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お題企画「#私の不思議体験」ムー賞&優秀作発表!

お題企画「#私の不思議体験」への投稿から、「ムー」と実力派実話怪談師が選定した優秀作品を紹介します。
怪談の原型である”奇妙な体験”そのままの味わいを、波のように浴びました……。

優秀作3作品は「ムー」2020年7月号でも掲載しています。ぜひ誌面でもご覧ください。

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ムー賞「鳥の足跡~訪れる謎の侵入者」/マーク・ケイ

<選評>

いたこ28号●意味不明の現象が、素材に近い形で文章にされていて心惹かれた。後半で歴史からの考察もあり、ルポルタージュ怪談としても楽しめる。読み終わった後に再びゾワッとする怪談だ。

吉田悠軌●古来、宮中に鳥が入ることは「怪異」と見なされたりもした。超常現象ではなくとも、確かにある種の恐怖・不気味さを喚起するモチーフだ。しかも本作では足跡=「痕跡」なのが、より怪談的恐怖を助長している。その痕跡は次第に異様さを深め、なにか破滅の「予兆」を見せつつ、ついにカタストロフは訪れず、話は終わる。ただこの背景に、古代の墳墓という大きな闇を覗かせつつ。

ムーPLUS●「おつまみが勝手に動く」ところが、実に気持ち悪い。跡がある(=過ぎ去った)のではなく、怪異が眼前でも起きることで、読んでいても汗が出る場面だ。ムー本誌掲載では紙幅の事情で最後の最後を略せざるをえなかったので、後半の古代への考察をぜひご本人のnoteで読んでいただきたい。


【金星人の招待状】/中島あす香

<選評>

いたこ28号●高度な知的生命体である宇宙人の行動がちょっとおまぬけな、でもそこが憎めないステキな金星人との体験談がステキ。開催された会議は1989年に世界で吹き荒れた民主化の嵐に関係しているに違いない。TABUN。

吉田悠軌●異界への隙間は、日常の中でふいに開く。そこから出てきた手のひらが、私たちにかすかに触れたかと思うと、また隙間は閉じてゆく。その手は、どんなに私たちを引っ張りこみそうに見えようと、けっして異界に連れこみはしない。金星人からの招待状も、送られてはこないだろう。そしてまた、それは一抹の哀しさを伴っていたりもする。

ムーPLUS●「UFOを見たい!」とは多くの人が願うけれど、実際に異星人に選ばれたらリアクションに困るのかもしれない。この不思議体験を忘れない限り、いつか「招待状」を受け取れる。その可能性は希望になる。人知を超えた存在らしい役割を金星人は果たしている。


「それ」/明石白

<選評>

いたこ28号●ひとつひとつの現象は怪異ではないが、それが連続すると…。謎のメッセージがジワジワ来た。文字だから表せる電話帳のでの連呼はじつに不気味。そして最後の「それどころではなくなったからだ」のモワモワ感がいい!!

吉田悠軌●前半、ささいな偶然にも思える「予兆」がとくとくと注がれていき、ついにそれが溢れ出す。文章よりもビジュアル的な恐怖が迫る当該シーンは、noteという発表媒体ならではの演出だろう。後半、話のオチはつくのだが、結局、思わせぶりな「それ」の正体・前後の経緯は明かされず終わる。こうした構成も、(小説やエッセイではなく)「怪談」だからこそ効果的に成立する。

ムーPLUS●違和感が不安に変わり、それが予兆だったのだと遡及的に納得する。自分にしかわからない、自分だけは確信しているという、まさに”私の””不思議体験”。ムー本誌で掲載する際に、電話帳の場面で迫力を欠いたのが心残り。しかし、「それどころではなくなった」のはなんなんだろう……。


いたこ28号・推薦作品

<コメント>いたこ28号

「宇宙人セックス」からは、体験者の想いと心の叫びが伝わってきた。体験者でないと我々に伝えることが出来ない大人の童話でもある。「ICUの天井スライム」は、彼女の心の中にある生と死の想いを異質な生物の目撃談で伝えた現代の寓話として読める。二話とも体験者からメッセージが強く伝わってきた不思議体験談だった。

また、奇談が生まれる瞬間と終了をユーモラスに読ませてくれた「カナダで滅亡を感じた話」と、最後に意味不明な恐怖がこみあげてくる「祖母が倒れたというおじさん」は漫画だからこその投稿だと思う。他にも漫画投書はあったが、この二話が特にインパクトがあった。

「座敷童といっしょにトイレに並んだ話」は心がほっこりした。そして読んだ後に誰かと座敷わらしと白い蛇との関係を考察したくなる、欠けているピースを探したくなる、私が大好きな不思議体験だ。

投書だから味わえる、商業ベースを意識しない原石のままだからこそのリアリティと、体験者が不思議な出来事で感じた生の想いが伝わってくるステキな体験談が多くあった。お時間があれば、投書された『不思議体験』の数々を読んでほしい。貴方の心に響く体験談が必ずあると思う。
私自身、異国の地アフリカの呪術に纏わる体験談を読めた「アフリカの呪術体験」に、怪談マニアとして興奮してしまった。


吉田悠軌・推薦作品

宇宙人セックス/tacaquito

<コメント>吉田悠軌

「私の不思議体験」というのはひじょうに良いタグだったと思う。ひたすら個人的な体験、それもふつうなら他人に語りにくい非日常・非合理な体験を告白すること。そこにこそ「怪談」というジャンルの萌芽があり、核心がある。
 怪談作家が体験者から取材するのではない。ふだん怪談と接していない人々が、自分自身の「不思議体験」を書き連ねる時、ふだんの文章書きとは違うチャンネルが求められる。それはSNSのつぶやき、会社の書類、あるいは日記とも小説とも異なる文章だ。
「私」(=社会に生きる個人)の「不思議」(うまく理解しえない非合理)な「体験」(でも確かにわが身に起きた出来事)を、合理的解釈に回収することなく、ある面では現象そのままに記述し、ある面では自分の視点による編集を経て、他人に提出して読ませる。

 私・吉田の選評では、それを誠実に行おうとしたものを候補作として選んでいった。状況・内面の描写バランスがとれているもの、かつそれら描写が具体的で細やかであるもの。また「痕跡」「予兆」で終わらざるをえない不思議体験に、適当な解釈や結果を求めず、そのまま「痕跡」「予兆」の面白さを活写したもの。言い換えれば、「私の不思議体験」を誠実に人に伝えようとしたからこそ、怪談語りの本質にうまくたどりついた作品に目を引かれた、ということである。


募集期間中の4月24日に実施したトークイベントはこちら(有料記事)。


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