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【写真追加+追記あり】鳥の足跡 〜訪れる謎の侵入者〜

「月刊ムー」2020年7月号 No.476 掲載 
「note」 × 「月刊ムー」 企画 「#私の不思議体験」ムー賞受賞

#私の不思議体験


2013年の夏、あるマンションに引っ越しをしました。

地の利は悪いのですが、築年数も浅く、外観も室内も綺麗で、間取りも使い勝手がよいので、他の物件を見て回ることもせず、すぐに契約しました。

しかし、引っ越してすぐに、おかしなことが起こり始めたのです。

廊下から聞こえる音

引っ越しを終えて、しばらくは快適に暮らしていました。

数ヶ月ほど経った頃からでしょうか、夜中に廊下のあたりで「パタッ、パタッ、パタッ」と連続的な音がするようになりました。

玄関からリビングに続く、この廊下。その途中に寝室があり、その音は寝ている私に壁伝いに聞こえてくるのです。

音がする度に、飛び起きて廊下へ出てみるものの、音の原因となるようなものは一切見つけることが出来ません。

あまりに毎日続くので、慣れっこになってしまい、気にしなくなりました。

廊下の汚れ

そんな週末のある日、廊下にモップがけをしていると気になる汚れを発見しました。

子供が外を裸足で歩いて、そのまま室内に入って来たかのような。泥の上を歩いた後で室内に侵入した何者かの足跡が、時間が経過して乾いた跡のような。

廊下の床に顔を近付けてよく見ると、それは子供でも大人のものでもない、なんと3本指の鳥の足跡なんです。

鳥類の最も典型的な足指の形に「三前趾足(さんぜんしそく)」というものがあります。つまり、前向きに足指が3本あり、後ろ向きの小さな指が1本ある。この前方と後方の指を使い枝などを掴んで木にとまるわけです。しかし見た目はほぼ3本指に見えます。

この「三前趾足」の全長3〜4cmほどの鳥の足跡が、玄関から入って来てリビングの真ん中まで続いているのです。

野鳥が好きな私は

「そういえばドアを開けっ放しにしていたことがあるから、その時にスズメか何かが入って来たんだ!まだ家の中にいて出られなくなっていないかな?それとも玄関か、ベランダからすぐに外に出たのかな?可愛いな〜」

などと思い、大して気にせず、床についた鳥の足跡をモップで拭き取りました。

近所には田園地帯が広がり、登山者で賑わう山々も窓から望める環境にあるので、野鳥の一羽くらいが部屋に紛れ込んできても、おかしくはありません。

鳥(例えばスズメなどが)が室内に迷いこんでいるのならば、餌になるようなものを置いて誘き寄せて外に逃がしてあげなければなどという心配もしましたが、室内をいくら探してもいないので、気付かないうちに入って、出て行ったんだろうと考えました。

そんなところにまで!!

鳥の足跡のことなど、すっかり忘れつつあった数週間後、またあの鳥の足跡が廊下についているのを発見しました。

「またか、戸締りはいつもしっかりしているはずなのに、いつ、どこから入って来てるんだろう・・・」そう思いながらも、またモップで拭き取ります。

するとまた、数週間後に鳥の足跡が!!

そんなことがしばらく続きます。

そして、これはただの鳥ではないと感じる決定的な出来事が起こります。

玄関から続く鳥の足跡は、いつものようにリビングへ向かって続いているのですが、今度はなんとそのまま壁を歩いているのです。しかも縦横無尽に壁を、あちらこちら歩き回っています。

「鳥が壁を歩くわけない!!!」

件のマンションの廊下。この廊下と右側の壁に鳥の足跡が残されていた。

急に恐ろしくなりました。

引っ越してすぐの、あの「パタッ、パタッ、パタッ」という音も、こいつの仕業だったのではないか、音だけでは自らの存在を示しきれなかったので、段々と大胆に主張を始めたのではないか、そんな想像をしてしまいます。

気持ちが悪いので、またすぐに拭き取ってしまいました。

1ヶ月ほどが過ぎた頃でしょうか、外出して帰宅すると廊下が少し汚れているような気がします。よく目を凝らしてみると再びあの鳥の足跡がついています。

前回と同じように玄関から入り、壁を歩き回り(前回とは違うコース!)、そしてリビング中央まで。歩幅は5cmから10cm。歩くというよりも、スズメが地面をちょん、ちょんと飛び跳ねたような足跡です。

この「見えない鳥」は入って来る足跡はありますが、出て行く足跡はありません。いえ、歩いてではなく飛んで出て行ったという可能性もありますが・・・

足跡の正体はなに?

我が家にやって来る鳥。

もし本当の鳥だったとしたら、よほど恐れを知らない鳥です。

しかも壁に足跡をつける超器用な鳥ということになります。でも大抵の野生の鳥は警戒心が強いので、容易に部屋の中に入るようなことはしないはずです。実際にベランダにスズメがやって来ることがありますが、部屋の中で些細な物音がしただけで飛び去ってしまいます。

この鳥は一体何者なのでしょう?

