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第10話 豪華客船クルーザーでのフェス行ったことある?あたしはあるよ。

Today's Album
Wavves 'King of the Beach'

第1話 不思議の国ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカへいざ出陣(みんなの文藝春秋でも取り上げていただきました) 

  実は自分がメインで歌っていたParakeet(パラキート)と言うバンドも、ヤックと並行して密かに2009年から活動していました。先のソロアルバム「ももはじめてわらう」はその音楽活動の集大成でもあります。パラキートでは3人、もしくは4人のバンド編成で、私が状況に応じてギターを弾いたり、ベースを弾いたり、サポートメンバーは固定せず、入れ替わり立ち替わり。ドラムはほぼ相方Jが勤めていました。国内外でアルバムを2作品ほどリリースし、ツアーもイギリス、ヨーロッパ、アメリカ、日本とさせて頂けました。バンドのほとんどは売れない訳ですが、まず業界がバックにつかないのでいいライブやツアーもやりたくても出来ないのです。PR会社だって何らかのインセンティブがないと雇われてくれません。レコード会社からリリースするにも評判が大事です。パラキートは辛うじていい機会を頂けたのですが、ヤックとパラキートの格差はどえらかったなぁ。一度どこかの雑誌かなんかから私個人宛にインタビューを受けた時、ヤックとパラキートはあなたにとってどんな存在ですかと聞かれたことがあったが「ヤックは私の母親で、パラキートは私のベイビーです」と我ながら100点満点の答えに当時のマネージャーKからもサムズアップをいただきました。
 アメリカはカリフォルニアからローファイサーフパンクとしてヤックと同レーベル、ファット・ポサムから2009年デビューしたWavves(ウェーヴス)とは2012年のウィーザー・クルーズで初共演したのがきっかけで仲良くなりました。以後来英の際にはパラキートをメインサポートとしてよく呼んでもらったのでした。Weezer(ウィーザー)は90年代ブームになったパワーポップの火付け役で、グラミー賞なんかももらってしまったアメリカのメガロックバンドです。そんなウィーザーが主催、演奏する豪華クルーザーのフェスにヤックも招待されたわけです。そう、コロナでも話題になった豪華客船でございます。その時のメンツはWeezer, Dinosaur Jr, Sebadoh, Ozma, The Antlers, Wavvesなどほぼほぼアメリカンなラインアップでした。
 1月19日カンカン晴れのマイアミから出航。途中カリブ海に浮かぶメキシコの島コスメルへ停泊、3泊4日の日程でした。サンセットをバックに屋外のデッキステージでまずはウィーザーの爆音と共にスタートしました。♪Holiday, Far away, let's go today♪
 この3日間の私たちの出番は3回ほど。ウィーザーはもちろん他のバンドはライブとは別にビンゴやらプールやら映画やらヨガやらのイベントを開催したりして就労されておった訳ですが、私たちは演奏以外は何も仕事がなかった訳です。こうなるとただの豪華客船カリブ海ホリデーでございます。この頃になるとヤックはまずまずな売れっ子でしたのでね、私のキャビンはダブルベッドの大きめな個室で、タオルで折られたクマだかなんだかがウェルカム的な感じでベッドに飾られていました。室内の丸い窓からはメキシコ湾が見え、かなたにはキューバがありました。

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屋外デッキステージ
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「できればドラムキットとベースアンプをウェーヴスさんから借りられたらいいんですが…」

「それなら搬入の手伝いくらいはお願いしたいところです」

「もちろん、何でも手伝います」

ウェーヴスのツアーマネージャーDからの威圧的なやりとりの後、何とかツアー用の機材を確保出来きました。日本と違い、海外は箱に備え付けのアンプやドラムがないので、自分たちで持っていかなくてはいけない。たとえギャラの少ないサポートバンドでもそれは同じ。2015年ワーナーブラザーズからリリースされたアルバム「V」のプロモーションで数年ぶりのUKツアーを回るウェーヴスにパラキートが同行することになりました。とっても嬉しいのだけれども、なんせギャラが鼻くそだから色々なことを交渉、やりくりしないといけない。
 パラキートにはエージェントやマネージャーが付いておらず、私が向こうのエージェントやマネージャー、プロモーターとやり取りをしなくてはならなかった。さてヴァンを借りるバジェットもないから〜機材はウェーヴスに借りなきゃ〜ねぇ〜。マネージャーDに嫌がられながらもとりあえず一番の難関はクリアしたから、どうにか箱までたどり着けられれば演奏はできる。ローバジェットですから、必然的に一番安い「コンパクトカー」と呼ばれる軽サイズの車を借りることにしました。そして当日レンタカー会社から充てがわれたのはまさかのフィアット500だった!ご存知の通り、フィアット500は極小おしゃれイタリアン車であります。バンドの長距離ツアーには超不向きのシティー向け。燃費はいいけど高速ででっかいトラックに煽られること間違いない。つかギターとベースとスネア、シンバル、ギターアンプこれに全部乗るの?

