見出し画像

親との関係は変えられる~親との関係をよくしたい人のための愛着理論の説明書4~

親との関係をよくしたい人のための「愛着理論」の説明書

本マガジンでは、【親との関係をよくしたい人のための愛着理論の説明書】と題して、愛着理論について、できるだけわかりやすく解説していく。

対象としては、以下のような人に向けて、愛着理論を紹介する記事を書いていく。

✔︎親との関係をよくしたい人
✔︎子育て中の人

親との関係がうまくいかない人にとって、愛着理論の考え方は役に立つことがあるかもしれない。

親との関係は子育てに影響を与えることがわかっているから、子育て中の人にも役に立つことがあるかもしれない。

親子間の愛着の形の一致率は約70%(van IJzendoorn, 1995)

自分と親との関係を、『愛着理論』というものさしを使って客観的に眺めることで、少し冷静になって親と自分を捉えることができるだろう。
そのことが、親との関係性に何らかの変化を生じさせるかもしれない。

少なくとも自分は、愛着理論を学んで、親との関係がよくなった気がしている。

是非、一緒に学びを深めていきましょう。

大人の愛着タイプ

前回は、子どもの愛着タイプを取り上げた。

4回目の今回は、大人の愛着タイプを取り上げたい。

前回紹介したストレンジシチュエーション法は、乳児を対象とした実験である。
乳児に対して実験を行った結果、愛着のタイプがだいたい4つに分かれたというものである。

一般的には、子どもの頃に形成された愛着タイプを、大人になってもそのまま維持することが多いということが示されている。

同一人物の乳児期と成人期の愛着タイプの一致率は68~75%(Fonagy et al., 2010)

ただこの結果は、裏を返せば、3割ほどの人は成長するにしたがって愛着の形が変わってくるということを示しているとも言える。

子どもの頃の自分の愛着のタイプについては前回振り返ってもらった。
では、いま現時点で自分はどのような愛着を形成しているのか。
子どもの頃の愛着タイプから、変化は生じているのか。
そのあたりのことをイメージしながら眺めてもらえればと思う。

成人愛着面接(Adult Attachment Interview: AAI)

成人期の愛着は、成人愛着面接(Adult Attachment Interview: AAI)という方法で研究がなされている。

成人の人に、愛着に関するライフ・ヒストリーを尋ねる15の質問をし、過去に遡って親との関係を述べてもらい、結果を分析するというものである。
分析の結果、以下の4つのタイプに分類されたということである。

以下に1つずつ見ていくが、

「自分がもし、親について尋ねられたら、どのように語るだろうか」

ということを意識しつつ、自分がどのタイプに当てはまりそうかを考えながら見ていただけると嬉しい。


1 軽視型(dismissing type)

軽視型の人の特徴としては、
「親の影響は受けていない」
というストーリーを語る。

語りの内容は、愛着関係を軽視するようなものであり、また、親とのかかわりについて語る際には、ただ事実を淡々と語るのみで、その時の自分の感情などについては語れないという特徴がある。

2 安定-自立型(secure-autonomous)

安定-自立型の人の特徴としては、
「良い面も悪い面も含め、親の影響を受け入れている」
あるいは「愛着関係を価値あるものと評価している」
というストーリーを語る。

語りやストーリーに矛盾するようなところはなく、首尾一貫している。
また親のかかわりについて語りながら、新しい見方に気づいたり、自己形成の親の影響についての洞察が深まったりする。
さらに、語りながら自分の話の中の矛盾点に気づいたりもする。

3 とらわれ型(prreoccupied type)

とらわれ型の人の特徴としては、
「親は(極端に)理想的なものと崇める」
あるいは「親を(極端に)こき下ろす」
といったストーリーを語る。

エピソードに関しての語りは、とりとめがなく曖昧であり、感情的になる。
また、エピソードの矛盾に自分で気づくことは難しい。
さらに、親への怒りや不平不満にとらわれ、過去について内省することが困難であるという特徴がある。
自分の愛着欲求にとらわれているため、他者(たとえば子ども)の愛着欲求に対する感受性は低い。