入って来て、出て行っていないということは、鳥の足跡がついていた回数分の鳥たちが、まだ部屋の中にいる!ということになります。

この部屋は、他にもおかしなことが起こっていました。

リビングのテーブルに物を乗せていると、それが動いたり、移動したり、クルリと弧を描いて回転したりということもありました。特に、食べ物などは顕著でした(もちろん風などは全くありません)。

例えば、お風呂上がりにリビングでビールを飲みながら、おつまみを食べていると、おつまみが勝手に動いたり、クルクルと回ったりということが起きていました。

鳥がお腹を空かせて、食べ物を探していたのでしょうか。見えない鳥が食べ物をついばんでいたのでしょうか。それとも戯れていたのでしょうか。

これらの不可解な現象も、その時は何故かちっとも恐怖感はなく「また何者かが悪戯をしているな」という感じで微笑ましい思いさえしていました。

しかし、壁を歩く鳥の足跡と、それらが結びついたとしたら、そんな悠長な考えではいられなくなります。

このマンションには5年間住んでいましたが、短いスパーンでは1ヶ月に1度、長いスパーンでは半年に1度ほど、この鳥の足跡がつく現象が起こりました。

以前拭き取った足跡が、再び浮き上がっているわけではない証拠に、微妙に足跡がつく位置が変わっていることも付け加えておきたいと思います。

5年間住んでいたとうことは、何羽の鳥が部屋の中に留まっているのでしょうか?

特大の・・・

1年半前に、このマンションから引っ越して、今は新居に落ち着いたのですが、実は引越し前夜にも「鳥の足跡事件」が起こったのです。それも今までとは違う極め付けが!

これまでは玄関から入って来て、壁を歩いて、リビングに到達していた足跡が、玄関と壁を飛び越えて、いきなりリビングに!

しかも今回は約30cm以上もある特大サイズです!まるでダチョウの足跡のようですが、ダチョウは2本指です。

私が引越しをすることを察知した鳥達が、ラスボスを呼び寄せて、私を引き留めようというのでしょうか。

それと、実はもう一つ気になる事があります。

私が住んでいた、このマンションの部屋。

玄関のドアの上部に、何か鋭い物で削ったような「×印」があるのです。引っ越してきた当初から、この「印」が何を意味しているのか気になっていました。しかし管理会社には聞きづらく、結局そのまま。

「×印」ですから、あまり良い意味でつける印ではないはずです。

鳥の足跡と関係あるのか、ないのか・・・

土地に曰くがあるのか?

余談ですが、住んでいたマンションのある土地一帯は微高地になっていて、縄文から古墳時代の複合遺跡があります。

今から40年ほど前に大規模な発掘作業が行われており、集落、漆器、豆や瓢箪などの種子が出土しているのです(この周辺には他にも歴史的にも重要な遺構が発見されており、その中には「最古の王墓」とされているものもあります)。

集落があり、農作物の生産も行なっていたとすれば、当然、祭祀場など神や死者を祀る何らかの施設もあったはずですし、そういうものと鳥の足跡は関係があるのではないかとも想像します。

また、古墳からはよく鳥型の木製品や、埴輪土製品が出土することもあります。このマンション周辺でそういうものが出土したとの記録を見つけることは出来ませんでしたが、発掘されていないだけなのかもしれません。

昔は幼児の死を「トリツバサになった」「トリツバサにする」「鳥に飛ばす」「鳥が飛んだ」という表現をしたといいます(吉成直樹『俗信のコスモロジー』(白水社))。

幼児の葬式はせず簡単に済ませて、墓にも埋めず早く別のものに生まれ変わってほしいという切実な思いから、供養もしなかったそうです。人は生まれ変わると鳥になると信じていた時代です。

神使にも、烏、鶴、鳩、鷺、鶏などがいますし、チベットの鳥葬では故人の遺体をハゲワシなどに食べさせて天へと送り届けようとします。

鳥に纏わる不思議な話というと、神様や死者とどうしても結びつけてしまいます。鳥は異界や冥界と、この世を繋ぐ尊い役割を担っています。

大昔には、葬式の次の晩に盆に灰を敷き、翌朝には灰の上に鳥の足跡がつく、これによって死後、見送った故人が鳥になったことを確認していたというお話もあります。私の自宅で起こったことと繋がるような話です。

ご丁寧にわざわざ玄関から入って(壁を歩いて)室内を訪れたのは、神か仏か。真相は謎のままです。果たして新居に鳥は現れるのか。現れた際にはまたご報告したいと思います。

この鳥は私を守る神の遣いではないか、今ではそんな気もしています。

正体は知るべきではないのかもしれません。

2022.10.13追記

鳥の足跡について、興味深い記述のある文献と出会ったので、該当部分を引用しておきたいと思います。

物部では、人が亡くなってから程なくして、禽獣・昆虫等の小動物となって転生すると信仰されていたが、いかなる動物に生まれ変わったかを知るために「カルヤ」なる、以下のような儀礼が行われていた。

人が亡くなり儀式をした晩、死者が生前に寝所としていた部屋に箕(み)を置き、この上に水を少し張った金盥(かなだらい)を置く。さらにこの金盥の中に朱塗りの膳を据える。この膳の上には、囲炉裏などから採った灰をごく薄く敷き、ここに手が触れないように木の棧(さん)を二本渡し置いて、膳を覆うようにしてハイバラ(刺のついたツル状の植物名)をかぶせておく。部屋の戸は少しだけ開けておくが、すると翌日の朝、膳の灰の上に禽獣が残していった跡が残るという。蝶・蜻蛉などが羽ばたいた跡、鳥の足跡、蛇の這った跡などがよく見られる例で、これらの虫・鳥等に転生したことを示しているのだという。

175P 呪具としての箕 -カルヤ儀礼、葬送儀礼-

『物部の民族と いざなぎ流』松尾恒一(著)吉川弘文館


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