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当然ホテル代も出ないので、友達とか知り合いの所に転がりこむか、超格安ホテルに泊まるかになる。だからなかなか永いツアーは出来ないのだけれど、ちょうどこの時はリーズ、エジンバラ、グラスゴー、マンチェスター、バーミンガム、ロンドンと短めの日程だったので、何とかいけた!そのうち3日間を友人宅でお世話になりました。本当にありがたい。バーミンガムからはその夜にロンドンへ向かって帰ったから実質ホテルに泊まったのはグラスゴーのみだったと記憶する。
 2年ぶりにウェーヴスのメンツに再会した。最後に会ったのは2013年ロンドンでパラキートとの初共演の時だったかなぁ。その時は盛り上がりまくって皆でモッシュした。そんな事を回想しながらリーズのベルグレーブ・ミュージックホールへ到着しました。ウェーヴス御一行は会場のステージでサウンドチェックの準備中でした。「ヘイー」と手を振るとギターヴォーカルのネイソンは「カムヒア、ユー!」と手招きし満面の笑みで両手を広げ私を抱え上げました。数年前はヒョロい少年の面影が残っていたのに、急にがたいもよくなって、タトゥーも増えた気がしないでもない。ほんまイケメンなりはって〜時の移り変わりやら人の縁やら人生やら、何だか感慨深く貧乏ツアーがスタートしました。

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Wavves at Weezer Cruise

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「それ何のペダル?ディレイとかも使ってるの?」
ネイソンはステージに上がる準備をしている私に話しかけました。お酒に酔って私が揺れているのか、船が揺れているのかよく分からなかったが、多少気分が悪かった。そんな時に急にネイソンに話しかけられたので、ぶっきらぼうに返事をしてしまった。他のメンバーには絡んでいないし、何だか照れた事も理由だった。当時ウェーヴスのヴォーカルのネイソンはメンバーと喧嘩してツアーキャンセルしたと言う逸話の持ち主だったので、なかなか評判が悪かった。「めんどくさっ」と思ってしまった私を察したのか、彼はヤックのライブを見に来たとか何とか言って、ささっと立ち去って行きました。そっかそうなんだ、意外にかわいいじゃんとギャップ萌えしました。
 屋外のデッキステージでのウェーヴスのライブを前日に見ていました。当時ローファイサウンドが流行っていて、ファット・ポサムのレーベルメートという事もあって、ヤックボーイズは彼らを何となく意識していました。その時のウェーヴスの印象はスクールバンドでした。とにかく音が若くてラフ。当時まだ3人編成でシンプルな生音で勢いだけという感じだったかなぁ。タティー・デヴァインという東ロンドンのアクリルアクセサリーブランドがあります。このツアーの出発前に彼女たちから私に好きなアクセをプレゼントしていただけるという事で、ブリックレーンのお店に寄ったことがありました。彼女たちはその時に
「ウィーザー・クルーズに遊びに行くのよ!ヤックも出るし、ウェーヴスも出るし、超たのしみなんですけど!」
とノリノリだった。ウェーヴス人気やなぁとその時も思った事を思い出しました。
 以降ネイソンとは船内ですれ違う時に軽く挨拶する程度だったけど、事件は最終日の夜に起こりました。
 ライブやって、ダイナソーとかウィーザーのライブを見て、デッキで日向ぼっこして、プールで泳いで、夕日を見て、コスメル島で半日観光して、そんなホリデー三昧の毎日が続いた最終日、私たちはクルーザー最後のライブを日中、屋外のデッキステージで演奏しました。快晴の強風できっと音もまだらだったのではないかと思います。その日ちょうどサウンドマン兼ツアーマネージャーのルイスの誕生日でした。その前日コスメルにて彼はちょっといいテキーラを購入しておりました。ダニエルは
「今日はあそこにいるサウンドマンのルイスの誕生日だから、みんなウイスキーでも奢ってあげてよ」
とウォータースライダーの天辺に居るルイスを指さしました。歓声の中、彼は可愛く中指を立てて返答してくれました。
 ルイスはいつでもノーパンで毎日新しいソックスを履きます。洗ったソックスは履きません。暑い時はジーパンを切って短パンにしていたので、たまにポロリします。Tシャツは腕がキツイので袖の部分を大きく切り取り、腹の方まで空いているので、ピアスの刺さった両乳首が丸見えです。コリアとアメリカのミックスのルイスの肌は欧米人とは違ってとても張りがあり、スベスベです。そしてむきむきの腕には所狭しとタトゥーが刻まれています。柔らかなダークヘアーは肩より長く、ヒゲも仙人のように蓄えています。しかし、脇毛はいつでも綺麗に剃ってありました。苗字はラブリーで、芸名ではありません。そしてゲイでもありません。無類の女好きです。私も尻を叩かれたことがありました。簡単に言うと癖のあるヘビーロックのアホなじじいです。
 演奏中のMCでこんなことを口走ったことがきっかけで、ルイス卓にはじゃんじゃんウイスキーが届いたようでした。ラストの曲が終わるや否や、ルイスはウイスキーを一気し、テキーラのボトルを片手にウォータースライダーへジャンプ。
「俺の仕事はもうおわった!」
と言って私たちの機材搬出も手伝うことなく、それから狂ったように酒を煽り続けたのでした。
 私はその夜、誰もいない美術館や満点の星空の下でロマンチックデートを楽しんでいたので、ルイスの悪行は翌日ジョニーから聞きました。出演者が下船の為に皆ロビーに集まっていましたが、ルイスの姿はありませんでした。一人部屋を独占してしまったルイスはまだ寝ているとのこと。ドアをノックしても無反応らしく、私たちはなす術もなく彼を置いて下船しました。私たちはその日マイアミの箱で引き続きダイナソーJrとのライブがありました。彼がいないと行く先がわかりません。下船してからしばらく待っているとルイスが現れました。鼻の付け根にかさぶたができていました。彼はまだ酔っているようでふらふらと私たちを連れて専用のバスに乗り込みました。
 あれからルイスはテキーラのボトルを空けたようで、夜も更けてくると彼らはプールサイドへ辿り着きました。ルイスはおもむろにプールに入っている女性の胸をずっと揉んでいたそうです。不思議とルイスも女性も何事もないような涼しい顔だったそうです。そして一行はカジノ辺りでウェーヴスの一行と交わりました。そこでルイスは一方的にネイソンに絡み、やんちゃなネイソンも黙って見過ごすわけには行けません。ネイソンにど突かれて顔面から綺麗に倒れたらしいのです。鼻の付け根のカサブタはその時に自分のメガネでできた傷らしいです。


