが群衆の後ろに続く
一体何なんだ?何が起きている?

暴力を止めろ
地球上の流血を止めるんだ
怖がる子供たちの目を見て自分を取り戻せ
暴力を止めろ
地球上の流血を止めるんだ
なあ、兄弟たち
怒りは記憶の中で生き続ける! 怒りは生き続け、そしてはびこってしまうんだ!

罪のないふりをする
見ないふりをする
自分の戦争ではないふりをする
戦争反対のふりをする…そうじゃねえだろ?

ヤツらの目は呪われている
ヤツらの信仰は磔にされている
戦争によって!

ヤツらの舌は石だ
ヤツらの舌は死んでいる
戦争によって!

あのクソ野郎はいつかお前の背中にもナイフを突き刺すだろう

"どうか暴力を止めてくれ、地球上の流血を止めてくれ" という心からの率直な呼びかけを続けながらも、ジョージ・オーウェルの名作小説 "1984" を背景として "抗議" に奥行きを持たせているところはさすがとしか言いようがありません。オーウェルが1949年に執筆した、全体主義国家によって分割統治される近未来の恐怖。70年以上も前の空想が今、リアリティーを持って襲い来るなどと誰が想像したでしょうか。そうして彼らは戦争のみならず、政府による監視、検閲、権威主義の暴走に対しても抗議の声をあげているのです。"1984" の仮のタイトルが "ヨーロッパ最後の人間" だったというのも、今となっては皮肉な話。最後にオーウェルの言葉を置いておきましょう。

「この小説は社会主義に対する攻撃ではなく、倒錯を暴露することを意図したもの。小説の舞台はイギリスに置かれているが、これは英語を話す民族が生来的に他より優れているわけではないこと、全体主義はもし戦わなければどこにおいても勝利しうることを強調するためだった」

StP は歌の中で、ゾンビ化されつつあるロシアの人々に正気に戻れと呼びかけています。しかし決してこれは他人事ではありません。対岸の火事でもありません。私たちは、片時も人間らしさを忘れないで、仮面の裏の隠された悪魔をしっかりと見抜いていかなければなりません。



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