4 未解決-無秩序型(unresolved-disorganized type)

未解決-無秩序型の人の特徴としては、無秩序でよくわからないストーリーを語るというもの。

親のかかわりに関して話をしようとすると、底知れぬ恐怖が喚起され、結果無秩序な語りとなってしまう。

愛着の世代間連鎖

親の愛着タイプから、子の愛着タイプが予想されるという研究があり、親子間の愛着パターンの一致率は約70%と言われている。

予想される親と子の愛着タイプの関係は以下のとおり。
(子の愛着タイプについては前回の記事を参照してもらいたい)

【親の愛着タイプ】 ⇒ 【子の愛着タイプ】
軽視型       ⇒  回避型
安定-自立型    ⇒  安定型
とらわれ型     ⇒  アンビバレント型
未解決-無秩序型  ⇒  無方向-無秩序型

ここから言えることは、一般的に軽視型の親に育てられると、70%の確率で回避型の子になり、安定-自立型の親に育てられると、70%の確率で安定型の子になるということ。

つまり、親がどんな愛着タイプかによって、子どもがどんな愛着タイプになるかということがだいたい決まってくるということである。

これは、人によっては救いのない話のように思えるかもしれない。

ただ、これまでの研究からは、少し希望の光のようなことについても示されている。

それが、獲得安定という概念である。

獲得安定(Hesse,2008):幼年期に両親のどちらとも安定した愛着関係を築けなかったとしても、親以外の副次的愛着人物から高水準の情緒的サポートを受けていた場合には、成人愛着面接における判定が『安定-自立型』になることがある。

これはつまり、安定した愛着は事後的に獲得できるということ。

親との関係は変えられる〜不安定な愛着の連鎖を断ち切る〜

成人愛着は、過去の事実ではなく、それをいまの自分がどう受け止めているかということに関わるものである。

過去に不安定な愛着が形成されるような、逆境的な体験をしていたとしても、その後の成長やアプローチの中で、安定的な愛着を獲得することは可能であるということである。

そしてひとたび安定的な愛着を獲得できれば、その安定した愛着を獲得した人の子どもは、70%の確率で、安定的な愛着を獲得できるということになる。

これはつまり、不安定な愛着の連鎖は断ち切ることができるということである。

不安定な愛着を持つ人たちに対するカウンセリングで目指すのは、獲得安定の状態に達することである。

カウンセリングの中で、親とのかかわりについてのストーリーを丁寧に聞いていく。

クライエントとカウンセラーがともに親子の人生のストーリーを紡いでいくことで、

親と自分との関わりを、

「回避的」でもなく、

極端に」でもなく、

「無秩序でよくわからないもの」でもなく、

「良い面も悪い面も含めて」捉えられるようになれば、

獲得安定が目指せるということ。

不安定な愛着を持つ人たちへのカウンセリングの意味はここに見出せる。

「愛着障害は治らない」、「不安定な愛着は変わらない」と諦める支援者も多いが、カウンセラーが希望を持っていないと、クライエントが希望を持つことなんてきっとできない。

皆が諦めたとしても、カウンセラーくらい希望を持ったっていいじゃないか。
そんな心持ちで、私はカウンセリングに臨みたいと思う。

次回予告

次回は、親との関係をよくしたい人のための愛着理論の説明書、最終回のまとめの回である。

愛着は変えられるということで、少し希望のようなものも見えてきたような気がする。

親自身の愛着を、子である自分がどうにかしようとしても難しいが、自分自身の愛着は変えられる。

親子関係は相互関係だから、自分の愛着が変われば自ずと、親との関係も変わってくるはずである。

自分の愛着を変えるために、カウンセラーの助けが必要なら借りれば良いし、自分で親代わりになる人を見つけるのでもいい。

そんなようなことについて、次回愛着理論のまとめとして書いてみたいと思う。

次回も是非、よろしくお願いします。



▼親との関係をよくしたい人のための「愛着理論」の説明書


▼その他のマガジンは以下よりご覧いただけます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?