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Jonny and I
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 数年ぶりのイギリスツアーにウェーヴスファンはまちに待ってましたと言わんばかりの盛り上がりようで、特に今回はロンドンをのぞいて北の都市ばかりで、南部のイギリス人に比べると北部の人たちはフレンドリーでノリがいいと言われています。ウィーザークルーズ以降もう一人ギタリストを加えて4人編成となった彼らは厚みのある大人なロックサウンドになっていました。まさにかつてのウィーザーを彷彿させます。
 前にも言ったように今回はスタッフが付かないツアーなのであまりハメははずせません。向こうのツアーマネージャーDとも対面し、色々と気を使う私にネイソンは
「お前が虐めたから怖がってるじゃないか!」
なーんて私に荷物も運ばせません。こうゆうコミュニケーションもいいもんだねぇ。と言うかこのツアーをきっかけにマネージャーDと仲良くなってNYでのパラキートのライブも遊びに来てくれたりして、仕事上ウェーヴスを守ると言うだけのことなので、私たちがくそではないことがわかると、持ち前のマネージャー気質で私たちのお世話もしてくれたのでした。
 最終日ロンドン、カムデンのエレクトリックボールルームでのライブも大成功でした。パラキートとしてもあの日のライブが、過去一番くらいの出来だったかもしれない。ウェーヴスの最後のステージも裾から見ていましたが、やっぱりみんなかっこいいね。いいバンドだわ。こりゃ人気のはずよ。あー楽しかったなぁ、名残惜しい!一緒に何箇所か回っていたオープナーのバンドと、3バンドが集まり、ウェーヴスの楽屋でどんちゃん騒ぎが始まりました。モクモクしてるのはもちろん、ビールの缶に穴を開けて一気飲みしたり、私はネイソンからウィスキーを頂きながら
「そういえば、ウィーザークルーズでルイスに絡まれたって聞いたけど覚えてる?」
「ああ、あれね。ほんとひどいよ、ルイスがめちゃくちゃに酔っ払ってて絡んできたから〜。ああなってしまってしょうがなかったんだよね〜」
 あーほんとバカだねーなんて笑いながら、私たちはひとときの交わりや人生の気まぐれさを肴に、美味しいお酒をたくさんいただいたのでした。終わり。

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今日のアルバム
キング・オブ・ザ・ビーチ ウェーヴス 2010年

カルフォルニアの爽快感溢れるこのアルバムはエッジが効きまくっていながらもポップでキャッチー。一瞬、表層的かと思うとプロダクションもアレンジも目眩くと言う感じで面白い。何度もしっかり聴き込めるいいアルバムです。キング・オブ・ザ・ビーチと言ってしまうところもセンスいいなぁと思う。あの頃のファット・ポサムのリリースの中で一際輝いていたと思う。今でも気分が高揚する作品。この夏また聴きたいねー。


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作者について
土居まりん a.k.a Mariko Doi
広島出身、ロンドン在住。ロンドン拠点のバンド、Yuckのベーシスト。ヤックでは3枚のスタジオアルバムとEP、自身のプロジェクト、パラキートでは2枚のスタジオアルバムとEPをリリースした。
ピクシーズ、ティーンエイジ・ファンクラブ、テーム・インパラ、アンノウン・モータル・オーケストラ、ザ・ホラーズ、ウェーブス、オールウェーズ、ダイブ、ビッグ・シーフなどと共演しロンドンを拠点に国際的にライブ活動を展開している。
2019年初のソロアルバム「ももはじめてわらう」を全セルフプロデュースでDisk Unionからリリース。モダンアートとのコラボ楽曲など活動の幅を広げている。

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